第3話「I’m from Japan ①」
碧い海と白い雲──その狭間を切り裂くように、一筋の飛行機雲が走る。
沖縄の空は、まるで戦闘機のためにあるかのようだった。
──ここは、沖縄県那覇市・航空自衛隊那覇基地。
民間の那覇空港と隣接・共用する形で運用されており、南西方面──中国、台湾、南シナ海への防空・迎撃の最前線として戦略的に重要な基地である。
日本が世界に誇る空の拠点。五つの空挺隊の中でも最精鋭とされる第一空挺隊。
その一番隊を率いるのが、神凪裕二だった。
この日、那覇基地には国際的な視察団が降り立っていた。手厚い歓迎を受けたNASA視察団は、案内を受けながら最新鋭戦闘機が眠る格納庫へと向かう。
──零式XF-13〈ツクヨミ〉。
日本の技術を結集した、初の宇宙対応戦闘機。
スピード、耐久性、操作性、いずれも他国の追随を許さない。まさに“空を制するための技術の結晶”だった。
最新のAI制御装置を搭載し、無人航行・自律戦闘が可能とされている。
「……これがあれば、パイロットはいらないんじゃないですか?」
管制官リサが、思わず呟いた。
「まだ試作段階ですので、本格運用にはもう少し検証が必要です」
「テスト航行は可能ですか?」
「軽い航行程度なら、すぐにでも」
NASA一行は、その言葉に頷き、ツクヨミの試験飛行を見学することにした。
もし運用レベルが確認できれば、本格導入を視野に入れる算段だった。
管制室へ移動した一行。ガラス越しに、格納庫で動き出す機体を見つめる。
無人のまま滑走路へ向かうツクヨミ。その白銀の機体が陽光を反射し、まるで生き物のように輝いていた。
全員が息を呑む。束の間の静寂──。
『エンジン出力、点火!』
ガラスを震わせる甲高いエンジン音。噴射口の周囲で空気が歪み、光が揺らめく。
『ツクヨミ、発進!』
轟音とともに機体が動き出す。
初速から一気にフルスロットル、噴射口から青白い炎が走る。
瞬く間に空へと駆け上がるツクヨミ。その速度と安定性に、管制室から拍手が起こった。
「このあと、海上の空域を一周して戻ってきます。今回はテストなので、簡易飛行のみです」
モニターには、海上ルートを示す線が映っている。ツクヨミはそのルートを誤差なくなぞり、速度表示は──マッハ5。
有人機でマッハ3が限界とされる時代に、ツクヨミは圧倒的な精度を見せつけていた。
数分後、ツクヨミは帰還コースに入り、肉眼でも確認できる距離に戻ってくる。
「速度、精度ともに問題なし。あとは戦闘モードの実証ですね」
リサと上層部は満足げに頷き合う。
──その時だった。
滑走路に降りるはずのツクヨミが、基地上空を通過していく。
『ツクヨミ、航行ルートを逸脱!……制御不能! AI制御装置に異常発生!』
管制室が一斉にざわめき、モニターが赤く点滅する。
職員たちが慌ただしく操作卓を叩くが、応答はない。
「……中々、マズいですね」
リサは小さく呟き、表情に苦笑を浮かべる。
彼女にとってはトラブルもまた、興味深いデータだった。
「おい! 神凪隊長はどこだ! 至急連絡を取れ!」
指揮官の怒号が響く。
「おっ、いよいよ出番か」
スカウト担当の男が口元を緩める。
『神凪隊長は現在、海上での訓練飛行中。すでに現場へ急行中です!』
「神凪の機体は?」
『F-47改です。ツクヨミより性能は劣りますが、彼なら問題ありません!』
「……頼むぞ、神凪」
NASA視察団が見守る中、試験機ツクヨミが制御を失い、那覇の空を暴走する。
その異常な飛行軌跡の先に──ひとりのパイロットが向かっていた。
──神凪裕二。
彼の実力が、今まさに試されようとしていた。
第3話 了
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