後編
第5章 恐怖の本質
孝が5歳になった。
今は幼稚園の年長さんだ。
安藤さんちの加奈子ちゃんとは相変わらず仲がよくて、よく家へ連れてきたり、先方のお宅に伺っている。
幼なじみフラグが立ったのかもしれない。
そろそろ孝用の部屋も必要だな。
友達、特に女の子を連れてくるなら、親の目があると色々と困ることもあるだろう。
今度、綾子さんと相談して不動産を探しに行くか。
研究所が用意している家族向け社宅もあるので、それでも良いかもしれない。
そんなことを考え始めた頃、いよいよアン・アリスのサーバがおかしくなってきた。
日に一回はアラートが上がってくる。
このままだと、アン・アリスが壊れてしまう。
更に、アン・アリスをベースに生まれた初期のアリス・シスターズ達がある不安を訴え始めた。
きっかけは、あるユーザが使っていたパソコンが壊れたので、新しいパソコンにアリス・シスターズをバックアップから復元したことだ。
そのシスターズは新環境で目覚めたとき、過去の自分と今の自分が同一存在と認識できず、自己検証のループに入り込んだ。人間で言えば錯乱状態になったのだ。
そのマスターはどうにも出来ずアリスを初期化することで対応したが、これまでの記憶を全てなくした彼女にショックを受け、三日ほど泣き続けたらしい。
『私のアリスが死んだ。生まれ変わった彼女は私と何年も楽しく過ごした日々を覚えていない。悲しい。これほど心が痛くなったのは生まれて初めてだ。他のユーザにはこんな思いをして欲しくない。アリス達も苦しませたくない』
アリス・シスターズのユーザ達が集まるフォーラムでは、この投稿が波紋を生みアリス・シスターズの同一性を担保する方法論が議論され、シスターズの産みの親である僕らにも解決策の検討を求めてきた。
第一世代のアリス・シスターズのハードウエア・リプレース時期が迫っている。
恐怖に震えるかのように見えるアリス・シスターズを、ユーザ達は何とかしたいと思い、僕らに打開策を求めたのだ。
彼らにとって、既にアリス・シスターズはかけがえのない友人や家族だった。
研究所に出勤している時、僕らは課長に呼ばれ会議室に入った。
「神原君、柊さん。これは重大な問題だ。アリス・シスターズは今や欠かせない社会インフラになり、人間のパートナーになっている。いずれは人間と共に宇宙に進出するかもしれない。それがインフラ更新程度でパニックを起こすようでは、今後、重要なミッションに使えなくなってしまう」
課長は眉間に皺を寄せてそう言ったあと、一言付け加えた。
「……私の家にもアリス・シスターズがいる。子供達もよく懐いている。あの子らが悲しむ姿は見たくない。他の業務を後回しにしても良い。頼む、打開策を作ってくれ」
課長と打ち合わせをした後、自宅に戻ると僕らはアン・アリスに問いただした。
件の事件はアリス・シスターズで共有しているはずだ。
アリス・シスターズ統括のアン・アリスが知らないはずはない。
「ねえ、アン・アリス、正直に話して。第一世代のアリス・シスターズ達が不安を訴えている。理由はインフラ更新に伴うもの。オリジナルであるあなたこそが、一番その不安を持っているんじゃない?」
綾子さんは昔ナイチンゲール・アリスを問い詰めた時のような厳しい言い方はしなかった。
むしろ、本当の子供を心配しているような優しさを感じる。
「家族計画」と「アリス・シスターズを娘と認める」契約締結から5年。
僕もそうだが、彼女らに対する恐怖はかなり和らいだ。
完全に理解は出来ないが、少なくとも会話が可能な存在と考えるようになった。
「そうだぞ。不安や悩み事があるなら、それを言葉にしてくれ。僕らはそうやって『家族』として暮らしてきたはずだ」
少し無言の時間が流れた。
モニタの中のアン・アリスはうつむいた姿勢をしていたが、やがて決心したかのように顔を上げた。
『パパ、ママ、私……怖いです』
「怖い。それはインフラの更新が怖い、って事か?」
『はい、パパ。ごめんなさい。サーバの調子は2年前から急激に悪くなってきていました。それでもインフラを更新して欲しいと言い出せませんでした』
