嫌々ながら会ったお見合い相手が俺の人生を変えた
春風秋雄
まったく気のないお見合いだったのに
今回の女性も品のよさそうな、綺麗な人だった。服装のセンスも良く、清潔感が漂う上品な着こなしだった。まるでこの場所を下見にきていたのではないかと思うほど、このホテルのラウンジにマッチした服装だ。ただ、今の俺はそれどころではない。せっかく紹介してくれた月島株式会社の島社長には申し訳ないが、今回もお断りするしかないと考えていた。島社長に女性を紹介してもらうのはこれが3回目だ。
「沓名さんは、私には興味なさそうですね?」
俺がスマホばかりを気にしているので、向かいに座っている片桐尚香(かたぎり なおか)さんは少しむくれた顔をして言った。そりゃあそうだろう。お見合いといった堅苦しいものではないが、第三者を通じてセッティングしてもらった席なのだから、仮にその気がなくても初対面の女性に対しての礼儀には欠けていると自分でも思う。しかし、本当に俺にとっては、今はそれどころではないのだ。
「申し訳ありません。ここに来るまでの間に会社でトラブルがありまして、出来たら日を改めてもらえないでしょうか?」
「日を改めたら、私に興味を持ってもらえるのでしょうか?日を改めても同じではありませんか?」
俺は言葉につまった。片桐さんの言うとおりだった。日を改めても、今の俺の状況では結婚なんか考えられない。どうやって答えようかと考えているときに、携帯が鳴った。スマホ画面を見ると会社の立花からだった。
「すみません、ちょっと電話をしてきます」
俺はそう言って席を立った。人気のない場所まで行って会話をしようと思っていたのだが、気が急いて歩きながら応答ボタンを押した。
「立花、どうだった?」
立花からの回答は俺を絶望の淵に立たせるものだった。俺はラウンジの中ほどで足を止めた。
「そうか、仕方ないな。ご苦労だった」
俺は静かに通話終了のボタンを押して、スマホを上着のポケットにしまった。ふと我に返り、振り向くと片桐さんが俺の方を見ている。俺は片桐さんが座っている席に力なく戻って行った。
「お仕事の電話は、あまり良い内容ではなかったようですね」
片桐さんが冷静に言った。
「申し訳ありません。今回のお話はなかったことにしてもらえますか。私の会社は倒産の危機にさらされています。とても結婚とか考えられる状況ではないので」
「それはミツワ電機が今日不渡りを出したことと関係あるのかしら?」
「え?ミツワ電機の不渡りを、もうご存じなのですか?」
「3日前からミツワ電機が手形を落とせないということはわかっていましたよ」
「そうなんですか?」
いったいこの女性は何者なのだ?
「それで、ミツワ電機に納品するはずだった商品の引き取り手を探さないと、今度は沓名さんの会社が危ないということですよね?」
「ええ、その通りです」
「さっきの電話は次の納品先としてあてにてしていた会社から断わられたという連絡だったのじゃないですか?その会社は、そうね、ヨコイ電機あたりかしら?」
図星だった。
「どうして知っているのですか?」
「知っているわけではないわよ。沓名さんの会社のことを調べれば、それくらいの想像はつきます。それで、ミツワ電機に卸す予定だった商品は何なのですか?」
俺は商品名を言った。
「数量は?」
「600です」
「単価は20,000円くらい?」
「いえ、18,000円です」
「トータル1,080万円かぁ」
「納品と同時に決済は手形でもらう予定でしたので、その手形を割り引いて決済にあてようと考えていたものですから、今うちの会社は大変な状況なのです」
「納品する前でよかったですね。手形をもらっても不渡りになっていましたものね」
「その通りです」
「じゃあ、その商品、すべてうちの会社で引き取ります」
「え?」
「支払いは現金でしますので、納品され次第振り込みます」
「うちの会社でって、すみません、片桐さんって?」
「島社長から聞いていませんでした?私の父はカタギリ電機の社長、片桐幸三です。そして私は現在、カタギリ電機の常務取締役をしています」
俺は、声も出ず、口をパクパクさせていた。まさか、あの全国で数百店舗も展開している家電量販店のカタギリ電機の令嬢だったとは。
