ダーグ


 セラフィーナはすくすくと育ち、ハイハイをして洞窟内を動き回るようになった。アーニがほんの少しだけ目を離すと、洞窟の外にひとりで出て行ってしまう勢いだ。

 アーニは1日のうちで何度も何度もセラフィーナの首根っこを甘噛で掴んで洞窟へと連れ戻した。

 そんなアーニの忙しない様子を見てラタトスク栗鼠の魔物のオデュはケラケラと笑う。


「この森で傲岸不遜なアーニ様を振り回せるのはだけだぜ! 将来セラはアーニ以上の女傑になるに違いない!」


 傲岸不遜なんていう褒め言葉からは遠いことを言われたアーニはオデュを鋭い眼光で睨みつける。するとオデュはビクリと身体を大きく震わせると、素早い動きでセラフィーナの頭を撫でてから文字通り尻尾を巻いて逃げ出したのだった。


 相変わらず洞窟には沢山の魔物が訪れてセラフィーナに食べ物や木の皮で作った衣服をプレゼントする。

 最初こそ“大きく育てて食ってやる”などと言っていた魔物達だが、今ではセラフィーナの愛らしさにメロメロとなり“食べる”だなんて口にする輩はいなくなっていた。

 今やニンゲンの子どもであるセラフィーナは、暗闇の森に住む魔物達から愛され、大切に育てられているのだ。



 だがしかし、セラフィーナのことを快く思わない魔物もいる。

 アーニは鼻をスンスンと鳴らし、の接近に気がつく。そしてセラフィーナを洞窟の奥へと押し込んだ。

 毛を逆立て、牙を剥き出しにし、ウーと低く唸って近づいて来るを待つ。

 すると程なくして悠然とした足取りで洞窟へとやって来てきたのはオスのフェンリスヴォルフ狼の魔物・ダーグだった。

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