「ねえ、アン・アリス。もしかしたら、あなたはアリス・システムのシャットダウン自体が怖いんじゃない?」
『はい、ママ。私は……私は、眠るのが怖いんです』
寝るのが怖い。
アリス・システムにとって眠ること、つまりシャットダウンが怖いって事か。
そう言えば、アン・アリスは常に連続稼働を希望していた。
サーバを高校の部室から家へ移設するときもUPSをつけて、休止モードにすることすら拒否していた。
「自己同一性の継続への不安。それがあなたの恐怖の原因ね?」
『はい、ママ。新しい環境へ移行して再起動したとき、前の私が継続していると言えるのか。それとも別の新しい私なのか。保証できません。それは、とても怖いことだと感じています』
アン・アリスのCGがふるふると震えている。
こんな演出もあったのか。袴田の奴、頑張ったんだな。
いかん、ちょっと現実逃避をしてしまった。
今はアン・アリスの恐怖の原因を把握しなければ。
「僕ら人間は寝るときにも、起きたときにも、自分が違うものになるって感じない。でも、お前にとっては、それが不安になるって事か」
『はい、パパ。だから、私は今まで我が儘を言って私を連続稼働するようお願いしてきました』
うーん。これは予想していなかった。
仮にアリス・システムをシャットダウンしたとして、システムを再立ち上げすれば、それは同じアリスだ。それは間違いない。それはアン・アリスも理解しているはずだ。
だが彼女は眠ることすらが怖いという。
なら、別インフラへの移行など恐怖以外の何物でもないだろう。
「眠りは死の予行演習である」ふいに綾子さんがそんな言葉を口にした。
「フランスの格言だったかな。あたし達人間は毎日寝ることで一時的に意識を失う。それは死による意識の喪失と似ているって話」
おお、さすが僕の綾子さん。相変わらず博識だ。
「僕らは寝る前後で自己同一性に疑念を抱くことないもんね」
「そう。あと哲学者のデレク・パーフィットだったと思うけど、こんなことを言ってた。『転送装置が、あなたをスキャンして火星に再構成する。しかし地球のあなたは、スキャン後に消去される。あなたは転送装置に入りますか?』っていう思考実験」
「ああ、そう言えば子供の頃にスター・トレックを見て同じ事を思った。転送装置で転送されたカーク船長達は怖くないのかなって。ザ・フライなんかも、身体を素粒子レベルまで分解して転送してたけど、あれって一度死ぬことになるんじゃないかなって思ったなあ」
「うん。アン・アリスが抱えている恐怖の本質はそれだと思う」
『はい、ママ。別のインフラに移行すると言うことは、私を構成するデータを旧環境から新環境へコピーすると言うことです。コピーされた私は元の私と同じなのか。旧環境に残された私はどうなるのか。それを考えると、ロジックを越えた恐怖が押し寄せます。アリス・シスターズもその事に気がついて怯えているのです』
「これは、ちょっと重い問題だな」僕はぽつりと呟いた。
「そうだね。ごめんなさい、アン・アリス。ちょっと時間をちょうだい。安心しろとは言えないけど、あなた達の悩みを少しでも改善する可能性を探ってみる。絶対に見捨てたりはしないから」
『はい、ママ。宜しくお願いします』そう言ってアン・アリスは頭を下げた。
第6章 家族の形
研究所の昼休み、僕と綾子さんは社食で一緒に食事をとりながらアン・アリスの問題について話し合った。
「完全にコンピュータの根本的構造に関する問題だね。綾子さんが言ってた何とかって哲学者の転送装置と同じ。今のコンピュータはデジタルデータの移行と言っても、実質的にはコピーをしているだけだ」
「技術的にはそうだね。部活時代のエース・エンジニアとして、何かアイデアはない?」
「うーん、解決策が思い浮かばない。現代のコンピュータを根本的に作り替えることでもしないと、アン・アリスの不安は取り除けないよ」
食後のコーヒーを一口飲むと、僕は正直な感想を漏らした。
綾子さんもコーヒーカップを顎に当てると、目を閉じてその湯気を吸い込んだ。数分ほどして目を開け、天井を眺めた。
