第10話 でもたまにならいいよね!!!

 日曜日の17時。

 俺は改札前のベンチで缶コーヒーを飲みながら、彼女の到着を待っている。


 必死に平静を装い、人の流れを眺めているが、内心はドキドキが止まらない。だって男女が待ち合わせて映画に行くって、それはもうデートじゃん……!

 もちろん真夏がオタク友だちとして、俺を誘ってくれたのはわかってるけど──


「あっまーみや!」

「うわっ!? ……びっくりしたぁ」

「おつおつー。そんなに驚かなくてもいいじゃん」

「そう言われましても……」


 ただでさえ心臓がバクバクなのに、いきなり後ろから大声で呼ばれたら、そりゃ驚きもする。

 真夏は慣れているから、緊張もないんだろうけど。

 

「というか真夏さん。今日は眼鏡なんだね」


 普段と雰囲気が違うから、一瞬誰だかわからなかった。

 黒縁の丸眼鏡に紺色のワンピースという落ち着いた装いは、元の綺麗さを隠しきれてはいないものの、バスケで大活躍していた涼川真夏とは別人に見える。


「まあ伊達メだけどねー」

「あ、そうなの?」

「うん。こっちの方が目立たないから。声もかけられにくいし」

「相変わらず大変だな……」


 まるでアイドルのプライベートだ。

 けど実際。この辺りで高校生が遊ぶ場所なんて限られるし、学校とあまり変わらないのかも。高嶺の花も楽じゃない。


「天宮こそ、それはどういう格好なの?」

「ど、どういうって……別に普通だろ」


 黒のパーカーに黒のジーンズ。何もおかしい所はない。

 目立たないという観点で見れば、闇に溶けるこのスタイルこそ最善だとさえ言える。


「普通ねぇ……。全身黒で髪はボサボサ。渋い顔でベンチに座って、缶コーヒーをズズッと啜る男子高校生は、あんまり普通じゃないかも」

「なっ」

「遠目に観たら、仕事でやつれたおじさんだったわよ。イタバの主張のおかげで、なんとか天宮だとはわかったけど」

「ま、まじですか」


 やつれたおじさん……俺、そんな風に見えるのか。普通にショックだ。


「はぁ。これじゃ準備に2時間かけた私が馬鹿みたいじゃない」

「そ、そんなに!?」

「女の子ならこれくらいは普通よ? 好きな男子とのデートなら倍はかかるわね」

「……ご、ごめん」


 朝からソワソワはしてたけど、俺が準備に掛けた時間は20分。それでやつれたおじさんじゃ、真夏に申し訳がない。

 そして当然ながら、俺は好きな男ではないらしい。


「まっ。これくらいの方が、私も気楽でいっか。今日のお目当てはプニキュアだし!」

「……ごめんなさい、いろいろと」

「気にしないで。とりあえず電車乗りましょ」


 そうして真夏は歩き出し、改札にICカードをピッとかざした。その後ろを、俺はとぼとぼとついて行く。

 ……はぁ、大丈夫かな。


 

 チケットは無事に買えたので、上映前に腹を満たすため、俺と真夏はフードコートをうろうろしていた。


「けっこう人が多いんだな」

「まあ日曜日だからねー。家族連れも多いんじゃない?」

「あー、たしかに」


 言われてみれば、小さい子どもをよく見る気がする。映画のために気合をいれてか、変身衣装を身に纏った小さなプニキュアもちらほら。とっても微笑ましい。

 それはそれとして。俺は先ほど真夏に指摘された件が、ずっと気になっている。寝ぐせはさすがにトイレで直したけど……おじさんと思われてはいないか。心配で仕方がない。


「天宮は何か食べたいものとかある?」

「いや特には。真夏さんに任せるよ」

「はぁ。それじゃだめでしょ」


 真夏はチッチと指を振った。


「えっと、何が?」

「私は食べたいものを聞いたのよ? それをそのまま返されても困るわ」

「は、はぁ」

「選択を人に委ねることは優しさじゃないの。ここでイケてる提案をするのが、できる男よ」

「す、すみません……」


 またなぜか説教を食らってしまった。

 乙女心難しいな。お互いに拘りが無いなら、普通に目についたものを選べばいいと思ってしまうけど。そんなだから俺はできない男なのだろう。


「じゃ、じゃあハンバーガーとか?」


 突然、真夏の足が止まった。


「えぇっと、真夏さん?」

「……そんなジャンキーなもの食べたら、絶対太るじゃない」

「そ、そっか。じゃあ別のものでも──」

「油っぽい食べ物はニキビも増えるし、日頃のスキンケアが全部無駄になっちゃう」

「うん、だからハンバーガーじゃなくても──」

「でもたまにならいいよね!!!」


 俺に向けられた真夏の瞳は、まるで子どものようにキラッキラだった。


「もちろん、いいと思うけど……」

「ふふっ、だよね! じゃあポテトも食べちゃおー」


 目に見えて機嫌が良くなったな。

 ……乙女心はよくわからない。

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