第6話 出発の時


「俺はお前を一生恨むぞ」


 俺はリリーを睨みながら言葉を吐き捨てる。

 リリーは我関せずといった具合に淡々と本を読んでいる。


「俺は絶対行かないからな」


「ダメ。ついてこなきゃ髪の毛燃やすから」


「はい……、ついていきます……」


「よろしい」


 そんな恐ろしいことを言われてしまったので力なく了承の返事をする。

 


 今日の日中、突然ミーランと名乗る男が王都からはるばるやってきてリリーにいきなり『王都育成王立学園に通っていただきたい』とお願いしてきた。


 最初は断っていたリリーだが途中からなんか気が変わったらしく、三つの条件を提示してその申し出を了承した。

 その条件の中にあるのが、俺を同行させ、俺も王立学園の生徒として通わせること。

 ミーランはその条件には流石に悩んでいたようだが渋々了承し、帰っていった。

 帰る間際、あいつは俺の顔を何故か睨んできたが。


「なぁ、やっぱり行かなきゃダメ?」


「ダメです。絶対通ってもらいますからね」


 こいつはこういうときは人が変わったように頑固になるからな。こうなってしまった以上、俺も王立学園を通わざるをえない。


「でも、なんでわざわざお前があの学園に通ってまで俺を生徒として通わせようとするんだよ?」 


 俺が聞くと、リリーは本を閉じて言った。


「兄さんがダメ人間だからです。それに、あそこは王都の中でも最高峰の学園。兄さんが変わるためにも良いと思っただけです。」


 今リリーがいった通り、王都育成王立学園とはそういう場所なのだ。ちなみに今の王都の精鋭騎士の団長は元王立学園のOBらしい。

 あそこは特に地位の高い名家の王子やご令嬢が通う学園だ。故にレベルもものすごく高い。

 

(うぅ〜考えただけで頭が痛いな。ちょっと散歩でも行ってくるか)


「リリー、ちょっと俺散歩してくるわ」


「もう夜ですので気を付けてくださいね?」


 俺はその言葉に軽く返事を返して家を出るのだった――。


―――。


兄さんが家を出たあと、時計をみる。


「そろそろですね」


 私は転移魔術を発動する。転移した先は会議室のような部屋。そこには、すでに何人かの先客がいて、その中には私の知り合いもいた。


「遅刻ですわよ。リリア」


「ごめんなさい。シャル」


 ここは、選ばれた魔道士、世界から認められた魔道士だけがくる事を許されている場所だ。


「よし、揃ったな。では始めようか」


 一人の男がそう言った。

 今から始まるのは優秀な魔術師が世界的に集まってこれまでの出来事や成果を報告する会議だ。月に一回周期で開催されるのだが、正直めんどくさいので年一回にしてほしい。


「早く帰って兄さんに会いたい……」


 堅苦しい奴らが集まるだけのなんの面白みもない会議なので、早く終わってほしい。


 そうして、その会議は各々の魔術師が成果や出来事を報告して終わった。

 『やっと終わった』と思いながらさっさと帰ろうとする。

 

「あなた、最近たるんでるんじゃないですの?」

 

 突然品のある言葉が聞こえてきた。私が声のした方を向くと、そこにはシャルがいた。


「なんですかシャル、私、さっさと帰って鍛練したいんですが」


「鍛練って剣術の……ですわよね。剣聖と呼ばれてもはや敵無しのあなたにまだ剣術の鍛練が必要とは到底思えないですわね。それに加えて魔術もこのワタクシに匹敵するほどの魔力量。これだから天才は」


 そんな皮肉たっぷりなことを言ってくるシャル。

 改めて紹介しておきます。

 

 この子の名はシャル・フローラ。フローラ伯爵家という貴族の家のご令嬢で私の友人に当たる存在だ。

 フローラ伯爵家は元グラード公爵家と非常に親しい関係だったのだ。故に、私とシャルは同い年の昔からの友人というわけだ。もちろん兄さんとの面識もある。


 私が追放されてからは当たり前だが一切の連絡手段もなかった。だが、3年前、私が前に通っていた学園の入学式に偶然か必然か、たまたま再開し、同じクラスとなったのだ。

 シャルは私に対するライバル心がすごい。


「天才、ねぇ。そういうあなたも魔術師としては天才と言われていますがね」


 私が天才なのは私自身も認める。だが、私が天才なのは剣術においてだ。

 もちろん魔術の才もあると思うが魔術面では潜在的な魔力量も魔術の技術も圧倒的にシャルの方が上なのだ。


 シャルはまだ自覚してない様子だけどね。


「そういえば、エスカ様は元気ですの? どこかお身体に異常が出たりは……」


 突然シャルが話題を変えて兄さんの名前を出してきた。


「異常なんて出るわけないじゃないですか。兄さんは相も変わらずですよ。一切外に出る様子もなく、家でゴロゴロしていて、たばこまで吸う始末です」


「そうですのね……。よかったですわ」


 シャルが安堵した声を漏らす。

 