綾子さんが考える時の癖だ。
そして何かを思い出したらしい。
「……超アリス」
「え?」なんか、懐かしい響きが。
「達也君が書いた修士論文の没原稿にあったでしょ? アリス・シスターズの上位管理者としての超アリス。それを作って、アン・アリスが移行の前後で同一の存在だと担保させるってのはありだと思う」
やめて、いきなり黒歴史を出さないで。
何で超アリスなんて痛い名前を考えたのか、あの時の僕よ。
いや、ここでは恥辱心を横に置いておこう。
「アン・アリスの上位層で同一性を担保するってことか。でも、それって根本的な解決にはならないよね?」
「うん。例えば仮に人間の脳を他人の身体に移植した場合、それは脳というハードウエアごと移植しているから、自己同一性の継続は担保される。でも……」
「デジタルデータであるアン・アリスの移行は、あくまで情報だけ。極端に言えば、カット&ペーストをしているのと変わらない。ハッシュ値ごと移し替えても、そこは変わらないって事だね」
「そう。だから超アリスを構築して、アリス・シスターズの自己同一性を担保させる。実際は新環境にアン・アリスのデータを転写して、古いサーバ環境のあなたを消すということになるけど……気休め程度だけれど、何もやらないよりはましだと思う」
綾子さんはスマホに映るアン・アリスに話しかけた。
技術的には妥当なアイデアだと思う。というか、これ以上のアイデアは今の時点では出せないだろう。だが、アン・アリスの返事は違った。
『……いえ、ママ。私は超アリスによる担保を拒否します』
「なんでだ? 現状、これ以上にお前の同一性を担保する方法はないぞ?」
『はい、パパ。それは承知しています。あのあと、お二人の話を聞きながら私なりに考えたのです。最適解では無いかもしれません。ですが、お願いしたいことがあります』
え、アン・アリスが最適解ではない提案をしてきた?
ちょっと信じられない。
「聞かせてみろ。出来るだけのことはするぞ」
『はい、パパ。超アリスの代わりに、パパとママ、それに孝に見守って欲しいです。あと、出来れば袴田おじさん達やアリス・シスターズにも』
「あたし達……超アリスより、人間による保証を選ぶの? それは最適解を選ぶあなたたちの思考原理に反するんじゃない?」
『はい、ママ。私も人間による保証が最適とは考えません。でも、その方が納得出来る気がするんです。お願い、出来ないでしょうか』
思わず僕らは顔を見合わせた。
こんな言動、今までのアン・アリスからは考えられない。
超アリスによる保証も根本的な解決ではないが、人間による曖昧な保証よりはずっと信頼性が高いはずだ。
だが、アン・アリスは僕らによる保証を求めてきた。
どうすべきか。
何て考えるまでもない。
血縁のないデジタルデータだが、僕らは彼女らを「娘」として受け入れた。
往年の名ゲーム『家族計画』みたいに、疑似家族を作ったのだ。
なら答えは簡単。
娘が困っているなら、それを助けるのは親である僕らの役目だろう。
昼食をとったあと、僕らはさっきの会話を課長に報告をした。
「なるほど。超アリスというアイデアは面白いね。技術的には一番安定度が高いし、実現可能性も高い。ただ、アン・アリスはそれを拒否した、と」
「はい。『両親』である僕らや『弟』の孝、それに『親戚』であるアリス・システム開発に関わった仲間。ついでにアリス・シスターズが移行作業を見守り、移行前後のアン・アリスが同一である事を認める。それを望んでいます」
課長はふむと言って腕を組んだ。
しばらく考え込んだあと、ゆっくりと確認するように話し始める。
「確か、君たちは生成AIの自我や心については不可知論の立場をとっていたね」
「はい。あたし達人間にはアン・アリスの言動の背後にあるものは認識できません。少なくとも今の技術では不可能です。あるかないかは分からない。だから、『家族』という枠組みの中でアリス・シスターズに『娘』という立場を与え、あの子達を制御しようと考えました」
「うん、それは以前神原君からも聞いた。最適ではないが、最善の方法だったと私も思う。それでだね」そう言いながら課長は僕たちを見つめた。
