赤い彼岸のコトリバエ

六道清田

第1話 血臭い青春

ピピピピピピピピ

「ふわぁ〜...」

陰鬱な電子音に脳を駆り立てられ、小鳥が日常を謳うように、異常を隠し目を覚ます。

ベッドから降り、テレビをつけ、朝食の準備を始める。

「おっ、アサ飯か!」

こいつはニブ、三つ目の烏の見た目をした銃の権能者。

「メシ!メシ!」

こいつはビナー、三又の黒猫の見た目をした爆破の権能者。

「ニブもビナーも静かにしろ、ニュースが聞こえない」

[先日行方不明となっていた菅原美琴さんが今朝発見されました。胴体だけが消えており、警察はこれまでの木村神社バラバラ殺人事件・山麓港バラバラ殺人事件・神坂高等学校バラバラ殺人事件と同一犯とし捜査を続けています。]

「俺らのこと載ってるぞ!アサ!」

「キヒヒヒヒ、アサって随分悪趣味だよな」

「バラバラにしてる意味を気づくやつはいついるんだろうな。」

机に二食分...ニブとビナー分の飯を机に置き、粥を手に"彼女たちに会いに行く"

キィィィィィ

小屋の扉を開けると、乾いた鉄の匂いが鼻を突き、時計の針だけが寂しく時を刻んでいた。

「会いにきたよ。新入りとは仲良く出来てる?いじめたりしてないよね。」

「キヒヒヒヒ、やっぱアサは異常者だよ。胴体だけになった女をフックに引っ掛けて話しかけるなんてよw」


小屋の中は乾いた鉄と腐臭の混ざった匂いがして、ハエが鬱陶しいほどに羽音を鳴らし、時間だけが腐らずに残っていた。


「けひゃひゃ、だがその残忍性も、血も涙も、優しさもない性格ーー俺らは大好きだぜ」

「何を言ってんだニブ、俺は四肢と頭蓋という蛇足どもを取り外して真の美しさを彼女らに与えてるだけだ。優しいだろ?」

「その蛇足を俺の力で消してくれないのはなんでなんだ。その方が都合がいいだろ」

「ビナーは僕と違ってあんま力を使ってくれないもんな。けひゃひゃ」

「あんなド派手な力使えばすぐに犯行がバレるだろ。」

「サツにバレちゃまずいなら、証拠を消すべきだ」

「それに、ああやって証拠を少し残せば...美しい素体を持つ警察が事件を担当するかもだろ?」


手に持った粥を、喉に流し込むように入れ食べさせる。その"口"から少し漏れた粥からは腐った鉄の匂いがした。


「キヒヒヒヒ、さすがアサ!残忍!無情!サイコパス!」

「けひゃひゃ、アサに会えてよかったぜ。」

「っと、時間は?」

「7:45?7:45!急がないと遅刻だ!」

「遅刻だ、遅刻。けひゃひゃ」

「じゃ、行ってくるね。」

キィィィィィ


「ふぅ...間に合ったな。」

閑散していたバスに乗り込み最奥の席に座る。

(なぁ、なぁ、やっぱここにいなきゃダメか?)

(バックの中は狭いんだが)

(ダメに決まってんだろ。俺は普通に生きたいんだ。おまえらが普通とは言わせない。)

[次は木村神社前〜、木村神社前〜お降りの際は降車ボタンを押してください]

(ここは確か最初の彼女と出会った場所じゃねぇか!)

(学校帰りに見つけたんだったな)

(あの素体は確かに美しかった。最後の最後まで美しかった)


[次は山麓港前〜、山麓港前〜お降り際は降車ボタンを押してください]

(誰か乗ってきたぞ。アサのお眼鏡に合うか?)

(一人女性が来たな、どうだ?アサ)

(あれは無しだな。豊満な体にゃ興味ない)

(キヒヒ、削げたのが好きだもんな)

(けひゃひゃ、アサの好みとは真逆のデブ女w)

バスに漂う古い草木の匂いと、椅子の軋みがバスの最奥に居座る異常者の血生臭さと壊れた音色を包み隠す。 

日常に、隠れた異常を誰も気づかぬまま

[次は、神坂高等学校前〜神坂高等学校お降りの際は降車ボタンを...ピンポーン。次神坂高等学校前止まります]

(行くぞ、ニブ・ビナー)

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