破滅の勇者

BlackChocolate

異世界召喚

 桜が鮮やかに咲き誇る4月、進級し高校2年生になった。

 学校へと続く桜並木の坂を上がり、校門であいさつ運動をする生徒会と先生に挨拶を返し教室へと歩みをすすめる。


 この学校ではクラス替えという制度はなく、2年の教室では、1年前と同じメンツのクラスメイトたちがグループを作って話したり読書をしたり各々の時間を過ごしていた。


 ホームルームが始まる5分前にはみんな登校し、喧騒も強くなる。


「うぃーす!また眠そうな顔してんな」


 席に座りホームルームまでボーッとしようとしてたところに、今登校して来たのであろう、耳には校則違反のピアスを開け、それを長めの茶髪で見えないように隠しているチャラ男の、秋月凉あきづきりょうが話しかけてくる。


「朝は眠いもんだろ、お前こそギリギリじゃねーかよ」

「これには深い訳があってだな。電車に乗ってると他校の女子がいて、その子がかわいいからナンパしてたら降りる駅を通過してたんだよ」

「全然深くもねーじゃねーか、いつもの平常運転だな」

「バカお前!かわいい子がいたらナンパしなきゃ失礼だろうが!」

「朝っぱらからナンパする方が失礼だよ。こんなチャラ男に絡まれて朝から不運だなその子」


 南無南無と出会ったことのないその子に合掌する。

 それを見たりょうは「お前なぁ」と言い、ヘッドロックをかましながらこめかみの部分を拳でグリグリしてくるので、横腹を突いて反撃する。


 そんな他愛のない会話にじゃれ合いをし、そんななんの変化もない日常がまた始まるそれだけのはずだった…。


 チャイムが鳴り、そろそろ先生が来る頃だとみんなが席に座り待機してると、急に教室の床が光りだす。

 その光は、円を描き文字を浮かべるそれは、まるでアニメやラノベに出てくるような魔法陣のようだった。


「おい!なんだよこれ!」

「みんな早く教室から出るんだ!」

「そんな扉が開かないよ!」

「窓も開かねーぞ!」


 そんな不安と恐怖の声が教室中に響きみんなパニックに陥る。


 それでも、魔法陣は依然として光り続け、文字の部分が回転し始めたかと思うと、先程よりも光が強くなり、目が眩み咄嗟に瞑ってしまう。


 光が収まったと思い目を開けると、そこは、いつもの通い慣れた学校の教室ではなく、石壁に囲まれ、壁には松明がかけられた薄暗い地下のような部屋で今は光を失った魔法陣の上に僕らはいた。


「おお〜!召喚が無事に成功したぞ!」

「これで世界は安泰だ!」


 魔法陣を取り囲むように、ローブをまとったいかにも魔術師ですといった格好をした4人は歓喜の声を上げていた。


 知らない場所、知らない人たちが喜び合うのを見て僕たちは困惑する。


 身を寄せ合う女子たちもいれば、異世界召喚来たー!と小さい声で喜び小さくガッツポーズするものもいた。


 そんな中、正義感が強く委員長を務める大門桜だいもんさくらが怪しげなローブたちに話しかける。


「すいません!ここはどこなのでしょうか?」


 さくらがそのように言うとローブたちは歓喜のムードから厳かな雰囲気になり空気がピシッとなり緊張がはしる。


 ローブを着た一人がフードを脱ぎ1歩前に出て語る。


 その人物が言うには、ローブを着た人たちは宮廷魔術師であり、僕たちが召喚されたここはバーロック帝国という国らしい、そして、今この世界は魔王が率いる魔族たちとの戦争状態にあり、このままではジリ貧になってしまうということで、藁にもすがる思いで古代魔法である勇者召喚を行ったところうまくいき僕たちが召喚されて喜んでいたそうだ。


 話を聞く限り、ラノベやゲームなどによくある設定ぽくまだ現実味が出てこない。


「では、まずは皇帝陛下に謁見してもらうために、ささ、こちらへ」


 そう言うと先導して階段を上がり、僕たちの後ろには他のローブを着た人たちが若干押し気味に階段の方へと誘導する。


 階段を上がり、吹き抜けの廊下を進んだ先には甲冑を着た兵士がハルバードを携え、扉を挟むように立っていた。


 先導していたローブの人がその兵士に話しかけると扉が開き、僕たちは中へと招かれる。


 招かれた部屋に入ると部屋の両側には騎士たちが立ち並び、扉からまっすぐ進んだ奥には玉座が置かれているであろう場所に、黒を基調とした甲冑を身にまとい、口ひげとあごひげを生やした人物が玉座から鋭い目つきで僕たちを見下ろす。


 先導してきたローブの人物が、皇帝の前に行き跪く。


「皇帝陛下、此度の勇者召喚成功でございます」

「そうか、ではその者たちが召喚された勇者であるか」

「はっ、左様でございます」


 皇帝は立ち上がり僕たちの方へと近づく。


 目と鼻の距離になった所でさくらの顔面めがけて拳を振りぬく。


 振りぬかれた拳は、さくらの顔面に当たる直前にさくらが拳をいなし軌道を変える。


 さすが僕らの委員長だ!警察官である父親に憧れ、父親から逮捕術や柔道といった格闘技を習っているだけある!