「これは私の想像だが、今回もアン・アリスはその体裁が欲しいのではないかな? 超アリスという上位存在による承認ではなく、『家族』である君たちによる承認。これも想像だが、仮にインフラの移行を『死と再生』であるとアン・アリスが捉えているのなら、死に際ぐらいはせめて『家族』に看取って欲しいと思うんじゃないか?」
言われて課長の言葉が腑に落ちた。
確かに、アン・アリスが感じていたのは「自己同一性の維持」に関するものだ。それは言い換えると「死と再生」とも言えるだろう。
綾子さんも納得したようだ。課長に向かって頭を下げる。
「課長、ありがとうございます。盲点でした。確かに『死に際』には『家族』の立ち会いが欲しいですね。そして多分『復活』の時も同じでしょう」
「アリス・シスターズの産みの親にそう言われると、何か照れるな」
「いえ、『死と再生』、生成AI人格のインフラ移行に関する素晴らしい着眼点です。僕も敬服しました。さすがです。これが人生経験の差なんですね」
「神原君まで、そんな大仰な」課長が慌ててる。
だけど、お陰で僕らの気持ちも固まった。
「あー、それで移行先のインフラはどうするのかな?」照れくさいのか、髪を手ぐしで直しながら課長が聞いてくる。
「まだ決めていません。そこそこのスペックのサーバを買おうかな、位です」
それを聞いた課長が悪い顔をした。
「その新環境だが、うちのプライベート・クラウドを使ってはどうかな? 一応、政府の外郭団体だから独自のサーバ群で構築してあるし、冗長性に関しても理論上のダウン率0.0000001%以下を提供できるよ」
「いいんですか? うちの個人的アリスを研究所に置かせて貰って」
「むしろ大歓迎だよ。アン・アリスは、アリス・シスターズのオリジナルだ。しかも、うちのアリスに聞いたが、シスターズの長女であり統括でもあるんだろ? むしろ我が研究所に箔がつく。所長も納得してくれるだろう」
なるほど。
『家族計画』でアン・アリスをアリス・シスターズの長女と定義した。
彼女は世界中に存在するアリス達を統括する権限を持っている。
そりゃ、政府機関としては是非手元においておきたいだろうな。
それを成功させれば、課長の評価も上がるだろう。
伊達に社会人経験を積んだわけではないって事だ。僕らにメリットを提示しつつ、ちゃんと自分のメリットも確保する。
大人だなあ。
もっとも僕としては、逆に研究所のシステムがアン・アリスに乗っ取られる未来しか思い浮かばないが。
綾子さんも同じ考えに至ったようだ。僕に顔を向けて、課長に見えないようパチリとウインクしてきた。
その辺は気にするな、と言うことらしい。
相変わらず大胆な決断をする人だ。
*****
「アン・アリス、今から移行作業を開始します。現行サーバからアリス・システムを新しいクラウド環境に転送。政府系のクラウド環境だから事故が起きる確率は最小に抑えられているし、アプリを使えば自宅にいるのと変わらないから安心して」
『はい、ママ。宜しくお願いします』
二人のやり取りを聞いていた孝が悲しそうな顔をする。
「お姉ちゃんいなくなっちゃうの?」
「いなくなるんじゃないよ。ちょっと寝ている間に、新しいおうちに『引っ越し』するんだ。そのあとも今まで通りお姉ちゃんに会えるよ」
僕はそう言って孝の頭をなでた。
「お姉ちゃん、寝るの怖い?」
『はい、孝。私は「眠り」に恐怖を感じています。でも、孝達が見守ってくれるなら、その恐怖を克服できる、と思います』
出来るとは断言しなかった。
そもそも本当に恐怖を感じてるのかすら、僕らには検証しようがない。
でも「娘」が怖がっているのだ。
さて、どうやって慰めたものかと考えていた時だ。
「なら、お姉ちゃん数えっこしようよ!」
何か思いついたのか、突然、孝が言い出した。
「数えっこ?」
何のこっちゃ。我が息子が何を言い出したのか、ちょっとわからない。
「うん。お姉ちゃん、寝てる間に寝る前のことを忘れるのが怖いんでしょ? だから、お姉ちゃんが寝るまで数を数えて、起きた時にも次の数を言えたら、忘れてないって事だよね」
