第45話 作戦会議
深夜、アーナス夫人はそっとタカシの部屋を出た。ドアの前には、目つきの悪いメイドが立っていた。アーナス夫人はメイドを伴って自室へと戻っていった。
翌日、タカシはアーナス夫人に作戦会議への出席を求めた。アーナス夫人は、メイドを連れて使用人たちの食堂に現れた。作戦会議の出席者は、アーナス夫人、そのメイド、タカシ、セルマ、ミオ、メグの6名だ。メイドは夫人の後ろに立っているだけなので、会議に参加しているとは言えないかもしれない。
議題は当然、ディオス領地の防衛についてだった。
タカシはまず、現状を説明した。
「現在、この領地は深刻な防衛力不足に陥り、モンスターの侵食に成す術なく、これまでに17の村が壊滅または放棄されました」
この状況に対し、タカシは一つの提案をした。
「この状況に対抗するには、騎士3名、兵士30名ほどの戦力があれば可能だと考えています。これは、元S級冒険者で、自らの手で領地を拡大させたディオス男爵が残した兵力ですから、信用できます」
タカシはアーナス夫人を見て、話を続けた。
「我々で騎士3名分の役割ができると考えています。残りの兵士30名ですが、どれくらいの予算を出していただけますか?」
「予算と言われると、いくらくらい必要でしょうか?」
アーナス夫人が尋ねると、タカシは答えた。
「傭兵団を雇うなら、月金貨50枚ほどは必要になるでしょう。戦争中なので、もっと高くなるかもしれません」
アーナス夫人は困った顔をして言った。
「戦争には非常にお金がかかります。今回、ディオス軍は大きな損害を出しています。参戦した領民の家族に見舞金を支払わなければなりません。お金がないのです」
「報酬の上乗せはできませんか?」
「すみません。金貨10枚もやっとで…お気づきかもしれませんが、館の使用人の多くに暇を出しています。今いるのは後ろにいるイーアスと、新たに雇った村出身者数名です。それくらいに余裕がないのです」
タカシたちは、男爵家に財政的な余裕がないことは想像していた。B級冒険者パーティーを雇うには報酬が安く、にも関わらず領地の状況は切羽詰まっていたからだ。
「アーナス夫人。王都には多くの獣人奴隷がいます。獣人奴隷で兵30名分の穴を埋めることは可能です」
アーナス夫人は顔を真っ赤にして、激しく反対した。
「ディオス軍は獣人族に壊滅されました。その獣人族に領地を守ってもらうなど、あってはなりません!」
「しかし、どうにかして兵力を整えないと…」
「人間の奴隷はいないのですか?」
「戦争中です。男性奴隷は一番に戦地に送られています」
アーナス夫人はセルマを見て「女性奴隷はいるのではないですか?」と尋ねた。
「人族の女奴隷はいますが、家事や夜の相手をするための奴隷で、戦闘用はいません。料金も違います。人族は最低でも金貨3枚、獣人だと二人で金貨1枚です。お金がないのなら、獣人しか手はありません」
「それでも受け入れられません!」
アーナス夫人は大声で叫んだ。
「昨夜、覚悟ができたと思いましたが、だから……」
タカシがいい終わる前に、アーナス夫人の真っ白な手がタカシの頬を叩いた。アーナス夫人は席を立ち上がる。
「金はない、人はいない。それでどうやって領民を守るのです?だから『覚悟が必要だ』と言ったのです」
タカシがいい終わる前に、アーナス夫人はメイドと立ち去ろうとする。タカシは「協力が得られないなら依頼をキャンセルするしかありません」と大きな声で言った。アーナス夫人は立ち止まり、怒りで肩を震わせていたが、長い沈黙の後、席に戻った。
「絶対に、領民を守ってもらいます」
戻ってきたアーナス夫人は力強くそう言った。
「続けます。兵力が集まる3ヶ月の間、村人には一旦村を放棄してもらいます」
「なっ……領民を守ると言いました!」
「言いました。領民だけではなく、領地も守りたいと思っています。だから、兵力が集まる3ヶ月の間、退避してもらうのです」
アーナス夫人は怒りで爆発しそうなくらい顔を赤くしていた。セルマが間に入り、「アーナス夫人、村は奪還できますが、失われた命は取り戻せません。3ヶ月の間だけです」と諭した。アーナス夫人は、セルマの発言で怒りが収まり、冷静を取り戻したようだ。
「それでは、私が王都に戻り、奴隷の買い付けをします」
「あなたは駄目です。領地で指揮をしてください」
アーナス夫人は親の敵を見るような目でタカシを睨んだ。
「聞けません。私が買い付けをし、セルマが村人の退避指揮をします。適材適所です。セルマの方が経験豊富で臨機応変にやれます」
アーナス夫人は、怒りでまともに聞いていないかもしれないが、タカシは続けた。
「貴族用の馬車が1台、奴隷運搬用の馬車を2台用意してください」
アーナス夫人は返事をせず、「もし戻ってこなかった場合、地獄の底まで追いかけて、生まれてきたことを後悔するほど拷問をします。簡単には死ねないと思ってください」と呪いの言葉を言い放ち、立ち去った。
タカシは追いかけるように尋ねた。「馬車は用意してくれますか?」
「協力します!」
残されたタカシたちは、会議が思惑通りに進んだことに安堵のため息をついた。
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