第3話 神託

 サジーがお腹にいた頃、神託があった。

 これから生まれてくる赤ん坊は、オメガだと。この世界には、男と女以外にも、アルファとベータ、オメガの三つの性が存在する。アルファは、とても優秀で、王族や貴族に多い。多くの人は、ベータ。そして、この国でとても貴重なのがオメガ。

「サジーお嬢さんがどこまで知っているか解りませんがね」

 メアリーは、お茶で舌を湿らせた。

 男同士、女同士であっても、アルファとオメガはつがいとなり、子を作ることができる。母親となるのは、オメガだ。

「オメガは、とても優秀な子を産むと言われています。アルファってのは、大抵、偉い連中ですからね。サジーお嬢さんのご両親は、あなたの将来を心配なさったのですよ」

 両親は急ぎ、田舎に家を求めた。それが、この森の中の別荘だ。

「心配って?」

 首を傾げる。

「わあ!」

 恐ろしい表情。お前を食べてしまうぞ。

「あなたが誘拐されるんじゃないかってね」

「うう……」

 身を引き、ポロポロ涙をこぼす。

「貴族、怖い……。サジー、食べられちゃうの?」

 メアリーが涙を拭ってくれる。

「大丈夫ですよ。そうならないように、わざわざこんな山奥に暮らしているのですからね」

「サジー、アルファの人には近寄らないことにする!」

 固く決意した。

「他に何か質問はありますか?」

「うん?」立てた人差し指に、こめかみを乗せる。「結局、サジーは男の子なんでしょ? なのに、ヒラヒラの服を着てるよ。なんで?」

「なんで?」メアリーは腕組みした。「私はいいんですよ。髪を短くして、半ズボンを履いてもらっても。たったの数時間でしたが、私の縫ったエプロンを着てもらえて幸せでしたよ」

 目尻の涙を拭い、さあ返せと片手を突き出してくる。

「いや! サジーは可愛いのがいいの!」

 エプロンを掴み、フルフルと首を振る。

「そうでしょうとも。それに、オメガの男の子は成長しても、小柄だと言いますよ。それなら、女物の服を着続けられるでしょうとも」

 サジーは少し黙った。顔を上げる。

「サジーが可愛くなったら、やっぱり、アルファが近寄ってきちゃうんじゃないのかな」

 メアリーも口を噤む。

「まあ、でも、あれです。オメガはアルファとつがいにならないと苦労すると聞きますよ」

「やっぱり!」

 頭を抱えて叫んだ。




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