第11話 ──天宮ってさ、意外とかっこいいよね

「バーガーもポテトもさいこーーー! これぞまさに、カロリーの暴力……!」


 チーズを2つ重ねた大きなハンバーガーを口いっぱいに頬張りながら、涼川真夏は幸せそうな顔を見せる。


「嬉しそうで何より」

「いや、何よりじゃなくてさ。天宮もポテト食べてよ」

「えっ? けどそれは真夏さんのじゃ──」

「こんなの全部食べたら、私がブクブクになっちゃうでしょ?」

「ポテトのMサイズでブクブクにはならないかと……」


 深冬ほどではないにせよ、真夏もかなり線が細い。さすがに気にしすぎだ。


「あと俺、細くてカリカリ系のポテトより、太くてホカホカ系のポテトの方が好みかも」

「わかる。すごくわかる。芋感が強いポテトも間違いなく美味しい」


 真夏がしきりにうんうんと頷く。


「けどやっぱり私は! 細カリなポテトから摂取できるこの油の背徳感が! たまらなく好きなのよねー。もはや背徳感を食べているまであるわ」

「そ、そうなんだ……」


 まあ気持ちはわからなくもない。

 なぜかジャンキーなものを無性に摂取したい時期はたしかにある。背徳感を食べるはよくわからないけど。


「でもそんなに油が好きなのに、よく普段は我慢できるな」

「まあ、良くも悪くも人に見られるからねぇ。『涼川真夏、最近ニキビ増えたな』とか思われたら癪じゃん?」

「そういうものなのか」

「そういうものなの! 女の子は大変なんだよ?」


 茶目っ気のあるその表情に、思わずドキッとしてしまう。

 そんな顔、彼氏以外に見せちゃだめだろ……プニキュアという嫁がいなかったら、危うく俺のことが好きだと勘違いして告白して撃沈して引きこもるところだったわ。


「そ、そういえば真夏さん。家では料理もするんでしょ?」

「うん。うちは両親の帰りが遅いから」

「偉すぎる……」

「当たり前じゃない? まさか食べないわけにもいかないし」

「いやいや、自炊は普通に偉いでしょ。それに当たり前のことを当たり前にできるって、全然当たり前じゃないと思う」


 一人暮らしを始めてみて、特に実感する。周囲のに、今まで俺がどれだけ支えられてきたことか。

 家に帰ればご飯があって、外出する時には服が洗われていて、トイレはいつも綺麗に保たれている。それは決して、当たり前にあるものじゃない。


「……そう言ってもらえると、ちょっと救われるかも。ありがと」


 真夏は照れくさそうに頬をかいた。

 

『そういう自分を演じてるからね』


 そんな風に、真夏は言っていた。

 これもきっとその一つ。真夏が思う、姉のあるべき姿、役割なのだろう。


「──天宮ってさ、意外とかっこいいよね」

「!? か、かか、からかうなよ」


 嘘でも顔が赤くなる。 

 だがかっこいいわけがない。俺は陰キャだし、友だちいないし、もちろん顔も良くないし……。


「別にからかってないわよ。ちゃんとした美容院で髪を切って、常識的な服を買って、背筋を伸ばして歩いたら、絶対もっとかっこよくなるわ」

「そう、かな」


 にわかには信じ難い。残念クソオタクだし。

 だが俺の髪は1000円カットで、服も中学で買ったものなのは事実。姿勢も猫背で最近腰が痛いし。


「というか、かっこよくなりなさいよ。《《ふゆの好きな人》、》なんだから」


 真夏はメロンソーダを紙ストローでズズッと吸った。

 

「でも……あの男女逆転シンデレラは、俺じゃなくて真夏の思いつきだし。ただ俺は、それをみんなに提案しただけで──」

「そう、実際に行動したのは天宮。もしも私の助けなら、ふゆはその手を取らなかった」

「そうなの、かな」


 深冬の一番近くにいた真夏が言うのなら、たぶんそうなのだろう。

 でもやっぱり納得はできない。だって真夏がいなければ、俺は何もしなかっただろうから。


「天宮ってさ、彼女いたことないの?」

「えぇっと……今度は煽りですか?」

「違う違う! そうじゃなくて。私も付き合ったことないからさ。男子と映画行くのも今日が初めてだし」

「えっ、そうなの……?」

「そうそう。女の子と遊ぶ方が楽しいもん」


 言われてみれば、教室でも真夏はいつも女子と一緒にいる気がする。

 涼川姉妹とデートした男はいないって噂もあったけど、あれも本当なのかな。


「……練習してみよっか」

「れ、練習?」

「そそ、天宮はデートの経験ないみたいだし。練習がてら、アーンでもしてあげようかなって」

「い、いや。大丈夫……」

「遠慮しないで! ほら、口開けて」


 真夏はポテトをまとめて掴み取り、俺の方に差し出した。


「ちょっと待って」

「何よ、恥ずかしいの?」

「それは大いにあるけど……ポテトを10本まとめて人の口に詰め込む行為を、俺はアーンとは認めない」

「えー」


 たぶんアーンはどうでも良いのだろう。

 何かと理由を付けてポテトを食わせようとする意図が見え見えだ。


「量が多いならSサイズにすればよかったのに」

「わかってないわねぇ。それじゃ背徳感が半減しちゃうじゃない」

「別にいいだろ」


 結局アーンは逃れたが、ポテトの6割は俺が食べた。



 夜の回とはいえ、公開当日の劇場はやはり客も多い。でも見たところ、小さい子どもはいないので、落ち着いてプニキュアを応援できそうだ。

 俺の右に座る真夏は、ストロベリーのポップコーンをちょこんと膝に置いている。


「最近はいろんなポップコーンがあるのね。私が小さい時は、塩かキャラメルしかなかったのに」

「ああ、たしかに。キャラメルポップコーン好きだったなぁ」


 キャラメルのかかり方が均等じゃないから、普通のポップコーンも混じってたりして。最後がそればっかりになると、ちょっと悲しいんだよね。


「天宮はポップコーン、上映前に食べる派?」

「そうだね、上映中は作品に集中したいし。真夏は?」

「断然上映中派ね。何かを食べながら映画を観るっていう背徳感が、もう最高なのよね」

「……背徳感好きだな」


 逆に普段の意志の強さに驚かされる。


 そうして、俺のポップコーンが丁度なくなったところで、カメラのお兄さんが踊り始めていた──。

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