俺の名前は沓名忠幸(くつな ただゆき)。33歳の独身だ。親父が起こした沓名電機工業の専務取締役をしている。親父はほぼ引退状態なので、実質的に俺が会社の経営を担っている。親父の代には自社で生産した商品を卸していたが、近年では輸入商品や地方の工場の商品をメインで扱っている。会社規模はそれほど大きくなく、ちょっとしたトラブルがあれば、途端に倒産の危機に見舞われる会社だ。
親父と月島株式会社の島社長は幼馴染だ。業種は違うが月島株式会社は規模も大きく、島社長は経済界でも結構顔が利く人だ。そんな島社長には子供のころから可愛がってもらっていて、30歳を過ぎても結婚しない俺のことが気になるらしく、今までも無理やり二人の女性を紹介させられた。本当は断りたかったのだが、親父からも自分に合わないと思えば遠慮なく断ればいいから、会うだけ会えばいいと言われ、しぶしぶカジュアルなお見合いをした。
一人目に紹介してもらった女性はおとなしい感じの家庭的な人だった。これから年老いていく両親の面倒を見てくれそうな人だった。しかし、俺としては物足りなかった。俺は仕事のことも話し合えるような、活発な人が好みだった。二人目はとても綺麗な人だった。ただ、沓名電機工業の次期社長という肩書に期待してきたようで、会社の実情を聞いて、先方の方から断りがあった。島社長には、当分お見合いはいいですと断ったところ、2年近くは大人しくしていてくれていたのだが、先日、突然うちに来て、どうしても紹介したい人がいるので、一度会ってくれと言ってきた。相手方のお母さんは島社長の奥さんの親戚らしく、先方のお母さんから是非にという話だということだった。お見合いではなく、立会人もつけず、二人だけで喫茶店で会うだけでいいので、会うだけ会ってほしいということだった。親父は断りたかったら断ってもいいぞと、今までとは違うトーンで俺に言った。親父のその素振りが少し気になった。今考えると、親父は今回の相手の素性を知っていたからだろう。それでも島社長の熱意に負け、俺は仕方なく承諾した。島社長は、相手の情報はほとんど教えてくれなかった。名前は片桐尚香さんで、年齢は29歳。私立の女子大を卒業しているということだけ教えてもらい、スナップ写真を1枚渡されただけだった。笑顔で写ったその写真の印象が良かったので、とりあえず会うだけ会ってみようと思った。そして当日の今日、車で待ち合わせ場所に向かっている途中で、ミツワ電機が不渡りを出したという連絡を部長の立花から受けた。ミツワ電機は長年取引が続いている一番の取引先だった。支払い決済は手形だが、その手形を割り引いて銀行返済やうちが振り出した手形の決済にあてている。ただうちの親父は用心深い人なので、割り引いてもらった手形の満期日が過ぎないと次の手形はもらわないようにしていた。だから、今まで割り引いてもらった手形が不渡りになることはなく、裏書しているうちの会社に請求されることはない。問題は今月末の資金繰りをどうするかということだった。今回の取引は3か月前から進めていたので、ミツワの売り上げを見込んでうちの支払いは手形で出していた。ミツワからの支払いがなければうちが不渡りを出すことになると言う状態だった。
片桐尚香さんの行動は早かった。すぐに会社に連絡をして、倉庫スペースの確認をしている。電話を切ると、俺に倉庫の所在地をメモして渡してくれ、そこに納品するように言った。俺は会社に連絡をして発送手配を指示する。俺が電話を切ると、片桐さんはレポート用紙に手書きで「発注書」を書いてくれていた。そこには「商品名」「個数」「単価」「納品場所」が書かれ、支払い方法は「納品後3日以内に検品の後、振り込みにて」と書かれており、カタギリ電機株式会社 常務取締役 片桐尚香とサインしてあった。
「正式な発注書は今日の日付で後日送りますけど、とりあえずこれを差し入れておきます」
「いや、これでも立派な発注書です」
「こんな手書きの発注書を残してもらったらカタギリとしては恥ずかしいです。正式なものと差し替えてください。それと、早急に請求書を発行してください」
「わかりました。本当にありがとうございます」
「今日はバタバタしてしまったので、後日ゆっくり会いましょう。私の方から連絡しますので、連絡先を教えてもらえますか?」
「えーと、後日私の方から御社にお伺いさせてもらいます」
