【2分で読めるシリーズ】第4弾『透明な恋のかたち』愛のために存在を消した女――その価値の行方とは⁉︎
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【2分で読めるシリーズ】第4弾『透明な恋のかたち』愛のために存在を消した女――その価値の行方とは⁉︎
いろは
【2分で読めるシリーズ】第4弾『透明な恋のかたち』愛のために存在を消した女――その価値の行方とは⁉︎
私の名前は、
目立つことを、何よりも避けているOLだ。
仕事内容は一般事務。
お茶汲み、コピーetc――
どんなことでも黙って受ける。
化粧は薄めに、メガネをかけて。
髪を染めずに、ネイルもベージュ。
グレーのスーツに黒タイツ。
「ねえ、今日の歓迎会……彼女呼んだ?」
「あ……いたね。気が付かなかった……」
努力の甲斐あって、私の存在は忘れられる場面が多い。
でも、もっと……もっと見えなくなれば良い。
「影中さん……今日ね、新人歓迎会あるんだ――えっと……」
内心舌打ちをして、静かに首を振る。
小声で「すみません」と言うと、ホッとしたように幹事の同僚は去って行った。
私の夢は透明人間――。
誰も私に気が付かない。
そうして初めて満たされる。
「え? 影中さん、来れないんですか?」
嫌な予感で胸が騒ぐ。
しかし、絶対に振り返らない。
すると、根源が足音をさせて寄ってくる。
「影中さん、行きましょうよ」
俯いた視線の、更に下へ!
顔を覗かせた男――
――まっ、眩しい!!
1週間前に中途入社した彼は、とにかく爽やかだった。
名は体を表す――彼のためにあるような言葉だ。
笑顔を見せれば、白い歯が輝き。
天使のように歩み寄る。
どんな女性も……上司でさえも、彼の魅力に逆らえない。
そんな目立つ彼が、地味な私に話しかける。
周囲の視線が突き刺さる。
本当にやめて!
「用事があるので……」
定時になって、立ち上がる。
パシッ!
彼が手首を掴み微笑むと、その場の女子が夜叉と化す。
「みんなと一緒に――」
「邪魔しないで!」
思わず声を荒げて、ハッとする。
ヒソヒソと囁きながら、チラ見をする社員たち。
彼はニヤリとほくそ笑む――
――やられた……。
その場から、一目散に走って逃げた。
夜中の0時。
車も人も通らぬ裏道で、街灯下に人影が――
流れるような黒髪と、白く艶やかな肌。
小ぶりな唇は血色が良く、暗闇でも浮き立つほどに美しい――影中無音。
「……放っておいて」
「ダメだよ」
対する輝が、灯りの下で小さく微笑む。
「この先も綺麗な君を見ていたい……」
「あなたのそばにいたいの」
「こちら側には来させない」
強い眼差しを向けると、彼女は右足のブーツを脱いだ。
月明かりが2人を照らす。
「ヒィー、おば、おばけ……」
彼を追ってつけてきた、幹事の女性が走り去る。
影中の右足だけは、暗闇に溶けて見えなかった。
そして、輝の顔も――
月が雲で隠れると、2人の姿は元に戻る。
輝は呆れたようにため息を吐いた。
「覚悟はできてる? 変化が始まったなら――もう戻れない」
「あなたと一緒なら何も要らない――この身体も、日常も」
再び、銀の光が2人を照らす。
顔のない男と、右足の無い女が、強く抱き合っていた。
僕の名前は、輝天使――正真正銘の透明人間。
未熟な体は、月明かりにしか姿を消さない。
だが、数年後には家族と同じ――誰も僕を見られない。
私の名前は、影中無音――
彼の花嫁になるために、2つの試練を引き受けた。
ひとつは周囲に忘れ去られること。
ひとつは彼に愛されること。
そうして、秘薬を渡された。
そうして今夜……
ようやく私は満たされた。
【2分で読めるシリーズ】第4弾『透明な恋のかたち』愛のために存在を消した女――その価値の行方とは⁉︎ いろは @Irohanihohetochan
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