第2話:暴走の代償

 仲間が傷つけられたという、ただ一つの事実。それが、せんの理性を焼き切り、心の奥底に封じていたはずの“何か”を呼び覚ましてしまった。


(仲間が……俺のせいで……?)


 仲間を傷つけられた怒りが、神原かんばらせんの理性のたがを外した。彼の拳に宿る青白い閃光は、もはや制御不能な破壊の化身と化していた


「――そこまでだ」


 地を這うような低い声が、閃の口から漏れた。

 仲間が傷つけられたことに激昂した彼の右の拳に、まるで生き物のように青白い火花が散り始める。

 その現象は閃の意思とは無関係に、まるでスローモーションのように展開されていった。


(やめろ……止まれ……! これ以上は……!)


 心の叫びも虚しく、力は制御を離れていく。


 バチィッ!


 視界が白く焼き切れるほどの、青白い閃光。銃を構えた幹部の男が、悲鳴を上げる間もなく黒い炭へと変わり、サラサラと崩れ落ちていく。鼻の奥を、ツンと刺激するオゾンの匂い。


 その常軌を逸した光景に、歴戦の勇者であるはずの圭吾けいご陽菜ひなが一瞬息をのむのが、閃には痛いほど分かった。彼らの目に映るのは、賞賛や安堵ではない。得体の知れないものを見るような、微かな恐怖の色だった。

 閃自身も、自らの拳を見つめ、戦慄せんりつしていた。


━━◆━━


 ――回想は、終わる。


 現在の倉庫。冷たい雨が、床に残る黒い炭の染みを、容赦なく洗い流していく。まるで、閃の罪を、後悔を、そして“消された”男の存在そのものを、この世界から消し去ろうとするかのように。閃は、ただそれを見つめていることしかできなかった。


「閃、こいつを見てくれ」


 いつの間にか、腕に応急処置を済ませた隼人はやとが、神妙な顔で閃に近づいてきた。その手には、黒く滑らかな質感の、奇妙な形状をした「暗号化された特殊記憶媒体」が握られている。


「押収したブツに、妙なものが混じってたんだ。米軍ウチのリストにも、奴らの取引リストにもない、全くの未知だ……」


 その物体を、いつの間にか背後に立っていた東雲しののめが、隼人の手から抜き取るように奪った。


「それは、お前たちが知る必要のないものだ」


 彼の声は、どこまでも冷たい。まるで、路傍の石ころにでも話しかけるかのように。


「今日の任務は完了した。それ以上でも、それ以下でもない。……お前たちは学園に戻れ。これは我々が処理する」


 何も語らずに去っていく東雲の背中を、閃は強い疑念を宿した瞳で見つめていた。あの記憶媒体は何なのか。なぜ、東雲はあんなにも焦ったようにそれを取り上げたのか。

 冷たい雨に打たれながら、閃の瞳には、拭い去れない後悔と、自らの力への恐怖、そして、自分が所属する組織への新たな疑念の炎が、静かに灯っていた。

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