鏡の国の
サドル・ドーナツ
◇
「鏡ってどこにもあるじゃない」
「えぇ、鏡。普通の鏡」
「私、怖いのよ、鏡が」
「どうしてって言われてもなぁ……ん~なんか、本来自分で見えない物を見せつけてくる感じが嫌」
「私、自分の目で見たことしか信用したくないの。自分の目じゃない鏡は信用できてないの」
「だからさ、鏡って意思を持っていて、私達に嘘の世界を見せてるんじゃないかなって思うの」
「さもそれが真実だっていう風に私の姿や背後を映してるけども、それが正しいって証明する方法はないでしょう?」
「じゃあ今映ってるのは何なのって思うじゃない」
「私はね、鏡の向こう側にはもう一つ世界があって、何らかの理由があって私達の世界を騙ってるんじゃないかって、そう思うの」
「え? 証明なら写真があるって? でもそれも部品の鏡を通して映してるんでしょ? なら同じことじゃない?」
「はい論破」
「それはともかくとして、それが疑惑じゃなくて確信に変わった事件があるの」
「ある日、雨上がりの道を友達と歩いてたの。それで、靴が濡れるのにも構わず、大きな水たまりの上を通ったの」
「そしたら、足を掴まれた感触があったの。私はそれで転んじゃったの」
「私、辺りを見回したわ。それっぽい物は何もなかった」
「すごく気味が悪かったわ。どう考えても人の手に掴まれた気がしたから」
「それでね」
「友達も「きゃっ」て悲鳴を上げたから転んだのかなって思ったの」
「でも、友達は普通に立っていて、私に「ほら立って」って手を伸ばしてるの」
「どこも濡れた様子はなかったわ」
「私は彼女の手を握らずに立ち上がったわ」
「なんだか怖かったもの」
「でも私にはわかったわ。彼女きっと鏡の中――水たまりの中に吸い込まれたんだって」
「それで鏡の中の何かが入れ替わったんだって」
「私、尚更鏡が怖くなっちゃってねー。もう手鏡しか使ってないわ。それならサイズ的に引きずり込まれなさそうだし」
「……一体どれほどの人間が鏡の中の人と入れ替わってるのかしら」
「写真のことを話題にしたあなた。鏡を庇ったってことはあなたは入れ替わった人?」
「え? 入れ替わってないかも? それに水たまりは鏡じゃないって?」
「んー……でもね」
「彼女の泣き
「私は鏡の中から狙われてるのよ。この中にはどれだけいるのかしら」
鏡の国の サドル・ドーナツ @sabamiso0822
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