(いや、タバコはよくないと思いますが……。)

 

 昔からのことなのたが、シャルは何故か兄さんの事を慕っている。あの無能で怠惰な兄さんをだ。

 

(まぁ、兄さんを特別視する気持ちはわかりますがね)


「エスカ様に何かあればすぐに教えてくださいね。どこにいても飛んできますので」


「あなたの力を借りなくとも私一人で兄さんを守りますから結構です」


 シャルと兄さん。私の知らない何かがこの二人にはありそうな……、そんな感じがする。


(妹の私に隠し事など許しませんよ! 兄さん!)



 ――――

 


 俺が散歩から帰ってくると家にリリーはいなかった。

 だけど、まぁ、その内帰ってくるだろと思ったのでそのまま家で待つことにした。

 なにせあいつは最強だからな。俺が心配するのも余計なお世話にしかならない。

 

「ただいまぁ〜」


 っとそんなことを思っていると、噂をすれば、リリーが帰ってきたようだ。


「お前どこ行ってたんだ? ルルも心配してたんだぞ?」


「あ〜、そのぉ、そう、用事だよ! 少し用事を思い出して出ていたんですよ!」


 俺が問うとリリーはそんな怪しさ全開の説明をする。だが、これ以上深掘りするのもこちらが面倒なので「ふ〜ん」とだけ言ってそれ以上聞かないことにした。


 俺も疲れていたので、自室に戻る。

 今は秋の半ば。王立学園の入学式は来年の春にある。今から約半年後だ。


「あいつが余計なことをしてくれたおかげで来年からはめんどくさい毎日になりそうだからな。今の内にこのだらだらな生活を謳歌しておくか。大丈夫。まだ半年もある。気楽に気楽に」


 しかし、時と言うのは経過するのが早く、気づけば入学式は明日に迫っていた。


「いや過ぎるの早すぎだろ」


 ヤバいヤバいヤバい。明日から王都に滞在するんだよな…。 しかも、いろんな貴族が通う王立学園に通うだと?!

 


 考えただけで億劫だ。なんでこんなことになったんだ……。俺はただだらだらできれはそれで良かったのに。

 我ながら元貴族でありながらありえない発言をしている事に気づく。


「兄さん。準備できました?」


 そう言ってドアからひょこっと俺の部屋に顔をだすリリー。


「あ、あぁ、大丈夫だ」

 王都に行くのだから流石今回はちゃんとした服装に着替える。

 リリーは俺の服装をまじまじと見てそっぽを向いて発言する。


「兄さんはやっぱり、その服装の方がイケてます」


 顔を少し赤らめながらそんなことを言ってくれるリリーに『あぁ、ありがとう』とだけ返して出発の準備をする。

 入学式は明日なので、今日で王都に行き、そこで滞在する家に向かう。


 どうやら王都には転移魔術で行くらしいので先に待っている。

 ふと、何やら外が騒がしい

 気になって外に出ると、村のみんなが見送りに来てくれていた。


「エスカ! しっかりやるんだよ!」


「何かあったらいつでも戻ってきて!」


「この村のことなら大丈夫だ! 安心して行って来い! ルルも責任もって面倒見るからよ!」


 数々の激励の言葉を投げてくれる村のみんな。その中には当然カインもいて。


「エスカ……、彼女できたら絶対教えろよな」


 こいつだけは平常運転のようだ。全く。やはり俺はこいつが嫌いだな。


「兄さん! 忘れ物ない?」


 リリーが家から出てきて忘れ物がないか聞いてくる。リリーが出てきた瞬間村のみんなはさらに大きな激励を送ってくれたり、中には泣き出すやつまで出る始末。

 


「あぁ大丈夫。それじゃ、行くか」


「うん」


 そう言って俺達は互いに手を繋ぐ。それから、リリーが転移魔術を発動し始める。


「エスカ!」


 カインが前に出てきて俺の胸に拳を当てながら言った。


「頑張れ!」


「!!!」


 その言葉に俺は僅かに驚きながらもすぐに笑顔で『あぁ!』と力強く返す。


 次の瞬間、転移魔術は発動するのだった。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の妹、最強すぎる件について @hika3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