第4話 うるさい来訪者


 正午、俺は目を覚ます。

 本来人間は朝に起きるのが普通らしいが別にいつ寝ていつ起きるかは俺の自由なので、そんな常識、俺にとってはくそくらえだった。

 そういえばまだ貴族だった頃もよく昼とかに起きて怒られてたっけな


「……腹減ったなぁ」


 俺は身体を起こして伸びをする。すると不意に外から剣を振るう音が聞こえた。


「あいつ、今日もやってんのか? 精がでるねぇ」


 身体を起こして窓から庭を見る。そこには案の定リリーが一生懸命汗を流し、鍛錬する姿があった。

 リリーはしばらく鍛練した後、俺に気づく。


「おはよう〜。朝から頑張ってるなぁ」


 とりあえず労いの言葉を送っておいた。その俺の言葉にリリーは怒ったような呆れたような様子で言う。


「おはようじゃないですよ兄さん。もうお昼ですよ? いくらなんでも遅すぎます」


「いやね、昨日ちょっと寝るのが遅れちゃって」


「今日だけじゃない。いつもいつも大体この時間帯に起きますよね? いつも前日に何してるのですか?」


「ほ、本読んでるだけさ……、ははは」


 俺が少し言葉を濁すとリリーはため息を付く。完全に呆れられてるなこれ。


「それで? ご飯ですか?」


 リリーが顔を上げて聞いてきた。さすが我が妹。俺の考えてることなんてお見通しのようだ。


「あぁ。おねがします」


 俺のその言葉にリリーは再びため息を付いた後、言った。


「じゃあすぐ降りてきて。今つくりますから」


「はいは〜い」


「『はい』は1回!」


「はい……」


 それからすぐリリーササッとご飯を作ってくれた。相変わらずのめちゃくちゃなうまさに俺は感服する。

 

 リリーが作ってくれたメシを完食して一息つこうとするとそこで突然ドアがトントンと叩かれ、誰かが尋ねてきた。


「兄さん、私お皿今洗ってるから代わりに出てきてください」


「えぇ〜」


「えぇ〜じゃないです! はやく!」


 そう強く言われてしまったので仕方なく代わりに出る。

 ドアを開けようとするといきなりドアが外側からドンッ!! っと開かれた。その直後、大きな声が家に響き渡る。


「やっほー! 二人とも元気ぃ……って、あれ?エスカ?」


 




 私、リリア・グラードは今食器の片付けで手が離せないので代わりに兄さんに出るよう頼んだ。

 ――のだが、


「どういう状況?」


 呆れた感じで私はそんなことを聞く。

 いきなり玄関から大きな音と聞き覚えのある大きな声が聞こえたので行ってみると、そこには案の定知り合いの姿と何故か玄関で伸びてる兄さんの姿があった。


「ちょっと兄さん大丈夫?!」


 慌てて兄さんの容体を見る。ただ、ほんとに伸びてるだけのようだ。


「あれ? もしかして、また?」


 そんな軽いノリでヘラヘラしながら言う知人に呆れながらも私は――。


「うん。ま・た・だ・ね!」


 っとちょっとだけ怒気を孕んだ声で言った――。





「んぁ?」


 そこで、俺は目を覚ます。あぁ、そうか、俺、あいつがいきなりドア開けたせいで顔打っちまった。


「おや? 目ぇ覚ましたかい?」


 全ての元凶がその顔で俺の顔を覗き込む。


「あぁ、おかげさまでな」


「おぉ〜いリリー。エスカ目、覚ましたよ」


 元凶がそう言うとバタバタと慌ててリリーがやってきて俺の顔を心配そうに覗き込む。


「兄さん! 大丈夫ですか? どこか痛むところは……」


 心配そうな表情で俺の顔を至近距離でうかがうリリー。 ほんのりリリーからいい香りがしたのはここだけの話。


「おい、近いって。少し離れてほしいんだが……」


 俺がそう言うとリリーは「はっ?!」っと我に返って慌てて俺から距離を取る。


 俺はとりあえずリリーを放っておいてニコニコしてる元凶に目を向ける。


 一応こいつの事を紹介しておこう。

 こいつの名は"カイン"。このセラル村出身の人間でこいつとは俺達がこの村にやってきてからずっと友達として接している。そういう関係だ。年齢は俺と同い年でリリーの一つ上だ。

 特徴としてはこいつ、性別は女の子。だが、一人称が『僕』なのだ。いわゆるボクっ娘ってやつである。


「んで、お前なんの用だよ」


 俺は怪訝そうにそう聞いた。

 ハッキリ言おう、俺はこいつが嫌いである。別に人間として嫌ってるわけではない。ただ、何かとこいつはめんどくさいのだ。


「そんな怖い顔をしないでくれよ。ただ暇だったから遊びに来ただけじゃないか」


 ニコニコしながら言うカイン。なんかムカつくので一発思い知らせてやりたい。。


「帰れ」


「そんなひどいこと言わないでくれよ。ってあれ?!」


 そうして、カインの視線は子グマに行く。


「ねぇエスカ! この子何? ちょおかわいいんですけど!」


 そう言いながらキューに頬をスリスリさせるカイン。


俺は昨日のことを簡単に説明する。


「ふぅ〜ん。なるほどね〜。相変わらずリリーは強いんだね」


「そりゃそうだろ。『剣聖』って言われてるくらいだし」


 俺が少し誇らしげに言うとカインは言った。


「まったく、どうしてこんなに差があるんだろうねぇ、君たちには。妹は最強として世界に名を馳せているのに、兄の方は無能で怠惰でニートで」


 「悪かったな。無能で怠惰でニートで――」


 俺がそう言ったあとカインが『アハハハ!』と笑いだす。


(ったく、何が面白いんだか)


 少しの沈黙の後、カインが聞いてきた。


「あれ? そういえばリリーは?」


 そう聞かれたのでさっきまでリリーがいたところを見ると、リリーはいつの間にかいなくなっていた。


「鍛練だろ。おそらく今は剣術の」


 俺がそう言うとカインは納得したらしい。あいつは時間あれば鍛練鍛練鍛練だもんな。


(無能と言われる俺と、世界が認める才能と実力を持つ妹のリリー。どこかのファンタジー世界でもここまで兄妹に差が生まれるものかねぇ。)


――っと内心で呟きながら俺はタバコを吸い始めるのだった。







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