決意
タピオカ転売屋
第1話
夜勤で働いている樋口さんから聞いた話だ。
樋口さんは、商業施設の夜間警備員をしている。
昼夜が逆転した生活だが、それが性に合っているという。
「朝がどうしても起きれなくてね」
と、少し恥ずかしそうに笑っていた。
仕事は朝八時に終わるが、そのまま家に帰ることはほとんどないらしい。
ネカフェに寄ったり、ファミレスで一杯やったりして、家に着くのはいつも昼前になるという。
樋口さんも独り暮らしの男らしく、掃除もろくにせず、
何か必要なものを探すたびに部屋をひっくり返している。
そんな生活をしているので、いつからそれが始まったのか定かではないという。
それとは、――家の中から、物がなくなるのだそうだ。
「そんな生活してるからだろ、って言われそうですけどね」
と前置きをして、樋口さんは話し始めた。
「最初に気づいたのは、プリンでした」
途中のコンビニでプリンを買って帰ってきた樋口さんは、
冷蔵庫にプリンがあったな……と思いながら扉を開けた。
だが、プリンがない。
あれ? 食っちゃってたか
そう思い、冷蔵庫の横のゴミ箱を見ると、プリンの空の容器が捨ててあった。
そのプリンの空容器に、違和感を覚えた樋口さんはゴミ箱から拾い上げた。
――やっぱり、そうだ。
プリンの上蓋だ。
樋口さんは、プリンに限らず上蓋のついたものを開けるとき、必ず全部剥がしてしまうのだ。
だが、ゴミ箱に捨ててあったプリンの上蓋は……
容器に、半分くっついたままだった。
そのことに気づいた瞬間、血の気が引いた。
……このプリンは、オレが食べたプリンじゃない!
・・・・・・
読み終えた高橋が顔を上げる。
その表情には、不満と不審が半々に混ざっていた。
こちらをチラッと見て、ぼそっと言う。
「……プリン、多いな」
「え?」
「樋口さん、プリン食べすぎ! 家にプリンあるのにコンビニでも買ってんじゃん!」
オレはむっとして言い返した。
「いけませんか?」
高橋は呆れたように目玉をぐるぐる回す。
「これは怪談なんだろ? いいか、人はプリンを怖がらねぇんだよ!」
オレは何も言えずに黙り込む。
高橋はため息をつき、原稿を机に置いた。
「これを読んだ人が思うことはな
プリン食べたい……なんだよ」
オレも黙ってはいなかった。
「でもこれは、導入部でこれから怪異が…」
「おい」
高橋が口を挟む。
「あのな、これからどんな怪異が出ても、プリンどうした?ってみんな思うだけなんだよ」
ひと呼吸置いて、皮肉っぽく笑った。
「それともお前……プリンに勝てる怪異、出せるってのか?」
「それは……」
言葉に詰まった。
高橋の言葉に虚を突かれ、オレは黙り込む。
「…だろ? お前がプリンを扱うのは、十年早いんだよ!」
そんな洋菓子職人みたいに言わなくても……
でもいつか、いつか必ずオレがプリンを料理してみせる!
決意 タピオカ転売屋 @fdaihyou
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