第26話 笠松出版の石井

携帯電話に着信音がする。


笠松出版の石井重彦からメッセージメールだった。


その時、遥香(はるか・加奈子の娘)は母の日記を読んでいた。


普段はパート勤めで午後からは子供を幼稚園に迎えに言ったり、

小学生の息子の汚れた服の洗濯やら夕飯の買いだしなど、

日々が目まぐるしく過ぎてゆく。


そんな遙香にとって、夜10時以降は一人になれる時間だった。


夫も最近は会話もなく、向こうは向こうでテレに見たり、ネットを見ているので、

寝室に来て寝るのはいつも午前様なことが多い。


だから2時間はパソコンと向き合える貴重な時間だった。


「石井さん、こんな時間、珍しいわね」


洋子は石井からのメッセージを開けた。


「すいません、こんな時間に。実は茜さんについて、ちょとわかったことがありまして、とりあえずご報告を。今、彼女と接触できないか探っております。詳細はまた後程」


これだけか。 


茜さんと母は親友だった。いや、ソウルメイトだった。


母は小説家で笠松出版から本を何冊か出していた。


その当時の担当が石井重彦である。


母の遺作を含めて本を出したいというので、色々協力している。


といっても、母の仕事のことは実はよくわからない。


「現在の茜さんは母より2歳年上だから、67歳ぐらいかな」


母の日記の中では母は18歳。茜さんは21歳?


写真はないが、若くて生き生きとした茜さんを想像していた。


「12時まであと40分あるわ。母の日記、読み進めよう」


遥香は眠い目をこすりながら、母の日記に目をやった。

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