イチャラブ配信今晩スタート!#同棲ラヂオ

青空みこと

第1回 #緊急で回しています

「はあ、幸せ。」

雨宮さき(あめみやさき)は、口元を緩ませ、目を垂れさせ、うんうんと頷きながら、推しのエキスをかみ締めていた。

さきは、スマホ片手にベッドの上でじたばたしている。

さきが持っているスマホの中では、幼なじみの配信者りゅうとケンヂが、ワチャチャしていた。

無意味につついてみたり、引っ張ってみたり、肩を触れさせたり、時には手を繋いで手の甲にキスしてみたり。

「尊いがすぎる……。」

こんな配信が、当たり前になり、当たり前に続くことにさきは、感嘆の息を吐く。

「あのころはまだ、付き合ってはなかったなぁ……。」

ただ、今でこそカップル配信になっているが、最初はただの(?)幼なじみであり、親友としての配信だった。




それは、5月10日のことである。

5月10日は、りゅうとケンヂ二人の誕生日(偶然)であるため、2人もテンションが上がっていたし、リスナーも盛り上がっていた。

誕生日配信とはいえ、毎日配信しているため普段通り、二人の配信名「#同棲ラジオ」のタグで配信アプリで配信が行われていた。。

龍之介は、『りゅう』、賢治は『ケンヂ』として常日頃から「#幼なじみ配信」として配信を行っていた。

配信を始めて、30分ほど経過した時である。

りゅうが、「飲み物取ってくる」と退席した瞬間に、ケンヂが動いた。

タグに『#緊急で回してます』を追加したのだ。

《え、なになに?!》

と、どよめくリスナーにケンヂは「しー」と静かにするように伝える。

ケンヂの言う通り普段通りにするリスナーは、ケンヂが思ったよりも自分達に素直だ。

りゅうが戻ってくる頃には、コメント欄もすっかり落ち着気を取り戻していた。

さすが、コアなファンが多いことで有名な配信なだけはある。

りゅうは、自然な動きでケンヂにも飲み物を差し出す。

それを、大して視線を送る訳でもなく受け取るケンヂ。

「うわ……尊いの塊……。」

涙が出そうになるというのはまさにこの事である。

タグを追加し、飲み物を受け取ったケンヂは、誰の目にもわかるようにソワソワしていた。

何度も自分の足を摩り、自分の髪を触る。

ケンヂが、なにか言いたそうなのは明白であった。

(え、なになに……?ケンヂ落ち着かないじゃん。)

二人の誕生日配信でもあるため、なにかドッキリやサプライズがあったとしても可笑しくないと、さきも睨んではいた。

ただ、二人と幼なじみのさきも今回のことは知らされていない。

ケンヂが小さく「あのさ。」と、たっぷり間があったあと、りゅうに言った。

それだけで、ケンヂの緊張がつたわり、さきにまで込み上げてくるものがあった。

(いや、なに?ちょっと待って。)


もしや、この流れは───


さきが生唾をごくんと飲み込んだ。

その間にも、配信中のケンヂは、チラッとりゅうを見ては床を見るを繰り返している。

「なんだよ、何かあるなら言えよー。」

「……言っても大丈夫?」

「どういう意味だよ。」


「すき、なんだけど。」


「お、ぉぉお?!」

声を出していたのは、さきだった。

今言った?

ケンヂがりゅうに対して?好きって?

