第2回 #カップル初配信

「あれ?今日、カップルになって初配信……?」

仕事を配信に、間に合うようにマッハで終わらせ、スマホ片手に待機に成功したところで、さきはふと気がついた。

告白して以来の配信……。

二人揃って。

そういえば、昼間メッセージのやり取りをした時に「普通にできる気がしない。」と、ケンヂは(多分照れくさそうに)言っていた……。

「あっ、と……時間時間。」

そんなことを思い返していると、配信の時間になる。

ピコン、とスマホの通知が届き、『#同棲ラジオ』はスタートした。

「こんばんはー。」

りゅうの落ち着いた声が流れてくる。

「……こんばんは。」

(あ、ケンヂ緊張してるかも。)

普段から二人の声を聞いているさきには分かる。

二人ともどこか、ソワソワしていて落ち着かない。

(まあ、無理もないか。)

昨日、ケンヂはこの『#同棲ラジオ』で告白し、りゅうはそれを受け入れた。

尊い瞬間の目撃者になれたことは、心底幸せだ。

「あ!」

さきは、いつも配信のタグをチェックしている。

何かテーマがある時などは、タグに前もってりゅうとケンヂは書いてくれている。

そこには、『#初カップル配信』『#馴れ初めを改めて』と書いてある。

(いや、幼なじみだけど、あんたらは推し!推しがそんなこと語るの?!やばい!)

