第2話 天が与えてくれた物
始動
隆太は洞窟を拠点として腰を据えて開墾して行こうと決めた。幸い洞窟内は自然の要塞みたいなもの。
照明に関してもモバイル用ソーラーパネルから電源を取り、LEDランプで照らせば書物を読むぐらいの灯りは得られる。
ただ、洞窟の出口付近と奥とでは温度が違う。
家族が古いカーペットやアルミシートを用意してくれた。寝具もそんなに要らないだろうと言うくらい集まってる。
が、寝場所をどの辺りにするかで彼は迷う。奥にすれば寒さを防げる。しかし、用足しや何をするにも長い距離を歩くのは実に不便。
簡単な煮炊きでさえ洞窟内でする気にならない。CO2・CO中毒になるかも知れない心配があるからだ。
然りとて、洞窟出口近くにすれば、外気温が入って来て結構寒い。
「こんな時、薪ストーブがあればな」
隆太は早速父に話す。
「ホームセンターで見てみる」
「わざわざ店に行かなくても、ネット通販でも売ってるよ。安くて簡易は物で良いから。良太なら遣り方知ってるから」
「そうか。便利になったな。煙突も売ってるのか?」
「多分」
「煙突を洞窟の壁に這わせるのだけど、釘打って針金で支える必要があるな。壁は釘を支えられるのか?」
父は壁を叩いたりして堅さなどを確かめる。
「長い釘なら支えられそうだな。早速用意するから。隆太は出入り口に扉を拵(こしら)えな。害獣が食べ物の匂いを嗅ぎつけて遣ってくるかも知れん。熊が現れたら大変だ」
「この辺りにも熊が出るのかよ?」
「分からんけど、動物が通った様な道を見つけたら、大型の野生動物が居ると見なければならな」
「出来たら唐辛子スプレーとかも欲しいな。それで逃げてくれるかどうか分からないが」
考え出したら色々な物が欲しくなる。遣らなければ成らない事もドンドン増える。とてもでは無いが、井戸掘りなどする時間が無い。
「出来るだけ自分で作るんだ。洞窟内は大きな造作物を運べないからな」
「分かってる。俺もユーチューブで竹を利用して色々作ってるのを観ている。此処でも見渡したところ、竹が結構生えているようだから」
隆太は俄然忙しくなった。道なき道を鎌やノコギリで邪魔な物を切り倒して行く。竹林へのルートを確保する為だ。
竹は実に豊富だった。幾ら切り倒そうが無くなる心配は無さそうだった。
「竹は色々役に立つ。これは助かるな」
隆太は独り言を呟く。
竹は工作物に使用するだけで無く、燃料としてもとても有効だ。朽ちて倒れた竹もそこいらに転がっている。それを焼べれば火力の強い燃料だ。
また、一斗缶の空き缶に竹を入れ、蓋をして蒸し焼きにすれば竹炭が出来そうだ。
暖を取ったり肉のあぶり焼きにも適している。
それもこれも、父が持って来てくれたサバイバル書を参考にした考えだ。
隆太は苦労して入り口の囲いを拵(こしら)えた。蝶番なんて物は彼には扱えない。ロープを使い回転の自由を求め、またロープで固定にも使う。
「この高さなら、熊も乗り越えられないだろう。ただ、熊って言う奴の力は凄いっていうからな。持ち堪えられるかな?」
彼は自作竹塀と熊が奮闘し出したら、竹槍で追い返そうと、直ぐに竹槍も作る。
隆太の頭には、父の「熊に気を付けろ」の言葉が浮かぶ。故に彼は、熊の攻撃に耐えられるかどうかを念頭に物作りを考えていた。
父親と弟・良太が二人して現れた。ストーブと煙突を持って来てくれたのだ。
「兄ちゃん、設置の仕方は説明書を見て。簡単そうだから兄ちゃんでも出来るよ」
「お!、俺の真の実力を嘗めんなよ。俺は入り口の囲いを一人で作ったんだからな。見せてやろうか?」
隆太はスマホを取り出し、洞窟出口付近の様子を写した写真をブルートゥースを使い、良太のスマホに送る。
「遣るじゃん。結構様になってる。面白そう」
「面白くなんか無いわ。色々工夫しなければならないから、大変なんだぞ」
「でも、自慢しているよね」
「まあな」
父達は約束通り長い釘と針金も置いて行く。隆太は早速薪ストープの設置に取り掛かる。完成する前から何となく体が温かくなって行く感覚になる。
三本足の丸ストーブの設置は楽だった。周りに燃える物が無いから安定性のある地面に置けば良いだけ。
問題は煙突。
父は50cm長の煙突を20本用意してくれた。1本千円弱の品物。それを傾斜を付けて壁際に這わすように針金を使って取り付けた。
これで物置小屋にあったカーテンを取り付ければ暖かさを保てる。カーテンは出入り口付近とストーブの奥に取り付ければ完璧かもしれないと、隆太はほくそ笑む。
やはり薪ストープは快適だった。更に、ストーブの上にヤカンを載せて置けば何時でもお湯が飲める。
カップラーメンなどのインスタント食品を何時でも食べられる様になった。薪はそこいら中に木が茂っている。枝を払えば幾らでも手に入る。
出口近くの高木をノコギリで切り倒し、切り株を薪割り台として使いもする。古竹も使うが、火力が強すぎたり、パーンとはねたりするので常用はしない。
「そうだ。竹でイスも作ってみよう」
ストーブの暖かい熱が伝わってくる。生きている事さえ実感してしまう。常に抱いていたネガティブな気持も次第に薄らいで行く感じだ。
