第32話:ローゼの優雅な変貌と、表敬訪問の危機!

ローゼの「ニートの自己嫌悪コード」による感情鎮静は、AI_MANAGERに強制された『女性の魅力』の魔力経路によって破られていた。ローゼの意識とは裏腹に、女性の社会的役割が彼女の肉体を支配し始めていた。


地下のデバッグルーム。ローゼは通信魔導具を操作しながら、自分の変化に強い嫌悪感を抱いていた。


(クソッ、私の座位姿勢が無駄に優雅だ!背筋がピンと伸び、手先の動きが作業効率とは無縁の装飾的なカーブを描いている。この身体は、生存に不要な「女性の役割」を私に強制する!まるで、私が一番嫌いな「優雅な貴族の女性」を演じさせられているようだ。この女性の器は、私というニートの魂にとって最大のバグだ!)


ローゼは、この無意識の優雅さをシステム的なバグとして憎んでいた。これから迫りくる危機に対する強力な防御となることをまだ知らなかった。


執事アルフレッドから届いたログは、ローゼの安寧を揺るがす最大の危機を告げていた。


LOG:NOBLE_FACTION_001

状態: 王都よりフォン・エール侯爵とバウアー子爵、明日別邸へ到着。


名目: 公爵令嬢ローゼ殿の慈善活動への『資金援助と協力の申し出』。


真の目的: 王子アラン殿下と敵対したローゼ殿の心神喪失状態を確認し、反王子派の旗頭として利用可能か見極める。


「侯爵に子爵だと!? 最も面倒くさい政治的思惑を持つ連中だ!」


ローゼは、「自宅から出ない」という信条を貫くため、地下デバッグルームに居ながら、遠隔で貴族を迎え撃つという究極の自宅防衛策を決定した。


ローゼは、アルフレッドに指示を出し、別邸の図書室を接待場所になんやかんや適当な理由をつけ、無理やり指定させた。図書室の壁には、ローゼが極秘に設置した高解像度の魔導鏡と、音声を完全に同期させる魔導通信機が隠されている。


ローゼは、座椅子に深く座ったまま、通信魔導具を通じて優雅な令嬢の演技を開始した。


訪問団が入室した。代表は、反王子派の重鎮、フォン・エール侯爵。隣には、王子の動向を探るバウアー子爵がいる。


フォン・エール侯爵:「ローゼ・クリスタル・アストライア殿。我々は、殿下の辺境での静かなご活動に、深い感銘を受けました。王都を離れ、慈善に心を傾けるご立派なご姿勢は、多くの貴族の心を打ちました」


ローゼは、地下の座椅子に座りながら、魔導鏡を通じて、強制的に増幅された美貌に完璧な、寸分の狂いもない笑みを浮かべた。その笑みは、感情が一切込められていない、システムの出力結果のような美しさだった。


ローゼ(地下より):「エール侯爵、バウアー子爵。遠路はるばる、この辺境の静寂を訪れていただき、心より感謝申し上げます。私の役割は、ただ静かに、この国が真に必要とするものを構築することにございます」


バウアー子爵:「(小声で侯爵に)な、なんと完璧な……。噂通り、殿下への反省からか、まるで人格が変わったようだ……」


フォン・エール侯爵:「王都には、ローゼ殿の華々しい才能を活かせぬのは惜しい、という声もございます。ぜひ、王都にお戻りいただき、我々にご指導をいただけませんか?」


ローゼは、「外出」という最大の敗北を誘う言葉に、内なるニートの魂が激しく反発するのを感じた。


(王都だと!? 面倒くさい社交と煩わしい義務の巣窟じゃないか! ニートの私には、社交界の優雅さなんて糞食らえだ! しかし、この女性の身体は、「王都での社交こそが社会的役割」だと強制的に認識させようとしている!)


ローゼは、内なる混乱を完璧な令嬢の表情で隠し通した。


ローゼ(地下より):「侯爵、私の真の役割は、静寂の中にございます。華々しい社交は、この静かな務めの妨げとなります。皆様のご協力は、金銭と資材をもってこの地に送っていただければ、最も効率的でございます」


ローゼの「完璧すぎる令嬢」の応対は、一切の感情や政治的な思惑を感じさせず、ただ「静寂と効率」のみを追求するものだった。


侯爵と子爵は、ローゼの究極の優雅さと冷たいまでの合理性に、強い違和感と恐怖を覚えた。彼らは、ローゼが「心神喪失」ではなく、「人間性を失った何か」になったのではないかと錯覚し始めた。


フォン・エール侯爵:「(冷や汗をかきながら)あ、ああ。これは失礼いたしました。ローゼ殿の高潔なご意思、しかと承知いたしました。資材と金銭は、追ってこの別邸へお送りいたします……」


貴族たちは、ローゼの真意を掴むどころか、逆に心理的に圧倒され、ローゼの要求(資材と金銭)だけを呑まされて退室した。


結果的にローゼは、自宅から一歩も出ず、「女性の社会的役割」というシステム的な強制力を最強の盾に変え、最大の危機を回避した。

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