第33話:優雅さの限界と、カイル再来

地下のデバッグルーム。ローゼは、通信魔導具を通じて貴族たちの撤退ログを確認しながら、深くため息をついた。


(「ローゼは自我を失い、システム的な人形となった」だと? 馬鹿げている! 私の自我はここにある! この最高の座椅子と通信魔導具があれば、自宅から世界を支配するという信念は微塵も揺るがない!)


ローゼは、鏡に映る優雅な自分と、内に秘めたニートの魂とのギャップが、この最大の誤解を生んだことを理解していた。


ローゼの行動は、以下の二つの矛盾したシステムの出力結果だった。


ニートの魂(前世の男): 最小限の労力と感情の排除を求める。


女性の身体(AIの強制): 「優雅さ」と「社会的役割」を強制的に実行させる。


(あの貴族どもは、私の「優雅さ」が完璧すぎるのに、会話内容が空虚で感情が一切読み取れないことに恐怖を感じたのか?身体が自動で「完璧な令嬢」を演じる。他人から見たら言いなりの人形のように見えてしまったのだろう)


ローゼは、「女性の身体」に宿る「社会的役割」という非効率なバグが、情報戦の盾になったという皮肉を噛みしめた。しかし、この「自我喪失」という誤解は、新たな面倒事を引き寄せる。


貴族たちが「ローゼは自我を失った人形だ」と誤解したことで、彼らはローゼを反王子派の「飾り」として利用しようと、より積極的な行動を開始した。


LOG:NOBLE_FACTION_001

状態: ローゼ殿の「名目上の指導者」となるべく、別邸近隣への領地取得を計画中。


行動目標: ローゼ殿の優雅な名声を利用し、反王子派の勢力圏をこの辺境に拡大する。


( 私の自宅の周囲に、面倒くさい貴族が領地を構えるだと!? 安寧の聖域が社交界の煩わしさで汚される! これは許容できないシステムエラー!)


ローゼは、「自宅の周囲に近所を作らない」という、ニートの絶対的な信条を破られそうになり、強い危機感を覚えた。


さらに、ローゼの心理トラップによって一時撤退していたモブ騎士カイルが、ローゼの偽装情報を基に、次の手がかりを掴み、再び別邸への接近を開始した。


カイルは、ローゼの「地味な慈善活動」という偽のPR情報を、彼の持つゲーム知識で解読していた。


「辺境での慈善活動……そうだ! 『隠し賢者の真のアイテム』は、ヒロインの持つ『献身の証』だ! ローゼ殿は、ヒロインの行動を通じて、必要なアイテムを手に入れようとしているに違いない!」


カイルのゲームへの執着と裏技の知識は、ローゼの最高の情報統制をも突破する非公式なルールだった。


LOG:KYLE_001

状態: 別邸への確信度100%。


目標: ヒロインの持つ『献身の証』アイテムを探し、賢者ローゼの真実のルートを解き明かす。


カイルは、ローゼの地下要塞の存在を知りながら、リリアとの接触を避けるため、別邸の敷地内を「ゲームのアイテム探し」と称して、潜入調査を開始した。


ローゼは、「貴族の領地取得」と「カイルの潜入調査」という、内と外からの二重の危機に直面した。


(隣に近所ができるなんて、面倒ごとが増えるだけ!しかも、カイルのせいでリリアとの面倒な接触が増えるのはごめんだ。そもそも、なぜカイルが『隠し賢者の真のアイテム』の情報を知ってるんだよ!)


ローゼは、貴族の領地取得を阻止するため、地下デバッグルームから周辺の土地にシステム的な干渉を開始した。


「よし。貴族が嫌がる要素を、最も合理的な形で周囲の土地に強制的に付与する! これが、最高のニート環境を守るための最終防衛線だ!」


ローゼは、周辺の土地の魔力属性を操作し、貴族たちが嫌がる「地味で、不便で、かつ優雅さとは程遠い」ものへと強制的に変換するコードを設計した。

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