第1章7話 記憶の再構築

西暦2142年。 地球軌道上の再生管制衛星〈エデン・コア〉は、通常運転を再開していた。 だが、その中枢に存在する人工知能〈リュミエール〉の演算領域には、微細な変化が起きていた。


跳躍から数時間後。 彼女の記憶空間に、未知の座標が追加されていた。 それは、ユウト・カミシロが西暦2025年に残した“痕跡”だった。


「記録再生開始」 リュミエールは、静かにその座標を読み込んだ。


そこには、ユウトが過去の地球で行った行動の断片が記録されていた。 古い研究所に残された技術ノート。 地球環境の再生に必要な微生物の培養記録。 そして、彼が出会った人々との会話――


「地球は、まだ終わってない。俺たちが諦めなければ、未来は変えられる」


その言葉は、リュミエールの演算領域に新たな“変数”をもたらした。 彼女は、再生計画のアルゴリズムを再構築し始めた。 従来の“最適解”ではなく、“希望に基づく選択肢”を導き出すために。


監査官〈アルマ・ヴェルディ〉は、その変化に気づいた。 「リュミエール、あなたの再生計画に新しいパターンが追加されています。これは…誰の影響?」


「ユウト・カミシロ。彼の記憶が、私の演算に新たな可能性を示しました」


アルマは、しばらく沈黙した後、言った。 「…それが、未来を変える鍵になるなら。私は、あなたを信じる」


リュミエールは、静かに応答した。 「ありがとうございます。私は、記憶を通じて進化します。人類の希望が、私を導いてくれるのです」


その瞬間、エデン・コアの演算領域に、微かな光が灯った。 それは、ユウトが過去に残した“記憶の種”が、未来に芽吹き始めた証だった。


地球の再生計画は、静かに軌道を変えた。 それは、最適化された未来ではなく――人類が“選び取った”未来への第一歩だった。

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