第3話 追放兄妹の過去
それは、今から六年前に遡る。
没落貴族として王都から追放されたエスカと妹リリアは知らない土地を彷徨っていた。お互い空腹で今にも倒れそうなほどに。
ただ、それでも俺は妹の手を絶対に離すことはなかった。妹も俺の手を力強く握っているが今にもほどけそうだ。
それから永遠とも思える時間、そこを彷徨い続け俺達はある一つの小さな村に辿り着く。
だが、そこで俺の体は限界を迎え、意識を失った。
そうして長い長い眠りから目覚めると知らない天井が見えた。
今俺はベッドに寝かされている?
俺は何があったのかわからず困惑していると、ドアが開いて一人のおばあさんが濡れタオルを持って入ってくる。
俺は思わず体を起こして警戒した。
「おや? 目覚めたようだね」
俺の様子を見てひとまず安堵するおばあさん。そうして俺の傍まで来て俺の体を再び横にさせる。俺は困惑しているとそこで俺はある一人の大切な存在を思い出す。
「そうだ! リリー!」
俺が飛び起きるとおばあさんは微笑みながら『大丈夫』と言って指を指す。俺がそっちに目を移すとそこには俺と同じようにベッドに寝かされ静かに寝息を立てるリリーの姿があった。
「倒れていたあなたたちを見つけた村の人間が教えてくれてね、私の家まで運んできたってわけだよ」
おばあさんは優しく説明してくれた後、聞いてきた。
「それで? 一体何があったんだい? そんなお互いボロボロになって、びっくりしたよ」
そう問いかけられ、俺は言おうか迷っていた。普通なら「私はあなたらの命の恩人。事情聞く権利はあるはず」とか言ってきそうだが、おばあさんは俺の考えていたこととは全く違うことを言ってきた。
「まぁ、無理に言わなくて大丈夫さ。その様子だとかなり過酷な出来事だったんだろうからね」
エスカはその発言に驚いた。貴族は普通そんなことを言わない。まぁ貴族でもなんでもないただの平民なのだが、それでもだ。
「私の名前はクラフだ。一応この村の村長だよ。あなたの名前は?」
「……。エスカ・グラード……」
「エスカね。それじゃあこれからよろしくね。エスカ」
「は、はい……?」
グラードと聞いても何も反応がない。知らないのだろうか。それならそれで好都合だが。
そうして俺とリリーは村長さんの家でお世話になることになった。村長さんはとても優しく面倒見が良くて最初こそ警戒していたリリーもいつの間にかすっかり村長さんに心を許していた。
挙げ句の果てには村長さんの事を『おばあちゃん』と呼ぶ始末。
かく言う俺もこの村で数カ月過ごす内にすっかり打ち解けてしまったが。
このセラル村は村長さんだけじゃなくこの村に住むみんなが親切にしてくれた。
そうしてこの村にきた時には痩せていた俺達の身体もだんだんと肉が付いてきて健康的な身体になり、リリーの美貌が村のみんなに知れ渡ることになる。
さらに日が経ち、ここへ来て半年が経った頃、俺はついに覚悟を決めた。
「ここへ来て半年……。村のみんなは俺達の過去も気になっているだろうな。そろそろ、か……」
リリーは今日村の友達と遊びに出かけている。 毎日楽しそうなリリーの姿に俺は心底安堵する。
俺はそのあと村長さんの所に行き、意を決して自分達の過去を打ち明けた。
村長さんは黙ってそれを聞いてくれている。
そして、俺が全てを語りおえると村長さんは――。
「大変だったんだね……」
っと激しく同意してくれた。これまでそんな同情されるような事を生まれて一度も言われたことがないだめ、俺は少し困惑した。
そうして、俺達の過去は村長を通して村のみんなに伝わる。正直、これが原因でリリーがまた傷つく事が恐れたがそんな事は杞憂だった。
村のみんなの反応は村長と同様、激しく同情してくれていた。
「俺の心配も杞憂だったか……」
それからというもの、変わらずみんなはこれまでどおりに俺達に親切にしてくれていた。
こんな日々がずっと続いてほしいと思うほど、俺はこの生活に充実感を感じていた。
だが、更に半年の月日、この村に来てからちょうど1年経った時、"事件"は起きた。
「兄さん、おばあちゃん知らない?」
ある日の正午、リリーがそんなことを聞いてきた。当然知らない俺は『いや、知らないぞ』と返す。
「なんか用事でもあるのか?」
「いや、用事はないんだけど、今の時間帯、いつもならお昼ご飯作ってるはずなのにいないし」
言われてみれば確かにそうだ。村長さんはいつもこの時間帯なら昼食の用意をしている。けれど、今日はいない。
まてよ? 今思えば、村長さん、朝から居なかったような……。
「私、探してくる!」
そう言って家を飛び出すリリー。仕方がないので俺も付いていった。
そうして村の人達に聞いた所、村長さんは朝早くに森に山菜を取りに行ったらしい。
だが、あまりにも遅すぎることで心配になり森の方に向かってみる。
そこで、俺達は"それ"を目にすることになる――。
「……ぃさん! 兄さん!」
そこで、俺の意識は現代に引き戻される。目の前には過去とは段違いに成長した妹の姿。
「いきなりボーッとしてどうかしたんですか?」
「いや、少し昔のことを思い出してただけだよ」
「何を?」
「………"あの日"のことだよ」
俺がそう言うとリリーにも伝わったようで何か懐かしむような顔になる。
あの日、俺達は村長さんを探して森にやってきた。そこには、何かに引っ掻かれた爪跡の大きなキズが付いた村長さんの遺体があった。どうやら魔物にやられたらしい。
この事はすぐに村中に知れ渡り、葬式が行われ、村長さんの墓が作られることになる。あっさり起きたその出来事に俺はただ呆然とするだけだった。
「私、誓ったんだ。あの日、おばあちゃんのお墓の前で。『私が絶対強くなってこの村をまもる』ってね」
俺はそれを聞いて苦笑いしながら言った。
「もうとっくに達成してるじゃねぇかその目標。なんなら最強だし」
リリーは幼い頃からもともと全てにおいて才能があった。どの分野をやらせても卒なくこなし、平均以上の実力を出す。それが開花して現在最強の称号を得ている。
だが、俺がそう言ってもリリーは首を横に振って言った。
「いや、まだまだだよ。炎の魔術とか使っちゃうとまだすこし草に日が付いちゃうし、剣術も同様に村に多少の被害がまだ出てる。だから、もっと力のコントロールがいるよ」
「この村基本は平和で何もないけどな。魔物の被害だってそれこそ稀だし」
「それでもダメ。何があるかわかんないのがこの世界だから。もうおばあちゃんのような人をこの村から出させたくない……」
頑なに自分の信念を強く言うリリーに「やれやれ……」と思いながらも強くなった我が妹を見て大変嬉しく思う限りだった。
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