始まり
俺が所属しているサッカー部は、全国常連の強豪……とかではなく、ほぼお遊びみたいなゆる〜い部活だ。今は、部活時間の半分を占める休憩時間の一部で、男子が盛り上がっていた。
「やっぱさ、三島さんとか深窓の令嬢って感じでいいと思うんだよ」
「いや分かってねぇな。美緒が一番女の子らしくていいだろ」
「いやいや、あの猛犬が可愛いとか、病院行ってこいよ」
「はぁ?」
今行われているのは、恋バナ。今日はちょうど女子マネが休みでせっかく男子だけなんだし、という理由で唐突に始まった。
「逆に、一番嫌いな女子って誰だ?」
部員の一人、
「お前なぁ、そんなの一人に決まってんだろ!」
「そうそう、アイツ以外ありえないよな」
コイツラはきっと全員同じ人物を思い浮かべていることだろう。クラス──いや、学校一の陰キャ女子と言っても過言ではない彼女……
「やっぱりそうか。宮野、一択だよな。すまんすまん」
宮野こころ。俺の幼馴染にして、俺の初恋の相手だ。保育園の頃から家が隣でよく遊んでいた。最近は話すこともなくなったけど、俺の片思いはまだ続いている。
「あ、良いこと思いついたぞ」
こんな状況で男子が思いつくことなんて、絶対に良いことじゃないだろ。そんな嫌な予感を胸に耳を傾けていると、案の定それは全く良いことではなかった。
「今からシュート対決して、負けたやつが宮野に告ろうぜ」
「おっ、良いな、それ! オモロそう」
「えぇ〜、俺ディフェンスなんだけど……まじ不利だわ〜」
一部不満を口にする人もいたが、結局シュート対決は行われる事になったのだった。もう少し頑張ってくれよ、ディフェンス勢……
◇ ◇ ◇
そうしてシュート対決が始まったわけだが、俺の心の中は穏やかじゃない。
もしコイツラが宮野に告白して、仮に宮野がOKしたら? もしそれでコイツラが宮野の魅力に気づいたら?
コイツラの隣で笑みを浮かべる宮野の姿が脳裏をかすめた。その瞬間、俺の胸を満たすのは一つの思い。
嫌だ。こんな奴らに宮野を奪われてたまるかッ! こいつらに奪われるくらいなら、俺が──
「うおおぉぉぉぉぉぉォォォォォ!!!!」
「やばっ。久田、全力過ぎ。流石に宮野が可哀想だわ」
嘲笑気味にそういった誰かの声すらも無視して、俺は思いっきり足を振り抜いた。ボールの中心を足の甲が見事に捉え、俺の得意な無回転シュートがゴールに吸い込まれる──
──なんてことはなかった。明後日の方向に飛んでいくボールを見て、俺はホッと一息ついた後、すぐに我に返り叫んだ。
「最悪だぁ! 力んじまったぁぁあ!!」
こうして、我ながら名演技だったおかげか、俺は誰からも怪しまれることなく宮野に告白するチャンスを得たのだった。
◇ ◇ ◇
「あのぉ〜、宮野さん? 僕はどこに連れて行かれてるんでしょうか?」
「良いからついてくればいい」
今、俺は宮野に連れられどこかに向かっていた。俺たちの家とは真逆の方向だし、まじこいつはどこに行こうとしてんだ?
「朝の手紙、君の?」
「あ、そうです……」
朝の手紙ってのは、宮野の靴箱に隼人が勝手に入れやがった手紙の事だろう。
「君、筆跡変わったんだね」
「そ、そんなに変わってたか?」
「私が君の筆跡を覚えてないとでも?」
その言葉に俺はドキッとした。宮野に字を見せたのなんて、もう数年前のことだ。それなのにコイツは俺の字を覚えていたってこと、なのか?
「今でも本棚に飾ってあるよ、君との交換日記」
「なっ、さっさと捨てろよ……」
交換日記ってのは、俺が小学校の時に宮野のことをもっと知りたいと思って始めたやつだ。中学になる頃に恥ずかしさから捨てようとしたのを宮野に奪われたんだったんだっけ……
そういえば、昔はお互いあだ名で読んだりしてたっけ。色々忘れてることあるなぁ……
なんて思っていると、突然宮野は立ち止まり俺の方を振り向いた。
「ここ、君は覚えてるかな?」
宮野の後ろには、公園があった。今の時代には珍しくも、滑り台とブランコと砂場しかない小さな公園。ここは、小中の時に俺と宮野がよく遊んだ場所だった。
「私は、あの時誓ったんだ。りゅーくんの為になることしかしないって」
あの時、が何時のことを言っているのかは分からない。だけど、「りゅーくん」と俺を昔のあだ名で読んだ宮野は、天使のような笑顔で言った。
「もし、もしも君が本当に私のことを好きなら、私は喜んで付き合うよ」
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罰ゲームでウソ告することになったんだけど、その相手が実は十数年間振られ続けてきた相手なんです。 黒兎 ネコマタ @123581321346599
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