悪逆女帝ヴィクトリアの戴冠~悪女と呼ばれた私が帝位を簒奪するまで~
猫乃あのね
第1話 宣戦布告はパーティーで
「ヴィクトリア! 今日この場をもってお前との婚約を破棄する!」
パーティー会場にリオンの声が響き渡る。
今夜は彼の18歳の生誕パーティーだった。
この国の第二皇子たる彼を祝おうと、この国の有力貴族も多く参列していた。
そんなお祝いムードを凍てつかせる突然の婚約破棄。
あちこちで固唾を吞む音。
全方向から私――ヴィクトリア・エバンズへと注がれる視線。
「……」
私は返事をする前に、リオンをジッと見る。
正確にはその隣にいる女――カトリーナ・オルコット男爵令嬢。
結い上げたサラサラのブロンドの髪。
華やかで愛嬌のある顔立ち。
男爵家には分不相応な金額がかかっていそうな――おそらくリオンからのプレゼントされた――ピンクのドレス。
三年前にはじめて会った時は、もっと田舎臭さが滲んでいたのに。
随分と変わったわね。
リオンに気に入られるため?
きっとそうでしょうね……いかにも彼の好みそうな恰好だもの。
努力したのね。
偉いわ。
褒めてあげる。
「おい! 何とか言ったらどうなんだ?」
「!」
リオンの苛立たし気な声に、私は少し物思いに耽りすぎていたことに気づく。
「ああ、婚約破棄の件でしたわね」
私は一瞬パーティー会場の出入り口に目をやる。
それから改めてリオンたちへ視線を戻して――
「――ええ、承りましたわ」
私の返事に、リオンもカトリーナも目を丸くする。
「なっ、お…本当にいいのか?」
狼狽しすぎたのか、リオンは念押しするように確認をしてくる。
その顔が変すぎて、私は失笑するのを堪えなければならなかった。
「もちろんですわ。それとも――」
その先を言う前に、私は扇子をを広げて口元を隠した。
だってこれ以上は本当におかしくて笑ってしまいそうだったから。
「――私がリオン様との婚約を惜しむとでも思いましたか?」
私が言い放った言葉に、俄かに会場がざわついた。
周囲の反応から数瞬遅れて、リオンは顔をカッと赤くする。
侮辱されたことにようやく気づいたようだ。
「お前……!」
表情を怒りに染めたリオンが何か言いかけた時――バンッと会場の扉が勢いよく開けられる。
大きな物音に驚いた会場の人々は、皆一様にそちらを振り返った。
全員の注目を集めながら堂々と入場してきた人物を見て、彼ら彼女らはきっと今夜何度目か分からない驚愕を覚えることになる。
「カイル皇子……」
誰かがポツリと呟いた。
カイルはこの帝国の第一皇子だ。
その登場に皆が驚いたのは、彼がこの数年間、表舞台に姿を現さなくなっていたためだろう。
その第一皇子がなぜここに?
招待客だけでなく、主催者のリオンや、カトリーナの顔にも同じ疑問が書かれている。
彼が現れた理由。
その答えを知っているのは私だけ。
「ヴィクトリア」
「殿下」
カイルからの呼びかけに、私は微笑みをもって答える。
私とカイルの間にあった人々は波のように割れ、自然とできあがった道を彼はコツコツと歩いてくる。
彼は私の傍に立つと恭しく手を差し出した。
私はその上にそっと手を重ねる。
「こ、これはどういうことだヴィクトリア!?」
リオンが怒鳴るように問うてきた。
私が答えたいところだったけれど……ここは視線で殿下に花形を譲った。
カイルは冷たい視線をリオンたちに投げかけて、
「私は今日この場をもって、ヴィクトリア・エバンズとの婚約を宣言する」
と、その場にいる全員の度肝を抜くような宣言を行った。
会場は堪えきれなくなった人々のざわめきによって、たちまちパニックに陥った。
第一皇子と第二皇子が犬猿の仲であることは、貴族の間では周知の事実。
しかし、第一皇妃亡きあと、第二皇妃が率いる派閥によって、第一皇子は表舞台から遠ざけられていた。
その第一皇子が急に表に出てきて、しかも第二皇子に捨てられた直後の私を婚約者に指名する。
これを偶然や、はたまた物語のようなロマンス劇と思う輩は貴族ではない。
この三文芝居の脚本を描いたのはもちろん私。
だって、これくらい分かりやすくないと
さあどうぞ受け取って。
私からの宣戦布告を。
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