「夜明けの空にまいた種」

菜の花のおしたし

第1話 蕾

そらのそらのそらのそらが明けてくる頃の出来事でございます。 


そらのそらのそらには

お釈迦様がおられました。

お池には蓮がたくさん浮かんでいるのでございます。


小さな天女達はこのお池の蓮のお世話係でございました。

「ほら、みてみて。この蓮のここ。きっと蕾ができるわ。」

「うふふ。こっちもよ。あらあら、ふたつ一緒みたい。」

「楽しみね。」


お世話と言うのは、優しく語りかけてあげること、優しい歌を歌ってあげることでございます。

あとは邪気から守ることでした。


蓮の蕾がちょこりんと顔を出しますと、天女達はそうっと両手の平を差し出します。

すると、まだ硬くて開くことはできない蕾がぽろりと落ちて参ります。

蓮の葉で編み上げた籠にそうっと入れていきます。


「さあさあ、鬼子母神様のところへ参りましょ。大切な大切な蕾さん。」

小さな天女達はうきうきした気持ちで鬼子母神様のところへ急ぎます。


「鬼子母神様、今日はこんなに蕾が落ちました。どうぞご覧になって下さい。」


「どれどれ、今日の種蕾はどうかしら?」

鬼子母神様は優しくひとつを手に取られひかりにかざしてご覧になります。


「まあ、可愛い蕾だわ。この蕾は桃色のほっぺで皆んなに可愛がってもらえるわ。

こちらは、体を動かすのが大好きな元気な蕾ね。」

などとおっしゃって、それはもう楽しそうでございます。

小さな天女達も嬉しくてウキウキして鬼子母神様の周りをひらひらと舞っています。


ある蕾を手にされた鬼子母神様のお顔が曇りました。

「ああ、この蕾は邪気に災難を植え付けられてしまった、、、。 

可哀想だが送り出してやらねばならぬ。この蕾を育てる者は蕾を咲かせることはできても枯らしてしまう。こちらの蕾もだ。花は開くが毒の香りで皆を苦しめることとなろう。

やれやれ、この蕾は清らかすぎたのだね。他の蕾に栄養を分けてしまったのだろう。

形がいびつになっているわね。弱い蕾だけど意味がある。きっとね。」

小さな天女達は、邪気に苛まれた蕾がどうなるのかはわかりません。

わかるのは鬼子母神様とお釈迦様だけです。


「鬼子母神様、どうかお助け下さいまし。」

天女達は鬼子母神様に手を合わせて願います。


「何度も言って聞かせておるじゃろ?これも蕾の天命なのだ。お前達のせいでは無いのだよ。わらわが出来ることは無いのじゃ。

ささ、この蕾達を地へと蒔きなさい。お前達の役目を果たしなさい。」


「邪気なんか無くなればいいのに。どうして邪気が生まれるんでしょう。」

「わからないわ。蕾達がみーんな大切に育ててもらって大きな花になって欲しいのにね。」

小さな天女達はひとつひとつを地へと放ちます。

「幸せにおなり。」と祈りながら。




蕾は地に落ちて、人間の女の中で育つのでございます。

桃色の蕾は女の子でした。ぷくぷくほっぺの愛らしい赤ちゃんでした。

体を動かすのが好きな蕾は、大きな泣き声で手足をバタバタする元気な男の子でした。

殆どの蕾はお母さんとお父さんや周りの人に祝福されて、幸せに育てられましたので、それはそれは見事な花を咲かせました。


鬼子母神様の心配していた蕾達は、厳しい道のりが待っていました。

祝福されない蕾達は小さな弱い花を開かせましたが、枯れてしまいました。

邪気の災難を強く受けた蕾は、人の道を外れて、悪臭のする花を開きました。

いびつな蕾はいびつな花を咲かせました。


しかし、鬼子母神様が邪気に苛まれた蕾と言った蕾の中にも運命を切り開いて

白いそれは清い花を咲かせたものもいました。いびつない蕾も助けられて花を咲かせていました。


お釈迦様は全てをご覧なっておられました。

「ああ、あの蕾は邪気に負けないで清らかな花を咲かせた。人間とはわからぬモノだ。」


お釈迦様は祝福されずに枯れた花を静かにお池に戻しました。

「わたくしのそばでおやすみ。そして、また蕾になりなさい。わたしの近くならば邪気には触らせない。安心して育ちなさい。そして、今度は地に舞い降りて愛されて花を咲かせなさい。」


お池はあたたかくて、ゆらゆらして居心地の良いところでございましたから、枯れた花も

安らいで眠りにつきました。



おしまい















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「夜明けの空にまいた種」 菜の花のおしたし @kumi4920

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