全員参加サッカー
ユウグレムシ
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最近ニュースで騒がれている《全員参加サッカー》のチーム振り分け通知がうちにも来た。封筒を開けると、サッカーボールっぽいデザインの地球を囲み子供達が手を繋ぐ表紙のパンフレット。国連が推し進める社会改革キャンペーンの一環で、オリンピック参加資格を持つすべての国の全国民が、L(Liberty)チームとP(Peace)チームのいずれかへランダムに割り振られ、地球全体をフィールドとしたサッカーを時間無制限でプレーする。勝った負けた何点取ったの争いが目的ではなく、スポーツを通じて、プレーヤー全員が地球市民の自覚を持ち、自由と平和について考え、世界の広さを実感してほしい、というのが開催理念なのだそうだ。
俺が振り分けられたのはLチーム。リバティチームだ。
ニュース番組によると、《全員参加サッカー》は盛大なセレモニーをやりブラジルでキックオフしたが、LとP、どちらのチームのゴールも、開催が公表される前にこっそり設置済みで、どこにあるのか分からない。密林の奥地かもしれないし、砂漠のド真ん中かもしれない。そしてもちろん、どこにゴールがあろうとボールを運ぶのに手を使ってはならない。そこで世間の注目が集まっているのが、たった一個のボールの行方と、二箇所のゴール探しの動向だ。
ボールはGPSを内蔵しており、公式ウェブサイトからでも、SNSアカウントからでも、ほぼリアルタイムで位置を追跡できる。しかしチャンスが平等だからといって世界中の誰もがボールを蹴りに行こうとするわけではない。プロサッカー選手達はこぞって公式SNSアカウントをフォローしているものの、自分達の練習や試合が忙しくて、お遊びには直接加担せず見守っている感じ。いちばん積極的なのは、動画配信者、それもタチの悪い迷惑系突撃配信者だった。過激な政治的メッセージのプリントシャツを着たり派手なコスチュームを着た目立ちたがり屋どもが奇声を上げながらボールを巡って争い、さらにその周りを、もっと大勢の実況配信者が取り巻いて、ライオンに追い詰められた水牛の群れみたいに行き場のないまま蠢いている。こいつらが乱闘をおっぱじめないのは、予備のボールと審判を運ぶ装甲車に機関銃がついているからだ。
各国政府からチーム振り分けの通知をもらった人達の中には、ゴールキーパーに選ばれた人も当然いる。リバティチームのゴールキーパーはアメリカ人で、米国海軍の協力のもと(地球の表面積の三分の二は海だから)守備するべき自陣ゴールを探し回っているが、今のところ、自陣敵陣どちらのゴールも公海上では見つかっていない。
一方ピースチームのゴールキーパーは、本人の希望により国籍氏名とも公表されておらず、世界に二人しかいないせっかくのポジションを辞退してしまった。
“売名のためならなんでもするような恐ろしい連中が我先にシュートを狙って殺到してきたら、ゴールを守るどころか自分の命を守りきる自信がありません。仕事や日常生活を続けるにあたって「お前はキーパーのくせにゴールを探す気がないのか」と罵られたくもありません。スポーツで世界をひとつに、という理念には賛同しますが、いきなり地球市民にされても困ります。個人のプライバシーを尊重してください”
……SNSの声明ではこう述べている。
うちの近所にボールが来たとしても、俺は関わらないんじゃないかな?野次馬しに行くだけで世界中に顔が晒されるし。熱心なのは賭博とか宣伝とか下心のある奴がほとんどだろう。こんな状況、プレーヤーになったからって子供や年寄りが安全に楽しめるサッカーとは思えない。《全員参加ラグビー》も始まる予定らしいけど、余計なお世話だ。
全員参加サッカー ユウグレムシ @U-gremushi
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