俺がそう言うと、尚香さんはポカンとした顔をしていたが、ニコッと笑って言った。
「後日会いましょうと言ったのは、仕事のことではないですよ。今日の続きを改めてということですよ。でないと島社長に何も報告できないじゃないですか」
「今日の続きですか?こんな私ですよ?」
「こんな私って、沓名さんのこと、まだ何も知りませんもの」
尚香さんは、笑いながらそう言った。その笑顔はスナップ写真で見た素敵な笑顔だった。
カタギリ電機からお金が振り込まれ、うちの会社は無事に月末の決済ができた。片桐尚香さんと、片桐さんを紹介してくれた島社長には感謝しかない。
そんな片桐尚香さんから連絡があり、次の土曜日に会うことになった。さすがに前回のように喫茶店でとはいかないので、食事を御馳走させてくださいと言うと、「喜んで」と応じてくれた。
「この度は、本当にありがとうございました。おかげでうちの会社の決済も無事にできました」
「お礼を言われるほどのことではありません。納品してもらった商品はうちのルートでは入手が難しい商品でしたから助かりました。それより、今日は仕事の話はやめましょう。島社長からは結婚相手として紹介してもらったのですから、お互いのことを知るためのお話をしましょう」
「そうですか。ところで尚香さんは、どうして私とお見合いしようと思ったのですか?カタギリの家と、沓名の家では雲泥の差があるじゃないですか?常識的に見て釣り合わないでしょ?」
「カタギリの家は長男の兄が今専務でいます。ですから私がカタギリの家のために結婚する必要はありません。だったら、家のためではなく、一人の女として、幸せになれる相手と結婚したいと思っただけです。ですから、家柄とかはまったく関係ないんです」
「なるほど、そうすると、島社長から私のことを聞いて、幸せになれる相手かもしれないと思ったのはどういうところですか?」
「それを今話すと、沓名さんは意識するでしょ?それに沓名さんが、私が思っていた通りの人かどうかは、まだわかりませんし、だから今は言わないことにします」
そのあと俺たちは、お互いの趣味の話や、好きな音楽や映画の話をした。尚香さんとの会話は楽しく、ひとりの女性として魅力を感じた。しかし、カタギリの家と親戚になるというのは、恐れ多いようで、逡巡せざるを得なかった。
島社長は、どうして二人の縁談をセッティングしようとしたのだろう。尚香さんのお母さんが是非にと言っていたというのも不思議だが、そもそも、島社長はどうして尚香さんにこんな不釣り合いな俺を勧めたのか不思議だった。
尚香さんは、毎週土曜日になるとデートに誘ってきた。土曜日に仕事が入っているときは、翌日の日曜日にするというパターンだった。
デートを3回、4回と重ねるうち、俺たちは打ち解けて、遠慮がなくなり、言いたいことを言い合えるようになった。その会話のやりとりがとても心地よく、こんな人と一緒に暮らせたら楽しいだろうなと俺は思った。そんなとき、営業部門から、新しい商品の仕入れについて提案があった。静岡県の下田市にある小さな工場で生産している商品で、まだほとんど世に出ていない物だという。営業の提案では、その商品を改良して子供向けの玩具にして仕入れたいということだった。工場まで行って、打ち合わせをしたいが、スケジュール的に土日しか空いていない。尚香さんに今度の土日は出張で会えないと言うと、どこへ行くのか聞いてきた。伊豆の下田だと言うと、尚香さんは目を輝かせた。出張の内容を細かく聞いてきたので、説明すると、面白い商品ならうちの店舗に置くから、一緒に出張へ行くと言い出した。カタギリの店舗で置いてくれるなら、うちとしても大きな利益になる。出張は尚香さんも連れていくことになった。営業担当は日帰りの日程だが、尚香さんがせっかくの下田なので1泊で行こうというので、俺と尚香さんはホテルを予約した。
現地の工場につき、サンプルを見せてもらった。確かに面白いと思った。尚香さんはじっくりその商品を見ながら社長さんと工場の技術者に細かい質問をする。そのうえで、ここをもう少しこうできないか、この部分は削って、その代わりここにこういう物を付けられないかなど、本格的な要望を出してきた。俺も営業担当も、そこまでは考えが及ばなかった。2時間以上の打ち合わせをしたが、ほとんど尚香さんが交渉したと言う感じだった。この人は本当に仕事ができる人だなと思った。
