鏡の国の

サドル・ドーナツ

「鏡ってどこにもあるじゃない」


「えぇ、鏡。普通の鏡」


「私、怖いのよ、鏡が」


「どうしてって言われてもなぁ……ん~なんか、本来自分で見えない物を見せつけてくる感じが嫌」


「私、自分の目で見たことしか信用したくないの。自分の目じゃない鏡は信用できてないの」


「だからさ、鏡って意思を持っていて、私達に嘘の世界を見せてるんじゃないかなって思うの」


「さもそれが真実だっていう風に私の姿や背後を映してるけども、それが正しいって証明する方法はないでしょう?」


「じゃあ今映ってるのは何なのって思うじゃない」


「私はね、鏡の向こう側にはもう一つ世界があって、何らかの理由があって私達の世界を騙ってるんじゃないかって、そう思うの」


「え? 証明なら写真があるって? でもそれも部品の鏡を通して映してるんでしょ? なら同じことじゃない?」


「はい論破」


「それはともかくとして、それが疑惑じゃなくて確信に変わった事件があるの」


「ある日、雨上がりの道を友達と歩いてたの。それで、靴が濡れるのにも構わず、大きな水たまりの上を通ったの」


「そしたら、足を掴まれた感触があったの。私はそれで転んじゃったの」


「私、辺りを見回したわ。それっぽい物は何もなかった」


「すごく気味が悪かったわ。どう考えても人の手に掴まれた気がしたから」


「それでね」


「友達も「きゃっ」て悲鳴を上げたから転んだのかなって思ったの」


「でも、友達は普通に立っていて、私に「ほら立って」って手を伸ばしてるの」


「どこも濡れた様子はなかったわ」


「私は彼女の手を握らずに立ち上がったわ」


「なんだか怖かったもの」


「でも私にはわかったわ。彼女きっと鏡の中――水たまりの中に吸い込まれたんだって」


「それで鏡の中の何かが入れ替わったんだって」


「私、尚更鏡が怖くなっちゃってねー。もう手鏡しか使ってないわ。それならサイズ的に引きずり込まれなさそうだし」


「……一体どれほどの人間が鏡の中の人と入れ替わってるのかしら」


「写真のことを話題にしたあなた。鏡を庇ったってことはあなたは入れ替わった人?」


「え? 入れ替わってないかも? それに水たまりは鏡じゃないって?」


「んー……でもね」


「彼女の泣き黒子ぼくろね、反対だったわ」


「私は鏡の中から狙われてるのよ。この中にはどれだけいるのかしら」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鏡の国の サドル・ドーナツ @sabamiso0822

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