「いきなり何をするんですか!危ないじゃないですか!」

「危ない?たわけ!これくらいかわすなり反撃するなり出来もしない者が戦場で生き残れると思うな!それに、戦力にならん勇者共にタダ飯や宿を振る舞う義理はない」


 皇帝はさくらの後ろにいる僕たちを見やり、玉座の元に戻ると腰を掛ける。


 勝手に召喚しといて戦力にならなければお払い箱ってわけか、今の視線も釘を刺された感があるし戦えないって事になったら、良くて追い出されるか、悪くて肉盾、いや、奴隷にされてからの肉盾になる可能性もあるな。

 女子たちは良くて給餌、悪くて娼館か兵士の指揮を上げるための慰みものって感じかな。


 などと、考えているとクラスメイトたちが固まっている中から「なんだよそれ」「勝手にこんなところに呼んどいて」「お家に帰りたい」などと言った不満を小声で言うものがちらほら出ててきていた。


 これは、まずいな。このままにしとくと誰か一人が口火を切った瞬間に、それに同調して不平不満を言うやつが出てきてしまう、不平不満言いたくなる気持ちもわからなくはないけれども、その前に正義感溢れる委員長が物申す可能性もあるし、いったんこれからの事を冷静に考える時間は欲しいし仕方ないか。


 誰かが口火を切る前に、パンッ!と皆に冷静になってもらうために柏手を打つ、それと同時に周りにいた騎士たちが一斉に剣をこちらに向ける。


 心臓バクバクだ、これで皇帝が「殺れ」と一言言うだけで僕の首が飛ぶんだから損な役回りだよ。


「貴様なんのつもりだ!?」


 剣を向ける騎士の一人が問う。


 敵意がないことを伝えるために、ゆっくりと跪き頭を垂れる。


「皇帝陛下失礼致しました。我々は召喚されたばかりで気が動転している者もおりましたので、冷静になってもらうべくあの様な行動を起こしてしまいました」


 脂汗だらだらですよ。なんで僕はこんな役目をかって出てんだよ!


「よい、面を上げよ」


 皇帝陛下のその声と共にゆっくりと顔を上げ立ち上がる。


 それと同時に、抜剣していた騎士たちも剣を収め元の隊列へと戻っていく。


 た、助かったー!もうこんな貧乏クジ引きたくねーよ!分かってんのかお前ら!


 さくらの後ろで固まってるクラスメイトを見ると、今の一連の流れを見てか萎縮し文句を言うような奴はいないように見えた。


 こんなの一時凌ぎにしかならないからまじで今後についてみんなと話して意見を合わせとく必要があるなぁ…。


 そんなことを考えていると、皇帝が宮廷魔術師に目配せをして、宮廷魔術師にステレンスの様な電子カードくらいの大きさと厚みのカードを人数分持って来させる。


 配られたカードの裏表には何も書かれておらず、丈夫なカードという印象を受ける。


 宮廷魔術師は全員にカードが行き届いたのを確認してから口を開く。


「そのカードは、身分証のようなもので血を一滴垂らすとそこから、そのものの情報を読み取り記載します」


 クラスメイトたちは各々目配せをし、誰が最初にやるのか牽制しあっていた。


「俺が先にやろう」


 さくらがそう言うと親指の腹を噛み切るとカードに向かって血を垂らす。


 カードの上を垂れた血が這い、血が這ったところには文字が刻印されていく。


 大門桜だいもんさくら(17)

 適正魔術:光 職業:勇者


 みんなは桜のカードを見て安全なのを確認し、自分の職業が何なのか気になり、我先に各々の方法で血を流しカードへと垂らしていく。


 現金なクラスメイトに続くように、僕もカードに血を垂らす。


 赤夜蛍あかしやほたる(16)

 適正魔術:闇 職業:■■■■


 この召喚から、僕らの日常は崩れ去り破滅の足音が近づいてくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

破滅の勇者 BlackChocolate @Bla9Chocolate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