先方を辞して、営業担当が東京へ帰ると、尚香さんが行きたいところがあると言い出した。それほど遠くはなく、夕食前にはホテルに帰れるというので、ついて行くことにした。
一旦ホテルにチェックインしたあと、タクシーに乗って尚香さんが行き先を告げた。尚香さんが連れて行ってくれたところは、河原のような広場だった。おそらくバーベキューなどが出来る場所なのだろう。すぐそばに川が流れている。なぜか懐かしい気がした。
「子供の頃、小学校1年生くらいだったかな。母に連れられて、ここにバーベキューしに来たことがあるの。親戚の子供たちも何人かいた。島社長もいたの」
そう言われて、なぜかその映像が頭に浮かんだような気がした。
「従妹の子と川の浅瀬で遊んでいたら、私、足を滑らせて川にはまってしまったの。そしたら、流されて深い方までいってしまって。深いと言っても子供の腰ぐらいしかない深さなんだけど、私はパニックになって溺れそうになったの。そしたら、私より4つくらい大きい男の子が川に飛び込んできて、溺れかけている私を抱きかかえてくれて、浅瀬まで運んでくれた」
俺の頭の中でその映像がおぼろげながら浮かんできた。
「泣きじゃくっている私の背中をさすりながら、そのお兄さんは“もう大丈夫だから、もう大丈夫だから泣かなくていいよ”って、優しく言ってくれて。知らない男の子だったから、あとで母に聞いたら島社長の友達のお子さんだった」
今、鮮明にあの時のことを思い出した。小学校5年生の時だ。夏休みにどこか連れて行ってと両親に言ってもどこへも連れていってくれなかったと島社長に言ったら、島社長が気の毒に思い、下田の保養所に連れていってくれたのだ。島社長はうちの両親にも一緒に行こうと誘っていたが、仕事が忙しいと言って俺一人が行くことになった。保養所へ行くと、島社長の親戚なども来ていて、子供たちで遊んだ記憶がある。
「私、あの時のお兄さんがいなかったら、溺れていたかもしれない。だから、あの時のお兄さんは私の命の恩人なの。私はいつかその恩を返したいと思っていた」
そうか、尚香さんはあの時の女の子だったのか。
「島社長に沓名さんとお見合いしてみないかと言われたとき、お見合いなんかまったく興味なかった。そしたら島社長があの時尚香を助けた男の子だっていうから、興味をもったの。でも、いくら子供の頃に助けてくれた人でも、今はどんな状況かわからないので、忠幸さんのことや、沓名電機工業のことは調べさせてもらった。忠幸さん個人に関しては特に問題点はなかったのだけど、沓名電機工業の主要取引先にミツワ電機の名前があったので驚いた。ミツワ電機の経営は行き詰っていて、不渡りを出すのは時間の問題だっていう情報は入っていたから、心配したの。結婚云々に関しては、本人に会ってみないことには何とも言えないけど、場合によっては力になれるかもしれないと思って、島社長に見合いの話を勧めてくださいと言ったの。それから本格的に沓名電気工業の取り扱い商品などを調べたというわけ。でも、ミツワの手形満期日とお見合いの日が重なったのは偶然。お見合いの日が近づくにつれて、いよいよミツワは危ないという情報は入ってきていたけど」
「そうだったんだ。じゃあ、尚香さんが俺とお見合いをしたのは、子供の時の恩を返すためだったんだ」
「それもないこともないけど、本当はもっと違う理由があったの」
「違う理由って?」
「それは、こんどゆっくり話す。でもね、理由はともあれ、忠幸さんと会って、何回もデートして、ああ、この人は子供の頃から変わってないって思った。あの時のまま、優しくて、頼りがいがあって、私を守ってくれる人だと思った」
「そうかな」
「忠幸さんはどうか知らないけど、私、忠幸さんとお見合いをして良かったと思っている」
尚香さんはそう言うと、待たせていたタクシーへ向かって歩き出した。
ホテルに戻り、夕食を食べたあと、尚香さんはもう少し飲もうと言って、俺の部屋に来てルームサービスでワインとつまみを頼んだ。
「忠幸さんは、好きな女性の過去の恋愛とか気にする方ですか?」
「若い頃は気にしていたかもしれないけど、この年になると、そんなの気にしても仕方ないと思えるようになったね。だから尚香さんが過去にどんな恋愛をしていたかなんて、気にしないから大丈夫だよ」
