戦闘では役立たずのレアジョブ『ドローン操縦士』を手に入れた俺、配信やら輸送やらの仕事をしていたらいつの間にか最強の艦隊を手に入れてました

ももぱぱ

第一章 配信編

第1話 引きこもりのゲームオタク

カクヨムコンテスト用の新連載になります。

初日、1時間おきに5話投稿します。

よろしくお願いします。


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「これで177連勝か。もうこのゲームも飽きたな」


 俺の名前は空峰操太そらみねそうた。一応、大学二年生。現在、絶賛引きこもり中。原因はわかっている、一年前のジョブ覚醒によって『ドローン操縦士』を手に入れたことだ。


 地球にダンジョンが誕生してから二十年が経った。当初はダンジョン内に魔物がいるということで大騒ぎになったが、魔物がダンジョンからは出られないこと、ダンジョン内には地球上では決して得ることができない資源が眠っていることがわかると、国を挙げてダンジョンの探索が推奨されることになった。


 ただ、ダンジョン内の魔物にはなぜか地上の銃火器は効かず、ダンジョン内で手に入れた武器か、覚醒者のスキルや魔法でしかダメージを与えることができなかった。そのため、覚醒者の地位が向上し、比例するように非覚醒者に対する扱いは酷いものになっていった。


 ジョブの覚醒率は五割とそれほど高くはない。だから、ジョブに覚醒したときは大喜びだった。しかし、その喜びはすぐに失望に変わった。なぜなら、ドローン操縦士の能力は〝ドローンを意のままに操る〟という、戦闘には全く使えないものだったからだ。


 ドローンを意のままに操るなんて、別にジョブがなくたってできる。それこそ、AIが発展した今、ダンジョン配信者のほとんどが、人口知能を搭載したドローンを使用している。値段はそこそこするが、黙っていてもそれなりの動画を撮影してくれる。


 そう、俺がわざわざ操作する必要なんてこれっぽちもないのだ。


 こんなジョブ絶対バカにされると思って、覚醒したことはひた隠しにし、非覚醒者を装っていたのが失敗だった。せっかく入った大学では、覚醒者が我が物顔でのさばり、非覚醒者は部屋の隅で固まっているような状況だった。


 昔からあがり症で人前ではろくに会話もできない俺が、そんな状況で引きこもりになるのは至極当然だった。ああ、俺がイギリス人と日本人のクォーターというのも関係しているかもしれないな。見た目ちょっと日本人離れしてるし。


 入学から一ヶ月で引きこもり生活に突入し、二年生も半分を過ぎた今の今までゲーム三昧。おかげでゲームの腕前だけはプロ級だ。


 俺が引きこもったせいで母親には心配をかけてしまったし、妹の海美うみにもつらい思いをさせてしまっている。幸いにも世の中は引きこもりにも理解のある社会になりつつあるので、とりあえず今は俺が復活するのをゆっくりと待ってくれているが。


 ちなみに父さんはいない。愛情よりも出世を選ぶ父親だったらしい。家族を捨てて、仕事を選んだそうだ。その時母さんはすでに妹を身ごもっていたので、海美を生んだ後女手一つで俺達をここまで育ててくれた。


 そんな母さんに迷惑をかけているのはわかってはいる。だが、一度引きこもるとなかなかそこから抜け出せないのだ。理由はよくわからないが、一歩が踏み出せない。そんな心の葛藤を誤魔化すためにまたネットの世界にのめり込む。悪循環だ。


 そんな生活を続けていたある日、異変が起こった。いつも二十時になると夕食を部屋に持ってきてくれる母さんが今日に限って来ないのだ。少し遅れているのかと思ってダンジョン配信を見ていたのだが、一時間待っても姿を見せなかったときに何かおかしいと感じた。耳を澄ませてみても物音すらしない。ちなみに妹の海美はもう寝ているはずだ。


 これはいよいよ変だと思って部屋を出る。海美を起こさないように静かに階段を降り、居間に繋がるドアを開けたときにキッチンで倒れている母さんを発見した。


「母さん!?」


 慌てて駆け寄ってはみるがどうしていいかわからない。


「母さん! しっかりしてくれ母さん!」


 大声で呼んでもピクリとも動かない。


「そうだ、救急車!?」


 ようやくここで救急車の存在を思い出す。居間を出て階段を上るときにすねを打ち付けてしまったが、それどころではない。痛む足を引きずりながら部屋にある携帯をつかみ、救急車を呼ぶ。指が震えていたせいで、何度も間違えてしまった。


「こちら119です。火事ですか? 救急ですか?」


 電話越しに若い女性の声が聞こえてくる。


「きゅ、救急でしゅ。か、か、か、母しゃんが!」


 チャットだと強気に話せるのに、実際に声を出すと緊張してしまい声が出ない。


「落ち着いてください。まずはそちらの住所と状況を教えてください」


 オペレーターと思われる女性に住所と母さんが倒れたことを伝える。普段ならまともにしゃべれない俺も、母さんの命がかかっている状況なら何とかなることを、この時初めて知った。


 オペレーターの指示に従い、再びキッチンに戻り母さんの容態を確認する。さっきは慌てていたせいか見逃していたが、母さんの胸の辺りがかすかに上下している。心臓も動いているし、呼吸もしているようだ。


 外傷もなさそうだし、喉も詰まっていない。再びオペレーターの指示で身体を横向きにしてから、救急車を待つ。後で知ったのだが、この体勢は回復体位というらしい。


 数分待つと救急車のサイレンの音が聞こえてきた。普段は遠くに聞こえるサイレンが段々と近づいてくる。俺は救急車を誘導するために外に出た。


「こ、こ、こっちです!」


 赤いランプが見えたので、手を振って救急車を呼ぶ。すぐに救急車が家の前に止まり、中から救急隊員が二人降りてきた。


「傷病者はどちらですか?」


 救急隊員をキッチンへと案内する。そこでサイレンの音で起きてきたのか、海美が二階から降りてきた。そして、救急隊員を見て何事かと動きが止まってしまう。俺はそんな妹に状況を話し、手を繋いでキッチンへと移動する。


 キッチンにつくと一人の隊員が母さんの容態を見て、もう一人がストレッチャーを取りに行った。俺は母さんの無事を祈りながら、ただ眺めているだけだ。海美の俺の手を握る力が強くなる。


 救急隊員は二人がかりで母さんをストレッチャーに乗せ、救急車へと運んでいく。俺達も一緒に乗せられて病院へと向かった。

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