第3話『月影の檻と真実の扉(The Moon)』

Ⅰ. 月の匂い


夜の配信準備をしていた時、ふとカーテン越しに月明かりが差し込んだ。

机の上でしおぽんが尻尾を揺らしながら、じっと窓の外を見つめている。


「シオンさま……なんか、月の声がざわざわしてるぴょん」

「ざわざわ?」

「うん……嘘と本当が混じって、道がぐるぐるしてるみたいなの」


その言葉に胸が少し重くなる。

月は——人の心の奥に潜む影を映し出す鏡だ。



Ⅱ. 揺れる少女


月明かりに照らされたアパートの一室。

机に向かう少女・**莉央りお**は、スマホの画面を見つめていた。


SNSには友達の笑顔、カフェでの写真、楽しそうなやり取り。

けれど、自分への通知はいつも同じ。


《また今度ね》

《ごめん、忙しいから》


胸の奥に冷たい水が広がっていく。

(……私が嫌われているのかな。もう必要とされていないのかな)


アルバムを開くと、幼馴染と肩を並べて笑う写真が挟まっていた。

ほんの少し前まで、隣にいるのが当たり前だったのに——今は違う。

幼馴染は別の友達と笑い合っている。


(もう私のことなんて忘れてしまったのかな……嫌われてしまったのかな……)


そう思い込むたび、心は冷たい月光に閉ざされていった。

そして——黒い影が静かに形を変え、巨大な牢獄を築き始めていた。



Ⅲ. 星界ゲートの開放


「影が……檻を閉じようとしてる!」


しおぽんの声に、私はタロットデッキを手に取る。

瞳に星座の光が宿り、深く息を吸った。


「……私の名はシオン。星の声を地上に繋ぐ者。――あなたの真実を告げよう」


コンパス枠 | 月(The Moon)

「心の影と光が入り混じる迷いの道。」


トリガー枠 | 女教皇(The High Priestess)

「答えは静かな内なる声の中にある。」


ルート枠 | 太陽(The Sun)

「真実を知れば、心は再び明るく照らされる。」


月明かりが強くなり、現実の景色が星屑へと変わる。

私と莉央は、月影の牢獄の中に立っていた。



Ⅴ. 変身と戦い(二重の牢獄)


黒鉄の格子が空を突くほどそびえ、鎖は生き物のようにうねって全体を締め上げている。

その正面には、一枚の重厚な扉。

幾重もの鎖が絡みつき、月光に照らされて鈍く光っていた。


扉の奥には莉央が閉じ込められていた。

格子に遮られ、声は外へ届かない。

扉に隔てられ、本心は光を失っていく。


(……もう、私なんて必要ない。忘れられてしまった。嫌われてしまった……)


思い込むたびに鎖は締まり、檻はさらに厚くなっていく。

彼女自身が、外界から心を遮断し、鍵をかけてしまったのだ。


だが月光が扉を照らすと、影文字が浮かび上がった。

——そこに刻まれていたのは、莉央の真の声。


(本当は……もっと友達と笑いたい。

私も、あの輪の中に入りたい。

置いていかれたくない……!)


「莉央……その声こそが、君の真実だ!」


私はしおぽんへ視線を送る。

「しおぽん……行けるか?」

「ぴょん! ボク、やるの!」


しおぽんが胸を張り、力強く詠唱する。


詠唱

「言の葉は鍵、星の光は道しるべ。

ステラン、ステラン、ステラン——来臨せよ、汝──シオリエル!」


星屑が舞い上がり、光の中から銀髪と星霊の瞳を持つシオリエルが降り立った。


「幻影よ砕け——真実の扉を開け!」


天空の月が眩く輝き、光線が一直線に降り注ぐ。

まずは格子を包み込み、鎖を次々と砕き散らす。

轟音と共に牢獄が崩れ、最後に残ったのは——鉄扉。


《星幻迷宮アストラル・ミラージュ》!


月光の奔流が扉を貫き、錆びた鎖を焼き切る。

閃光と共に扉は四散し、砕けた破片は星屑となって夜空に溶けていった。


そして、その奥に現れたのは涙を浮かべる莉央。


「……私……本当は……まだ友達と笑いたい……一緒にいたい!」


その声に応えるように、砕け散った扉の向こうから、未来へと続く光の道が差し込んだ。

夜明けのように柔らかで、確かな希望を宿した光だった。



Ⅵ. 現実へ


気づけば莉央は机の前でアルバムを抱えていた。

スマホの画面には「明日会えない?」というメッセージ。


(……まだ私を必要としてくれる人がいる)

「……うん、行く」


月明かりが、その横顔を優しく照らしていた。



Ⅶ. 鑑定の結びと次回予告


「タロットクローズ。月は、真実を隠すためじゃなく、照らすためにある。大丈夫だよ」


「ぴょん! 合言葉は“真実の扉”だよ!」


コメント欄には小さな星マークが次々と流れていく。


次回予告

第4話『塔崩れ落ち、星降る夜(The Tower)』

——破壊は終わりじゃない。それは新しい始まり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る