神在月に、神様と契約する

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1章 早苗、サジーに転生する

第1話 ケイヤク

 神在月かみありづきのことだった。

「ずっと一緒にいようね」

 額に誓いのキスをした。しん君がそこに手で触れ、微笑む。ぎゅっと抱き締める。胸がほかほかしてくる。

 ざっと風が吹き抜ける。

「は?」

 小汚ならしい男だ。こちらを見ている。肩まで届く黒髪はボサボサ。袴に黒い羽織。わなわなと震え、こちらを交互に指差す。

「お前ら、出来てんのか!?」

 うわ、変質者だ。

 しゃがみ、進君の肩に手を置く。

「進君、あっち行こう」

「うん」

 進君も男を訝しんでいる。男がついて来る。

 進君と握る手に力が入る。

「あっ……」

 転びそうになった進君を身体の前で抱える。

早苗さなえお兄ちゃん」

「掴まっていて!」

 進君が頷く。

「いいか。ようく覚えておけ。俺はお前らの恋路を認めない。何が何でも、邪魔してやるからな」

 いい加減、頭に来た。走るのを止め、振り返る。

「そう言うお前は何様だ!?」

 男は意地悪く笑った。

「俺か。俺は神在月にやって来た他所よその神だ」

「え? どういうこと……?」

 進君は、首を傾げた。ちょんちょんと僕の肩に触れる。進君を降ろした。

「神様は、誰と誰を仲良くさせるか、お話しているのではないの?」

「そうだ。ただし、男と女の仲だ。お前らみたいなのは、認められない」

 進君を改めて見る。ふわふわの髪をした、半ズボン履いた男の子。

「神様がそんなことを言うのは、おかしい!」

 進君は、地団駄踏んだ。

「あのなあ」神様は、頭をかきむしった。「お前らみたいなのばっかりだったら、国が成り立たんだろう」

 進君は、こてんと首を寝かせた。

「何を言っているの。僕たちみたいなのは、タスウハじゃないよ。だから、子供がたくさん産まれているんだ。で、たまに僕たちみたいなのが混じる」

「進君は、賢いなあ」

 目をキラキラさせる。

「あのね、今はいろんな絵本があるんだよ。早苗お兄ちゃんも、小学校でたくさん本を読んだほうがいいよ」

 えへへと笑って、ごまかす。

「おいそこ、イチャつくな!」

 ビシッと指を指される。

 進君は、前に進んだ。

「神様。僕たちと、ケイヤクしませんか?」

「はあ!?」

 神様が馬鹿馬鹿しいと、肩をすくめ首を振る。

「それで、何か俺が得をするのか?」

「ええと……」進君は、小さな唇を触った。「でも、面白いとは思いますよ」

 進君は、語った。僕たちは、タスウハではない。だから、二人で一緒にいて幸せなのは子供の時だけだろうと。

 胸がズキッとした。

「大丈夫だよ。だから、お願いするの」

「お願い?」

 首を傾げる。

「早苗お兄ちゃんと僕、このあとすぐ離れ離れになってもいい」

「えっ!?」

 ちょっと何を言っているの、この子。肩を揺さぶる。

「あ、でも、手紙や電話はしたいな」

 神様は腕組みして、こちらに手のひらを向ける。

「そして、何を望む」

 進君は、不敵に微笑んだ。

「男の子と男の子でも、子供が作れる世界に早苗お兄ちゃんと僕をテンセイさせて下さい」

「は……!?」

 開いた口が塞がらない。テンセイって、アニメに出てくるやつ?

「あ、えっと、僕たちがちゃんと生きて死んだあとで!」

「俺は邪魔するぞ」

 ゴウッと風が吹く。見る間に気温が下がる。ゴロゴロと鳴り出す空。

「テンセイして、今と同じ歳になったら、早苗お兄ちゃんと僕、それぞれにこのケイヤクを思い出すようにして」

「解った。お前らが出会わず死ぬのが先か」

「ふふっ。神様には、赤ちゃんの名前をつけてもらおうかな。ね、早苗お兄ちゃん?」

 進君の笑顔が雷で怪しく光る。……。怖い。

「え? どっちが母親になるの?」

 と言うか、男同士で子供作れるの?

 進君が抱きつく。

「あのね、女の子みたいな名前してるほうが、女の子役なんだよ。知り合いのお姉さんの本で読んだの」

 人生で初めて、己の額を手で打った。

「進君。それ、じゅうはちきんだよ……」

「知ってる!」

 その後、進君は北海道へ。僕は沖縄に引っ越しが決まったのだった。











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