ただいま地球縮小中

ちびまるフォイ

ふえる水の惑星

「やっべ! もうこんな時間!?

 駅まで1時間あるのに……間に合わない!!」


時計は無情にも遅刻を示していた。

あわてて身支度を整えて家を出る。


やっと駅に到着すると電車に間に合ってしまった。


「あ……あれ? 徒歩1時間のはずなのに。

 どれだけ爆速で急いだんだ?」


その日はわからなかった。

理由は帰り道で気がついた。


片道1時間の道のりが30分で家に到着。


「道が……短くなってる!?」


自分が早かったのではなく、

家から駅までの道のりが短縮されていた。

それは自分の家路だけの話ではなかった。


『緊急ニュースです。専門家の発表に寄ると

 毎秒Xkmの速さで地球が収縮しているのが検知されました!

 いまだ原因は不明です』


「しゅ、収縮だって!?」


家を出てみると、収縮の影響で隣の家が別のアパートに食い込んでいる。

地球は小さくなったのに家のサイズは変化しない。

今も地球の縮小が続くなら自分の家もいずれ衝突するだろう。


「まぁ、ここらへんは広いから隣の家にぶつかるまでは時間かかるだろ」


などと安心していたが問題は別にあった。

家の前には大家さんが仁王立ち。


「大家さん、なにかあったんですか?」


「家賃」


「それはもうお支払いしたでしょう?」


「足りてない。今月から家賃は3倍」


「えっ!? そんなの聞いてない!?」


「地球が小さくなっているから土地が貴重になっている。

 だから当然家賃もあがる」


「住んでる人の同意もなくそんなこと……」


「じゃあ出てけ」

「横暴だぁ~~!」


住む家を失った人は多いようで、街にはホームレスが折り重なっている。

地球が小さくなることで貴重になったわずかな土地。

そんな土地には細く縦に長い高層ビルばかりになってしまった。


「この先どうすればいいんだ……」


段ボール布団にくるまりながら寒さに震える。

そんな日々も長くは続かず、ますます地球の縮小速度は早くなる。


地球の面積が小さくなったことで食べ物も間に合わず

もうしばらくちゃんとしたものは食べていない。


「うう……腹減った……」


小さくなった地球は気温変動がますます激しくなり、

日中はクソ熱いくせに夜は驚くほど寒い。


死を覚悟したその翌日。

国の政府バッジを付けた役人が自分の前に立っていた。


「お前ちょっと来い」


「え!? いや僕はなにも悪いことしてませんよ!?」


「これを受け取れ」


渡されたのは宇宙服。


「なんで宇宙服……?」


「専門家のみたてによれば地球はいずれ1円玉サイズになる。

 もう縮小を止められないので、政府は決めたんだ。

 全国民に宇宙服を配ると」


「話が見えないですけど……」


「それを着ていれば、宇宙でも死なずに済むだろう?」


なにかの冗談かと思った。

でも地球の収縮はけして止まらなかった。

もはや国境だとかの概念がなくなるほど地球は小さくなる。


地球の重力は失われ地表に立てなくなった人間は宇宙へと進出。


こんな短時間で宇宙ステーションだの、惑星コロニーだのは用意できず。

ただ地球の人たちは宇宙へと投棄されることになった。


「ああ、これが地球……。こんなに小さくなって……」


地球はもうポケットに収まるミニチュアサイズ。

その周囲を元・地球の住民たちが宇宙服を着て漂っている。


「これからどうなるんだろう……」


新たに住める惑星を求めて虚空の宇宙を冒険する人。

もう諦めて無重力のままに回遊する人。


自分はというと、とにかくお腹が減っていたので

宇宙のデブリを泳いではなにか食べられるものを探していた。


「あれは……お菓子の袋か!?」


ついに見つけたのはまだ封が切られていない袋。

透明な袋には小さな丸い物体が入っている。


「なんだろうこれ。でもこのサイズ感だし食べ物だろう」


封を切ってひとつを口に放り込む。

宇宙バイザーを閉じてから噛もうとするが硬すぎた。


「うわなにこれ。まるで石みたいだ。

 土の味もするし……飲んじゃおう」


食べ物じゃなかったかもしれないと飲み込んだ。

なんでもかんでも食べるものじゃないと思いつつパッケージを見直した。


ラベルも何もすべて宇宙語で書かれている。人間用じゃない。

唯一わかるのはイラストで書かれた部分だった。

袋に入った丸い物体に水をかけるようだ。


「こうすれば食べられるのかな」


デブリの中から水を見つけて、袋から取り出した丸い玉を取り出す。

玉に水をかけた途端。



「わ!? なんだ! デカくなってきた!?」



さっきまでポテチ袋サイズに何個も収まっていた丸い玉のひとつ。

水を吸収するやみるみる大きくなり、ついには惑星サイズになった。


緑が生い茂り、海が広がる青い惑星。

その名前を自分は知っていた。


「ち、地球……!?」


袋に詰められていた地球のモトを見てみる。

1つ1円玉サイズの地球は、収縮した最終状態とそっくりだった。


「もともと地球はこのちっちゃいサイズだったんだ。

 水で大きく膨らんであのサイズだったのか……」


ふたたび帰る惑星を見つけることができた。

また地球が収縮したなら、袋から次の地球を水でふやかして出せば良い。


「ああ、これでやっと孤独な宇宙から解放される。

 地面に足をつけて生活できる!!」


この記念すべき日に乾杯した。

といっても水だが。


宇宙服から伸びるストローで水を飲んでひと安心。


「さあ、母なる地球に戻ろう!」


地球へと降り立とうとしたその時。

体に違和感を感じた。


お腹のあたりがなにかおかしい。

まるでなにか膨張するようなーー……。



「俺なにか変なもの食べたっけ……」



最後に思い出したのは地球の元を飲み込み、

そのうえ水を飲んでしまったことだけだった。

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