第13話 修行完結!今、絆が燃え上がる!!

午後の風が、森の訓練場を吹き抜けた。

「自分では戦いの癖とかが分からない。シャッフルして組み手していかないか?」

颯の提案に、3人の目が輝いた。

「良い案だね。やろう、みんな!」

掛け声を合図に、4人の思いはひとつになった。


「颯、手だけでなく足もしっかり踏み込め。そうすればパンチはより重くなる」

「サンキュー大地! 確かに打ちやすくなった」

「キラ、光の魔法を目くらましに使ってみろ。攻撃の際の目線誘導も効果的だ」

「なるほど…光はたしかにその使い方もできる。烈也くんありがとう」


互いに気づいたことをその場で伝え、すぐ実践する。

一人では得られない気づきが、4人の動きに変化をもたらしていった。

やがて技と技が交差し、化学反応のように新たな戦術が生まれ始める。


木陰からその様子を見つめるミズキ。

かつての彼女なら「無駄だ」と吐き捨てただろう。

だが今、その瞳には確かな興味が宿っていた。


「――もう一度、来い」


短い言葉。しかし、それが合図となった。

四人が散開し、ミズキを囲む。


「《アクアバレット!》」

無数の水球が宙を舞う。

「《フレイムバースト!》」

烈也の火球がぶつかり、蒸気が爆ぜて霧が立ちこめた。

山の斜面が白く包まれる。


「……視界を遮るとは、やるじゃないか」

ミズキが目を細めたその時、風が霧を巻き上げた。


「この風――颯か」

「へへ、霧をもう少し利用させてもらうぜ――《スパイラルゲイル!》」

渦を巻く風が霧を一点に集め、まるで煙幕の槍のように感覚を奪う。


「風と炎の合わせ技……悪くない」

ミズキが後退したその足元――地面が沈む。


「《グランドインパクト!》」

大地の拳が轟き、地面に無数の穴が走った。

「私を穴に落とすつもりか? その程度で――」

言い終える前に、頭上から光が差す。


「キラ……!」


空中で、キラが光をまとっていた。

「《ライジング・レイ!》」

光線が穴の中へ――

反射した光が無数の筋となり、ミズキを包み込む。


「これは……反射……!?」


白光が世界を染めた刹那、

「――ここだッ!」


キラの拳が一直線に飛び、ミズキの頬をとらえた。

ドン、と鈍い衝撃音。

ミズキの体が後方へ吹き飛び、地面に滑る。


霧の隙間から、光の粒が舞った。

ミズキはゆっくりと体を起こし、唇を吊り上げる。

「……命中、だな」

頬を押さえた手が、かすかに震えていた。


「よくやった。今日の勝ちはお前たちのものだ。」


安堵と達成感が4人の顔に広がる。

「やっと、“チーム”になれた気がするね」

キラのその一言に、全員が笑った。


ミズキは背を向けたまま呟く。

「強さは、孤独の先にあると思っていたが……違うのかもしれんな」


訓練は終わり、夕暮れの光が森を染める。

他の3人が帰路につく中、颯だけが残った。


「なんだ? 聞きたいことか?」

振り返ったミズキに、颯は静かに問う。

「アスモデウス――いや、ハルのこと、今でも好きなんだろ?」


風が止まる。ミズキの眉がわずかに動いた。


「はあ? 恋愛脳かお前は! 透だな…何聞いたかは知らんが、過去の上司だった男だ!」

「分かるよ。俺も今、お前に恋してるから」

颯は真っすぐに言い切った。

「言わなくても分かる。あいつが好きだった……いや、今でも好きなんだ」


ミズキの手が震えた。

「たとえ過去そうだったとしても、今は悪魔だ。もう倒すしかない」

「諦めるなよ! お前、まだ“言って”ないだろ? あいつに、お前の今の気持ちを!」

「そんなこと言ったって、今さら――」


颯は一歩踏み込み、距離を詰めた。

ミズキの顔がすぐ目の前。

反射的に彼女は口元を押さえる。


「……悔しいけど、それが答えだ。

でもな、もし本当に大切な人を取り戻したいなら――言葉を使え。

戦いじゃなく、想いで勝て。」


颯は背を向けながら、振り返らずに言った。

「次は……止めても、キスするからな」

「お前ってやつは……」


微笑んだミズキの目に、わずかな決意の光が宿る。


その頃、山道の先では3人が待っていた。

「背中押したら、ライバルに塩送ってんじゃねえか」

烈也がぶっきらぼうに言う。

「うるさい! ミズキの幸せを願うのが、本当の愛だろ……」

颯の声は震えていた。


「相手の幸せを願える颯くんは優しくてとても素敵だよ」

「とてもかっこいいぞ、颯」

キラと大地が立て続けに励ます。

「ほら、最初に立ち止まったのは烈也くんでしょ」

キラに促され、烈也は目をそらしながら小さく呟いた。

「……まあお前、見た目も良いし、一途だから、いい人見つかるだろ」


颯の目から涙がこぼれた。

「みんな、ありがとう…。男の友情っていいもんだな…」


4人の背に夕陽が差し、笑いながら山道を下っていく。

その姿を、森の風が優しく包み込んでいた。


――絆は、確かに深まっていた。


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