第3話 きっかけ

 久しぶりに1人で下校した私は、寄り道をすることにした。通学路を遠回りして、古本屋に寄る。チェーン店ではなくて、個人でやっている小さなお店。


 そういえばここに下校の時に寄るのは初めてかもしれない。いつもは彩葉が一緒だからだ。割と小説とかを読むのが好きな私と違って、彩葉は漫画もあまり置いていないこの店はあまり好きではない。


 入店した私は本を物色する。前に来た時と、品揃えがあまり変わらない気がする。あまり人が来ない店だし、売る人も買う人も少ないのだろう。


 一通り店を見回って、そろそろ帰ろうかと思っていた時、偶然一冊の本が目に止まった。


「あ、この本……」


 私は本棚から一冊の本を取り出す。


「やっぱり、あの本だ」


 それは「カリスマ占い師AKARIのおまじないBOOK」というタイトルの、表紙がピンク色のやけに派手な本。確かこの本、彩葉が昔持っていた。


 私が小学生の頃、女子の間で占いやおまじないが流行っていたことがある。女の子っていうのは「おまじない」というのが好きだ。その頃に読んでいた少女漫画雑誌にも、おまじないのやり方がよく載っていた。


 こういうおまじないには「頭のよくなるおまじない」とか「先生に怒られなくなるおまじない」とか色々種類があったけど、圧倒的に多かったのはやっぱり「恋愛成就のおまじない」だ。


 例えば「消しゴムに好きな人の名前を書いて、誰にも気付かれないで使い切ったら両想いになれる」とか「ケータイの待受画面を好きな人にして1ヶ月誰にもバレなかったら、好きな人と結ばれる」とかいうやつ。





 馬鹿げてる。





 今ではこんなおまじないなんで「意味無し」とはっきりと断言できるし、なんなら小学生の頃も「こんなもので願いが叶うはずはない」と信じていなかった。おまじないに夢中になってきゃあきゃあ言っている同級生達を冷めた目で見ていた気がする。


 私の恋は、仮におまじないなんかに頼ったとしても、決して実ることはないとその頃から自覚していたからだ。




 そんな私が、今更おまじないなんかに頼ろうとしているだなんて、信じられない気分だ。私は気がついたらその本をレジに持っていっている。


 気の迷い、というか藁にもすがる思いだった。もし彼女と結ばれる可能性が少しでもあるなら、試してみたい。私は自信の恋を中古価格たった110円の児童書に託した。

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