第2話 ハルカは愛を伝えたい
■ハルカは愛を伝えたい
青空から夕焼けがはじまる通学路。
今日もハルカとヨッシーは一緒に帰る。
「ね?……好きって信じてくれた?」
「……今日も暑かったな」
「手つなごっか?」
ハルカは今日もヨッシーと手をつなぎたい。
「……もうちょっとさ、考えさせてよ」
「えー百年の時が流れるし。そんなに待てないよ」
「そんなにはかかんないから」
「……シンデレラは次の日は迎えが来たのに」
シンデレラってそんな話だっけ?一瞬気を取られる。
ハルカはイヤな未来を振り切るかのように、首を振る。
「ヨッシーって、字キレイじゃん。書道に通ってるの?」
「……実はまあ、通ってる」
「すごーい!」
すかさずハルカが褒めてくる。
「ただなんというか、続けてるだけ」
「さすが!」
「気晴らしにはなるよな」
「すごーい!」
「……得意な文字は犬……」
「さすが!」
「……おい、その変な褒めやめろよ」
ハルカは目を見開く。
視線を泳がせたあと、分かりやすく肩を落とす。
「……違うの。ねえねが言ってたの。……喜ぶって」
男は単純だから、褒めておけといったアドバイスだろうかと、ヨッシーは理解する。
「そういうやつもいるかもだけど……それよりちゃんと会話しよ?」
「ごめん……」
ハルカの顔は沈んでいる。
……頭を巡らせる。
歩みがやや緩やかになる。
「……パグに似てる、パグに!」
ハルカはヨッシーの方を見る。
「どういう意味なの?」
「ハルカへの悪口。めちゃくちゃな悪口」
ハルカは声を立てて笑う。
「ホント、シンプルに悪口だし。パグよりチワワでしょ」
上目遣いをしてみせてくる。
ハルカが笑って安堵する。
なんでだよ……。
「かわいい目を見てよ!ウルウルウル」
ハルカは調子にのっている。
信号が赤になる。
風が吹き抜ける。
蝉の声が遠くに聞こえる。
「あのさ、よくわかんないんだよね……」
「なーに?なにが?」
ヨッシーは耳が熱くなるのを感じる。
「……軽いんだよ?信じられない」
視線を赤信号に向けたまま、ヨッシーは言葉をつけ足す。
「……ハルカの気持ち」
「私の気持ち?ヨッシーへの愛?」
信号はまだ赤、焦るのはそのせいだ。
ハルカからの視線を感じる。
「……手をつないだらわかるかも?信号が変わったらつなぐ?」
「つながない。……からかってるだろ?」
「からかってないし!どーしたら伝わるかなー」
どうしたらって言われても、視線を空に移す。
白い三日月が見えている。
「『月は綺麗ですね』……夏目漱石はそう言って愛を伝えたらしい。なんか、こう本心見せてよ?」
「……月がキレイ?」
信号が青に変わる。
歩きはじめる。
ハルカもやや遅れてついてくる。
「字がキレイ!」
ハルカが大きな声を出す。
「字がキレイ……私からヨッシーへの『愛してる』」
ハルカの顔を見る。
「愛してるだよ?……どう伝わった」
慌てて横を向いてしまう。
その顔にどうしても鼓動が速くなってしまう。
「……ヨッシーのその顔が答えだよ!ねっ?私と付き合っちゃおう」
ハルカはヨッシーの真横に並ぶ。
いつもより一歩近くヨッシーの隣を歩く。
ほんの少し、中指と中指、小指と小指が触れる。
ハルカとヨッシーの手と手がわずかに触れた。
「……手をつないだら、もっと分かりやすくなると思うけどな?」
「手はつながない……まだ早いだろ」
ハルカはその言葉に、ゆっくりと歩みを進める。
一歩、二歩、……三歩目でヨッシーに確認する。
「……ヨッシーは私の彼氏……だよね?」
「それで……お願いします」
柔らかい風が通り抜ける。
空が青から赤を帯びて夜に染まっていく時間。
「……『字がキレイ』……だよ?」
隣に並ぶハルカの顔をみると驚くほど赤くなっていて……その顔は純粋に嬉しそうで。
ハルカと目が合う。
ハルカからフイッと逸らされる。
「……初めての彼氏だったりする?」
「そうだよ?知らなかった?……ヨッシーは?」
「……俺もだよ」
「それは知ってた」
「だからその言い方ないだろ?」
ハルカには笑ってしまう。
笑い声、灯り始めた夜の街灯、並ぶ影。
手はまだつながないで歩いていく。
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