「好きって?!!?言った???!」

自分が言われたが如く驚きのあまり、焦った声を出す。

あまりの自分が美味しい衝撃に嘘か夢か幻聴か。

疑ってしまうものの、再度スマホに目を向けると、かすかに頬を染め、うつむき加減のケンヂがいる。

心なしか、りゅうから距離を置いていた。


───嘘じゃない。

ケンヂが、りゅうに向かって言ったのだ。

『好き』だって。

それをさきは、理解すると息を飲んだ。

時を同じくしているリスナーの流れも、さきと同じように、その告白を溢れ聞くようにコメントの流れが緩やかなものになっていた。

りゅうは、驚いた表情を浮かべて暫し沈黙。


《で、返事は?》


その空気を読めないような、しっかり空気を読み切ったかのようなコメントに、ハッとなったのは、さきだけではなかった。

ケンヂは思い切り視線が床に向いている。

何も尋ねないところに、ケンヂの本気度が滲み出ていた。


「───うん、俺も好き。」


りゅうは、目を細めると、逸らされているケンヂの視線を追うように覗き込んだ。

ケンヂはそれを嫌がるように更に顔を背けながら、小さく口を開いた。

「……うそだ。」

「なんで?」

「うそだから。」

「ちょっと。」

自分で好きと告白したくせに、ケンヂはりゅうの言葉を頑なに信じようとしない。

「俺は、ケンヂの言葉を信じたのに?」

「信じてない。」

「ちょっとちょっと。」

「だって──。」

ケンヂが言葉を続けようとしたのを、遮るようにりゅうがいきなりケンヂの手を取った。

「だって何。」

「っ……!」

「だっても何も言わせない。ケンヂが言ったんだからな。」

「りゅう……。」

「好きだよ。大好き。」

ケンヂは、顔を逸らしたままぐっと息を飲んだ。

固まったまま動かない。

「こっち向いて、ケンヂ。」

「りゅ……。」

「向いて。」

りゅうの少し強い語気にケンヂは恐る恐るりゅうの方を向いた。

りゅうは、優しく微笑むとケンヂの指に自分の指を絡める。

「ずっと好きでいてくれたの?」

「ん……。」

「あー、もう。ケンヂに俺から告白したかった。」

「え……。」

「でも、ありがとう。好きだよ。」




さきはもう、画面を直視出来ないでいた。

こんなことが、かつてあっただろうか?

今まで散々、『#ボーイズラブ』『#BL』などのタグ付き動画を見ていたが、こんなに萌えたのは、かつてあっただろうか。

しかも、自分の幼なじみという最高のポジション付きで。

今すぐにでも、お祝いメッセージを送りたい。

でも、邪魔はしたくない。

コメント欄だって、二人を見守るようにほとんど動いていない。

さきも、コメント出来ないでいた。

りゅうとケンヂがどうなるか、固唾を飲んで見守っていた。


「ほんとに、すき?」

「うん、大好き。」

「ありがとう……大好き…。」


その瞬間に待っていたのは、目では追うことが出来ない速さでの祝福コメント……だと思う。

なにせ、何が書いてあるのかコメントをさきの目では追いきれなかった。

ただ、こんなにコメントが動くほど、2人の行動が注目されているのだけは、はっきりわかった。

全ての人が分かってくれるわけではないと自分が、腐女子ゆえに痛いほど分かっていた。

腐女子の活動も、わかって貰えないことも多い。

ただ、その障害のほんの少しでも2人は今、乗り越えたんだとさきは思ったのだ。






「……お疲れ様。」

配信を何とか乗り越えたあと、ケンヂは小さくりゅうに向かって声をかけた。

「お疲れ。」

りゅうもまた、ケンヂに柔らかい口調で声をかける。

配信告白をしたのは、踏ん切りをつけたかったからだ。

もし、他で告白してダメだったら、配信で憶測を呼ぶような有耶無耶な展開にしかならないとケンヂは思った。

だから、ケンヂは配信で白黒はっきりつけたかったのだ。

「……なんか、恥ずい。」

「もう、ケンヂのものなのに?」

「だから、恥ずいんだって。」

「ケンヂってさ、結構可愛いよね。」

りゅうの、目を細めにやにやした笑からは、ケンヂは悪いしか感じなかった。

「バカにしてんのかよ。」

「違う違う。本気で思ってるの。もっとこっち来ればいいのに、とか、触ってくればいいのにって。」

「!!!」

二人(さきもだが)は、小さい頃から幼なじみで年の差が多少あれど今までずっと仲良くしていた。

なんでももはや知っている。

初恋はいつだとか、それすらも最早どうでも良くなるくらいに。

だから、今までおんぶをしあったり、距離感バグを起こしていたりは、既にしていた。

ナノに、今更触りたいとか直接的に言われると、ケンヂは恥ずかしくなってしまっていた。

「もう、オフレコだし、さ。1番ケンヂにやりたかったことしてもいい?」

「やりたかったこと?」

怪訝そうな顔をするが、りゅうはニコニコと笑顔のままであり、何を考えているかは計り知れなかった。

「……変なことすんなよ。」

「あー……多分大丈夫。」

「それって、変なことする前...…って。」

ケンヂがぶつくさと続けようとしたのを、ケンヂの頭を抱え込むようにして、りゅうがケンヂを抱きしめるのが早かった。

「っ、え、え?」

「もう、ずっとこうしたいって妄想してた。」

「りゅう……。」

ドクンドクンと鳴る心臓の音が相手に二人とも聞こえていた。

重なるように鳴る心臓の音に、ケンヂは胸が高まり、キツくりゅうを抱きしめる。

「ケンヂも同じ?」

「ん。」

「なら、嬉しい。」

いつも隣にいたのに、こんなに近づいたのは初めてだった。

そんな中、りゅうがケンヂの髪を撫でながら耳元に口を寄せる。

「キスは?」

「へえ?!」

「したくない?」

ケンヂは思った。

今のままでも充分心臓が飛び出しそうなのに、と。

「し、たくないわけでは……。」

「じゃあ、してもいい?」

「いや、えっと……。」

ケンヂの顔はもう、耳まで真っ赤だ。

決して、ファーストキスでもないのに。

「今どき小学生でもそんな反応しないよ?」

「一周まわってするかも知んねえし。」

りゅうは、ケンヂの顔を顎を掴んで、無理やり上を向かせる。

息を飲んだ、ケンヂの唇が震える。

りゅうがまた距離を近づけた。

ゴクッとケンヂは息を飲んだが、今度は拒否することも、悪態を着くことも出来なかった。

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