第2話 かすみの恋

 私、結城ゆうきかすみは恋をしている。しかし、それはきっと報われることのない恋。なぜなら、その好きな人は私と同じ女の子だからだ。


 私が好きな人、姫川彩葉ひめかわいろはとは物心ついた頃からの幼なじみ。家は近所だし、同じ幼稚園、同じ小学校に通い、今は同じ中学校の同じクラスにいる。


 いつから彩葉のことを好きになったのかと言うと、もう最初から好きだったとしか言いようがない。明るくて可愛い彼女は私にとって太陽のような存在だ。いなかったら生きていけないと思えるほどの。


『かすみ大好き! 私大人になったらかすみと結婚する!』


 昔、彩葉は私によくそう言ってくれた。まだ幼い頃の話だ。でも私はそう言われるたびに悲しい気持ちになった。女の子同士では結婚なんてできないことをすでに知っていたからだ。それに彩葉が本気で言っていないこともわかっていたから。


 彩葉も大人になれば、きっと好きな男の人ができて私のそばから離れていくだろう。そうに決まっている。だから私はずっと彩葉への恋心を隠し続けることにした。


 そして、私たちは中学生になった。私の彩葉への恋心は無くなるどころか日に日に大きくなる一方だった。


「彩葉と恋人同士になれないだろうか?」


 そんな思いが頭に浮かぶこともあったけど、すぐに考え直す。付き合えるわけがない。女の子同士だなんて、変だから。きっと彩葉にも迷惑がかかる。


 そんなことを考えながら過ごしていた、初夏のある日のこと。


「かすみごめん! 今日は一緒に帰れない!」


 放課後、かすみがそんなことを言ってきた。


「どうしたの、何か用事?」


「うん、さっきお母さんから連絡があってね。おじいちゃんが入院したって」


「え、大丈夫なの!?」


「いやいや、それほど大したことなくて。なんか階段で転んで腰を打ったとかで、すぐに退院できるらしいんだけど。一応今からお母さんとお見舞いに行くことになったの」


「そうだったんだ。わかった、今日は1人で帰るね」


 家が近い私たちは、いつも一緒に登下校をしている。1人で帰るのは久しぶりだ。


「ごめんねー」


「そんな謝ることじゃないよ」


「だって1人だと寂しいでしょ、かすみ」


「寂しくないよ、それぐらい」


 私は笑ってそう答えたけど、実は結構寂しかった。でもそんな感情は顔に出さないようにして、私たちは校門まで一緒に歩いた。


 校門では彩葉のお母さんが乗った車が停まっていて、私たちはそこで別れた。


「ふぅ……」


 去っていく自動車を眺めながら、私はため息を漏らす。彩葉と一緒に帰れなくて寂しいというのは本当だ。私は彼女が大好きだから。


 でも、同時に1人になれて安心もしている。最近2人でいるとドキドキして落ち着かないからだ。恋心を隠しながら彩葉と接するのは辛い。


「でも、この気持ちを伝えるわけには……」


 私はそんなことを呟きながら学校を後にした。

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