Dearest, now departed.
青木幹久
第1話
拝啓、今は亡き君へ。
もし天国というものが存在して、君が天国に行けて、この手紙を読んでいるとしたら、ごめんなさい。私は天国には行けません。
私はあなたを取り戻すために、あまりに多くの罪を重ねてしまった。きっと地獄にもいかず、一生時間の狭間を彷徨うことになるでしょう。ですがどうか、信じてください。私の行動はすべて、あなたのためを思ってしたことなのです。
だからどうか、あなたを殺したことを、許してください。
――
その少女の瞳は既に色を失っていて、もはや何も映すことはないのだろうということを直感的に感じさせた。
少女の色素の薄い唇からは呼気を感じることが出来ず、その薄い唇で誰かの名前が呼ばれる事はもうないのだろうと、静かに悟る。
そう思うと僕は、あまりにもその少女が不憫で、可哀想に感じた。
しかし僕はその少女に慰めの言葉を言うことも出来ずに、ただ乾いた喉を動かすことしかできなかった。だが、もし仮に言葉を発することが出来たとしても、何を言おうとこの少女に届くことはないのだろう。そう思わせるほど、その少女の『死』の輪郭は、はっきりとしていた。
涙で歪む視界の中、僕は無理矢理に体を動かし、少しでも少女の元に近づこうとアスファルトの地面を這いずる。
しかし動かせるのは左足だけで、なぜか右足はまったく動かなかった。首だけを足の方向に向けると、僕の右足は辛うじてズボンの生地だけを残し、ほとんど原型をとどめないほどに潰れていた。
右足からは大量の血が出ているが、痛みは全くと言っていいほど感じなかった。
それでもなんとか少女の側まで近づき、その艶やかな長い黒髪を弱々しく撫でる。その黒髪に着いていたヒマワリの髪飾りは、少女から少し離れたところで無残にひび割れていた。
少女の体を見ると、白いワンピースは血で赤く汚れ、その血の流源には、車の破片のような物が深々と、少女の柔肌に突き刺さっている。
その少し前方では、大型のトラックが電柱を押し曲げて大破していた。
僕は人形のようになった少女の手を握り、薄れゆく意識の中で、何回も何回も少女の名前を呼んだ。
それに対する返事は、雨に打たれるアスファルトの悲鳴だけだった。
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