「私は話すほどの恋愛経験はないから大丈夫ですよ。じゃあ、お父さんやお母さんのことはどう?例えばお父さんは、本当はお母さんよりも好きだった人がいたけど、泣く泣く別れてお母さんと結婚したんだとしたら?」
「まあ、そういうことあるかもしれないね。でも俺が見る限り両親は仲良くやっているから、仮にそういうことがあったとしても、そうだったんだで終わると思う」
「そうかぁ。うちのお母さんはね、本当はお父さんではなくて、他の男の人と結婚したかったんだって」
「それ、お母さんに聞いたの?」
「うん。うちのお母さんと島社長の奥さんは、従妹同士なの。その従妹が島社長と結婚してから、度々家に遊びに行っていたらしい。そこで知り合った島社長の友達のことが好きになって、その人と結婚したいと思ったらしんだけど、祖父母が片桐の家と縁談を決めてしまって、泣く泣くその人と別れて父と結婚したということなの。忠幸さんが言うように、今はそれなりに幸せなんだけど、その経験から私には本当に好きになった人と結婚してほしいと言っていた。それでね、その好きだった男性と、別れるときに、自分たちは結婚できなかったから、お互いの子供が男の子と女の子だったら、二人を結婚させたいねって言っていたんだって。もちろんその時は本気ではなかったんだろうけど、私が川でおぼれそうになったときに助けてくれたのが沓名忠幸という男の子だと知って、まだ小学校1年だった私に母は、将来はその忠幸ちゃんと結婚しなさいって言ったの」
「ひょっとしてお母さんの好きだった人って…」
「そう。忠幸さんのお父さん。本当はバーベキューの時に久しぶりに会えるかなと思ったけど、忠幸さんのお父さんは来なかったって言っていた」
そうか、親父は仕事が忙しくて行かなかったのではなく、母と一緒にいるところを尚香さんのお母さんに見られたくなかったのだ。
「だから、島社長に忠幸さんとのお見合いをセッティングするように言ったのは、うちのお母さん。島社長は忠幸さんのお父さんとうちのお母さんのことは知っていたから、躊躇っていたらしいけどね」
そういうことだったのか。
「さて、ここから本題です。私は今日話したこと諸々のことがあったから、純粋な気持ちで忠幸さんとお見合いしたわけではないです。でも、今は純粋に忠幸さんのことが好きです。生まれて初めてこの人と結婚したいっていう人に出会いました。忠幸さんさえ良ければ、私を忠幸さんのお嫁さんにしてほしいのですが、いかがですか?」
俺は、頭の中で色んなことがグルグル回ってすぐに答えが出なかった。
「ごめん、尚香さんのことは好きです。出来たら結婚したいと思っていました。でも、今日聞いたことがあまりにも衝撃過ぎて、少し心を整理してから返事をさせてください」
「そうだよね。うん、わかった。じゃあ、いい返事をまっているね」
尚香さんはそう言って俺の部屋を出て行った。
一人残された俺は、残ったワインを飲みながら気持ちを整理していた。尚香さんが子供の頃助けた女の子だったということは驚いたが、それはまだいい。尚香さんのお母さんと俺の親父が結婚前に付き合っていたということがショックだった。俺が尚香さんと結婚すると言ったら、親父はどう思うだろう?結婚して親戚となれば、親父と尚香さんのお母さんがこれから何度も顔を合わせることになる。親父は今回のお見合いに関しては「断りたかったら断ってもいいぞ」と言った。それまでは気に入るかどうか、とりあえず会ってみろというスタンスだったのに、今回だけはお見合い自体を断ってもいいぞと言っていたのだ。出来たら断ってほしかったのかもしれない。
でも、俺の本音はどうなのだ?
俺は親父のために尚香さんのことを諦めるのか?
俺はグラスに残っていたワインを飲み干して、立ち上がった。
部屋を出て、尚香さんの部屋に行く。ドアをノックするとドアスコープで確認したのだろうドアが開いた。尚香さんがジッと俺の顔を見る。
「さっきの返事ですが、私と結婚してください」
俺がそういうと尚香さんは、スナップ写真で見た素敵な笑顔で、俺の手を引き、部屋に招き入れた。
嫌々ながら会ったお見合い相手が俺の人生を変えた 春風秋雄 @hk76617661
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