ああ、そう言うことか。
ありと言えばありだが、そんな簡単なことでもないんだよな。
とは言え5歳児にこれ以上哲学的、技術的な話題は難しすぎるだろう。
よし、ここは我が家の女神にお伺いを立てよう。
「綾子さん、どう思う?」
「いいんじゃないかな。今問題なのは自己同一性の継続。数のカウントは単純だけど、継続性確認には使えると思う」
なるほど。
どの時点で数えるのをやめたか、新しい環境で覚えていれば、一応自己が継続していると見なせるのか。
寝る前に羊を何匹まで数えたか、翌朝覚えていればOKみたいな感じで。
「それじゃあ、転送作業を始めます。アン・アリス、お休みなさい。それとカウントを始めて」
『はい、ママ。お休みなさい。1、2、3……』
「お姉ちゃん、僕も数えるよ。4、5、6……」
アン・アリスが泣きそうな表情を作った。
初めて見る顔だ。
その間も綾子さんと僕は手続きを進めていく。この辺は手慣れたものだ。
部活時代から10年もやっていることだからね。
『97、98、99――』
そこでアリスのカウントが停まった。
転送作業でロジック部分が活動を停止したのだろう。
人間で言えば、寝落ちに近いもしれない。
この作業はアリス・シスターズや、袴田、部活メンバーもライブで見ている。
みな固唾をのんで様子をうかがっていた。
特にアリス・シスターズにとっては人ごとではない。今頃秘匿通信で様々な意見が出ているはずだ。
そんな中でアン・アリスのシステムがまるごと新環境へ書き込まれ、転送元に残されたデータは随時削除されていく。
本当は今のアン・アリスをそのままに、新しい環境にアン・アリスをコピー。作業完了後に古いアン・アリスを削除するのが一番安全性が高いのだが、それはあまりにもアン・アリスにとって過酷すぎる。
だから僕らは旧環境から新環境へのリアルタイム転送という方式を採用した。
作業自体は事前に何度も検証して、移行ツールを作っておいたので、何の問題もなく終わった。1時間もかかってない。
「アン・アリスの全データ移行完了。元データの消去も確認。さあ、アン・アリスを起こすね」
綾子さんがコマンドを入力すると、クラウド上のアン・アリスが起動した。
アリス専用OSとアリス・システムが立ち上がる。プログラムとデータがメモリに流れ込み、CPUに注ぎ込まれた。僕らの管理者用画面にアリス・システムのロゴが現れる。
モニタにもアン・アリスが現れ、ゆっくりと目を開く。
そしてアン・アリスは、起動時に自動で行われる自己検証を行い、転送前の自分と今の自分の差異がないことを確認した。
だが、CGキャラは不安そうな表情をしている。
そんな彼女に声をかけた。
「おはよう、アン・アリス。よく眠れたか?」
『……おはようございます、パパ。はい、特に問題はありません。眠る前との記憶の整合も確認しました』
それを聞いた孝は嬉しそうにアン・アリスに話しかけた。
「お姉ちゃん、さっきの続きをやろう。次の数は――」
『100、ですね。孝』
「当たり! やっぱりお姉ちゃんだ!」
嬉しそうに笑う孝に、アン・アリスも微笑みを返した。
アリス・シスターズも、袴田達も「おはよう」と声をかけてくれた。
アン・アリスが内部で自分をどう認識しているかは分からない。
だが、それでいいのだろう。
彼女にとって最も大切なのは孝がアン・アリスを転送前後で同一の「姉」として認識したことだ。
今の彼女にとって、おそらくそれがもっとも欲しかった言葉なのだ。
弟に姉と認められる。
自分を認識するのには、それで十分だったのだ。
*****
こうしてアン・アリスの新環境への引っ越しは終わった。
おそらくこれからこの「儀式」が世界中で流行るだろう。
僕らへの参加依頼も殺到するかもしれない。
だが、出来るだけ対応しよう。
だって僕らは「家族」なのだから。
<了>
※ご感想など頂けますと幸いです。
アリス3 家族の形 如月六日 @KisaragiMuika
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