第1話



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「野村、何を見てるんだ?」

「っ、え!?あ…いえ!何も見てません!」


いつもの慌ただしい職員室。

とあるショート動画を見ていたら、不意に背後から教頭に声をかけられた。

俺は直後に慌てて画面を切り替えるが…そんな俺に教頭が続ける。


「そんなことより、来月の“勉強合宿”の合宿先は決まったのか?赤点のやつら限定とはいえ、なるべく経費削減、安いところで探してくれよ」


教頭はそう言うと、俺の左肩にぽん、と手を遣ってその場を後にしていく。

…あ、危なかった…。

俺は教頭が行ったのを確認すると、パソコンの画面に再び目を戻した。


我が校では、教頭が言っていたとおり、期末テストが赤点だった生徒限定で「勉強合宿」が来月に行われる。

その合宿の担当にこの俺、数学担当の「野村」が任され、たった今パソコンで激安の合宿先を探していたのだ。

そしたらたまたま、さっきの奇妙な「中野宮オートキャンプ場」のショート動画を見つけ、ホラー系の話が大好きであるためついつい見入ってしまって…教頭に見つかってしまった今に至る。


…ま、どうせ誰かが作った創作話だろうし、在ったはずの土地が短時間で消えるなんて現象が起こるわけがない。

そう思いながらも、一応「中野宮オートキャンプ場」をネットで検索すると……


「…あった」


俺は、やがて一番上に出て来た「中野宮オートキャンプ場」のHPのリンクを見つけ、ワクワクしつつそれをクリックしたのだった────…。



******



勉強合宿当日。

夏休み中の開催ということもあって、空は日差しが強い太陽に、雲一つない青空が広がっている。

小型バスの乗車は、数学担当の男性教員である俺と、英語担当の女性教員である木葉先生このはせんせいの2人の教員を筆頭に、学年問わず計6人の生徒が乗車している。

もちろん、その中にはバスの中でお菓子を頬張るの姿もあった。


「ほら皆ー。あんま騒ぐなよ、修学旅行じゃねぇんだからな」


しかしバスの中で俺がそう言っても、生徒たちの興奮は収まらない。


「だって先生、あの中野宮オートキャンプ場に行くんでしょ!?オレ知ってるよ、動画で見た!」

「キャンプってアタシ初めてー!」

「ほんとに幽霊出るのかな?怖い!!」


……ったく。無邪気なもんだよな。

こっちは仕事だからせっかくの恐怖スポットを楽しむ暇なんてないっていうのに。

そんなことを思っていると、ふいに後ろの席から女子生徒の「佐竹さん」が俺の隣に移動してきた。


「先生、チョコ食べる?」


彼女の名前は、佐竹詩音さたけしおん

現在高校二年生。

田舎にある全校生徒たったの50人とかなり少ない東外沢高校の生徒で、彼女もこの合宿に参加しているということは、もちろんこの佐竹さんも勉強が出来ない生徒の一人なのだ。


但し、彼女は某探偵漫画の影響だとかで学校に内緒で「探偵部」とやらを立ち上げた。

普段勉強は大の苦手だが、前回の「優子ちゃん」の謎を解き明かした凄腕の探偵なのだ。


そんな彼女「佐竹さん」が差し出してきたのは、何とも可愛らしいピンクの包み紙に包まれたチョコレートだった。

ピンクの包み紙には真っ赤なハートがたくさん描かれている。


「先生♡そのハート、私の気持ちです♡」


なんて佐竹さんは言うが、どうせいつもの冷やかしだ。

彼女はこういう言葉を平気で言ってくる困った女子高生でもあるのだ。

俺は佐竹さんの言葉に「へぇ」とだけ返すと、そのチョコレートを口の中に放り込んだ。


…いや、甘!!?


「っ…どこに売ってんだよこんなに甘いチョコレート!」


俺がそう言うと、佐竹さんが言う。






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