さきは、ベッドの上で悶え動けなくなる。

しかも、#初カップル配信は、美味しいワードが過ぎる。

コメントの中でも、昨日来れなかったメンツがザワザワしていた。

《え、何告白したの?!》

《どっちが?え?》

《初カップル配信??!》

さきは、そんな風に騒めくコメント欄を感慨深く見ていた。


はい、ありがとう──昨日私は目撃しました──。


そのコメントを眺めながら、少しの優越感に浸る。

「そうなんですよ。実は、昨日告白させていただきました。」

「ケンヂの告白、めっちゃ可愛かったので、アーカイブには残しません。」

《いや、残して!》

《頼みますー!りゅう様ー。》

さきは、お手本かのような流れのコメントに涙が出てきそうになった。

流石、今の今まで白なのか黒なのかソワソワ落ち着かない時期を一緒に乗越えてきた皆様である。

「まじ、アーカイブは俺の心の問題があるから。」

「ケンヂの精神衛生上ムリみたいなので、誰かに詳しく聞いてね。」

そう言いながら、りゅうはさりげなくソッとケンヂの手に自分の手のひらを重ねた。

《手!!!手、てててて!》

《神様ありがとう\(☆Д☆\)カミサマァァ》

と、コメントが続いて行くのを幸せそうに見てるのは、もちろんさきである。

ケンヂは、そのコメントを照れくさそうに笑って、反応は薄いが、りゅうはコメントを時折指さし、ケンヂに問いかけるようにしながら笑っている。

「ほら……見たいって。」

「絶対にダメ。」

りゅうは少しちゃちゃを入れるように、ケンヂの顔を覗き込む。

その仕草がまるでキスをする仕草のように見えて、さきは思わず枕を叩き続けた。

「幼なじみのりゅうとケンヂに、殺される腐女子ってなんなの。ここにいますけど!」

2人の間がらに加えて、モヤモヤしている時期が長かった。

あの長かった、友達とも恋人とも呼べない時期を抜けることができたのだ。

さきのただ単なる妄想ではなかったことが証明されていた。

「それで、今日は改めて今までのこととか話そうかなってケンヂと話してて。」

「俺らのことよく知らない人もいるだろうから、ちょっと話してみようって、りゅうと一致して。」




「ちょっと待て、お前ら尊い超えてる。」

スマホに向かって、つい素の声が出てしまった。

お互い意識をしてないのだろうが、お互いがお互いの名前を呼ぶ時、ふと力が抜けて甘くなる。

ふわふわの柔らかいスポンジと甘いホイップの、まるでショートケーキのようだ。

「やばい、もうショートケーキしか食べれなくなる……。」

悶えるとは、まさにこの事である。

しかし、今までもそれなりの近い温度感でいた二人ではあったが、『幼なじみ』の域を飛び出ないようにしていた感はあった。

なのに、それなのに両思いと知るや否や、今まで付き合ってきていましたけど?感を出すのは何事だとさきは思う。

特に、りゅうの彼氏感の強さはエグい。

何か確認する毎に、軽くケンヂの顔を覗き込む様子といったら、さきは心臓を羽交い締めされているのではないかと言った感覚を覚えた。


「でも、あんまり話すことって決めて泣くって。」

「りゅうと相談したら、質問に答える形式でいこうかってなりました。」

ケンヂは、言い終わると、今までそんなことなかったのに、いちいちりゅうの目を覗き込むようにする。

《意識したきっかけは?》

《いつから好きだったの?》

《お互いのどこが好き?》

質問は面白半分なものもあれど、大体を要約するとこの3つが多かった。

「ケンヂはきっかけ、ある?」

「俺からぁ?」

「いずれ聞くんだからいいじゃん。」

りゅうに、話を振られたケンヂは、小さく唸ったものの口を開く。

「体育祭か、なぁ……。」

「体育祭?」

「単純かもしれないけど……俺ら別チームでリレーやったじゃん?」

「やったな。」

「その、俺がリードしてたはずなのに、すんなり抜かれた時……。」

「え、それ?!」

りゅうが本気で驚いたのが分かるように、何度もケンヂの顔を覗き込む。

コメント欄も流れるのが早い。

《可愛っ……!》

《え、抜かれてときめくってどういうこと((*゚・゚)??》

ケンヂは、チラチラコメントをみながら、りゅうから視線を外した。

「だって、俺、結構必死で走ってたのにさ。あっさり抜かれたらさ……。」

「でも、負けてんだよ?」

「それすら超えて、かっこいいと思ったんだよ……。」

《尊》

《何それ可愛い。》

《こちら、命がいくらあっても足りませんが?》

ケンヂは、微かに下を向いては、コメントも見れなくなる。

りゅうは、と言うと、真面目な顔を作ろうしているがニタニタしそうになっているのが顔に出ている。

「かっこいいって思ってくれたってこと?」

「ん……。」

「なんだよー、もっと早く言ってよなー。」

「だって、幼なじみにって、漫画じゃん。」

りゅうは、悩むような表情を浮かるも「なるほど。」と、納得したように頷く。

「まあ、俺はいつもケンヂのこと可愛いと思ってるし。時々かっこいいっても思ってるけど。」

「なんだよ、それ。」

ケンヂの視線が定まらず、チラッとりゅうを見たあと、爪を弾くように弄る。

《ケンヂが照れてる……。》

《やだ、可愛い……》

「そーいうりゅうは、どうなんだよ……。」

「んー……俺は、振り返った時のケンヂの笑顔かな。」

なんでもない、たわいのない話をするように、りゅうはあっさりと言う。

あまりにもあっさり過ぎて、ケンヂは二度見した。

そのあと、少しだけ不貞腐れたような表情を浮かべる。

「なにそれ。なんか納得いかない。」

「仕方ないなー。」

りゅうは、ケンヂに体を向けたあとパンっとケンヂの頬を掴むとりゅうの方を振り向かせる。

「え、ちょ……。」

「そーいう顔も好きだよ。」

「え……。」

照れてるし、動揺してるし、なんならちょっとケンヂの目が震えている。

「いつもの表情がすきなんだ。いつも近くでケンヂのこと見れてたことが幸せだからさ。」


一瞬の間。


ケンヂも、リスナーも、さきすらも呼吸することすら、忘れた。

「─────!!」

一番最初に我に返ったのはケンヂだった。

頬を耳まで赤くして、目を見開き、りゅうのことを「まじ?」と言った表情で見つめ返す。

「マジだよ。」

ケンヂの視線は左右に動いている。

りゅうが目を細めてケンヂを見つめると、ケンヂは微かに目を伏せた。



「ダメ。これ以上はだめ。死ぬ。」

さきは、配信の終わった画面をただ呆然とみていた。

最後、どうなったかは分からない。

りゅうの手で画面を隠され、そのあと配信が終了してしまったからだ。

だが、さきもそれでいいと思ってた。

全部を知るよりも、いや、むしろ好きになった理由だけでもはちきれんそうだ。

結局、色々聞きたかったのに、好きな理由しか聞けなかったが、ちょうどいい。

これ以上聞いたら、ドロドロのアイスのようになってしまう。

「ご馳走様でした。」

さきは、目の前にスマホを置くと、深々と一礼をした。



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