相容れない存在


 ダーグは鼻を鳴らすと眉間に皺を寄せる。


「ニンゲンのにおいがする。アーニ、お前はまだニンゲンなんかを育てているのか」


 心底嫌そうな表情と声色で言うダーグにアーニは返事をすることなくただ睨む。


「今直ぐニンゲンをオレの前に差し出せ。オレが


 食い殺してやる、その言葉にアーニの体はカッと熱くなり頭に血が昇る。大きな声でガウガウと咆哮して威嚇をするも、ダーグは涼しい顔で佇んでいた。

 するとその時、アーニの咆哮に驚いたセラフィーナが大きな声をあげて泣き始める。そしてハイハイでアーニに近づいてくると、脚にぎゅっとしがみついた。

 アーニは直ぐ様セラフィーナを自分の体で守るように隠す。


「ニンゲンの赤ん坊など育てるなど無意味だ、アーニ。魔物我々とニンゲンは相容れない、共に暮らしてはいけない存在だ。……その赤ん坊を捨ててこい。そしてオレの子どもを産めアーニ。今度は強く逞しい、直ぐに死なない立派な子どもを産め」


 アーニはダーグにもう一度だけ大きく吠えた。するとダーグは踵を返してまた悠然と去って行った。



 アーニはセラフィーナの頬を伝う涙を舌で舐める。するとくすぐったいのかセラフィーナはけらけらと笑った。

 可愛い可愛い、目に入れても痛くないその笑顔にアーニもつられて口角を上げてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る