「やっぱ、井戸掘りに挑戦してみっか」
ストーブに手を翳(かざ)し、隆太はそう気持が動く。
井戸掘り
井戸掘りの解説本を捲ってみたが、自分の場合には当て嵌まらない部分が多く感じて途中で投げ出してしまった。
「やはり、自分が実際に掘ってみないとな。遣りながら工夫して行こう」
隆太はスコップ一本持って洞窟の外に出る。先ずは凹みのある地面を掘って行く。
すると、1mも掘らない内に水が滲み出て来た。
水が出てくるのは良いが、余りに浅過ぎる。これでは飲料用に適さないのではと思い、今度は少し離れた平らな土地を掘る。
今度は直ぐには水が出て来ない。2m位掘り下げた所で、固い物に突き当たった。スコップなど全く歯が立たない。
「岩盤か?」
岩盤ならその大きさも厚さも分からない。そんな物と格闘しても無駄だと思い三度(みたび)場所を変えた。
流石に今度は、自分なりに慎重に場所選びをする。洞窟出口から少し距離があるが、何となくその場所が適していると彼は感じる。
最早直感だ。何も頼れる物が無ければ己の感覚を信じるしか無い。
大きな石や小石がわんさか出てくるが、今の隆太には大した障害にならない。
霧中で掘っていると、金属音の澄んだ高音が響いて来た。風鈴の音だ。
「おっ、誰かが来たな」
隆太は作業を止め、直ぐさま洞窟の奥へと向かう。
風鈴は板川家の物置小屋にあったもの。「来たよ!」という合図用に取り付けた。
洞窟内地面に垂らし置いてあったテグスを壁に這わし、それを見えない壁まで遣って来た家族が「来たよ」との合図にそのテグスを引っ張る。洞窟出口に吊る下げたテグスにむずび付けた風鈴が鳴るという、至ってシンプルな仕組みだ。
最も距離が長いから、引っ張るには力が要るのだが。
それも今ではテコの原理を応用して、楽に引っ張れるようになっている。様々に工夫し改良した結果でもある。
「隆兄ちゃん。洞窟内でも何とか乗れる自転車持って来たから。折りたたみ式でサドルが低くいから天井にぶつからない筈。兄ちゃん側洞窟の寸法もちゃんと計算したから、多分屈まなくても乗れると思う」
「そうか。助かるよ。洞窟出口からここまで、行ったり来たりするのって結構きついからな」
自転車には自家製の車輪付き箱形台車も紐で繋がれていた。沢山の荷物を運ぶに便利である。
「台車は父さんの手作り。出来るだけ地面を均せば結構便利だよ」
「ペットボトルの水なんか手で運ぶのは辛いからな。そうだ、父さんに伝えてくれ。俺、井戸掘り始めたから。簡単じゃないけど、おれ、頑張って掘るからと」
「OK。深く掘るんだろうけど、周りの土が崩れ、生き埋めにならないように気を付けなよ」
「ああ、それは用心している。土留めに竹で穴の周りを囲む積もりだ」
「ちょくちょく上に出なよ。危険なガスが出てくるかも知れないから」
「ははは。多分それはないよ。それに、土砂を外に運び出さなければ成らないから頻繁に地上に出なくちゃならないからな」
「それも大変だなー 深くなったらハシゴでも作るのか?」
良太は帰って行った。しかも隆太に持って来た自転車とは違う電動自転車で。
良太は、洞窟内は自転車で移動するが自宅と洞窟入り口まではバイクに乗ってる。公道を2,30m走れば山道に入れる。無免許だが田舎だし捕まる心配は少ない。
ホンダのスーパーカブだが、それでも良太にはバイクを乗るのが楽しかった。
2m位までは、竹で作った簡易なハシゴで土石を排出して来た。しかし、深さが増してくるとハシゴでは不安定に感じ、作業が進まなくなる。
それに、良太が言うように、掘った穴の壁が崩れ生き埋めになったり大けがをすれば、誰も助けには来てくれない。
そこで隆太は壁の土を支える為に竹柵を利用しようと考えた。大雑把ではあるが、一応円形に井戸を掘り下げている。
その円形の壁に竹を支えにしようにも、円の形に竹を組んだとしても支えが出来ない。支えを作ったとしても、土石の搬出の邪魔になる。
そこで、何本かの竹を並列に並べ横軸に動かぬよう竹できっちり格子状に編み上げる。板状になった竹柵を壁に沿って降ろし、それらをハニカム状に置く。
交差する部分をしっかりとビニール紐で結びつけ。しっかりした構造にした。これならば、例え壁が崩れても重なり合う竹柵で十分な空間が得られる。
竹は日本に一般的に生えている真竹。長さは先端まで20m位有る。先端は細すぎるので切り落とすが、それでも使える部分は15mぐらいある。
今の井戸の深さは竹の長さに比べ、かなり浅い。だが隆太は竹を短く切らず掘り進めながらハニカム状の竹柵を沈めて行く方法を採る。
壁の崩れについての心配は無くなったが、困ったのは土砂を排出する手立て。
竹柵が高く聳え立つのは良いが、井戸の出入りが出来ない。
そこで隆太は6面の竹柵の一面を抜いた。更に搬出が楽になるよう、一面に斜めの道を設ける。
簡単な階段状にすると両手で土砂を運び出せる。ただ、深くなるに従ってその斜面の道は長くより深く歩掘り下げて行かなければならない。
手間も掛かるし時間も掛かるが、急ぐ必要が無いので、隆太はその方法で井戸を掘り下げて行く。
孤独からの脱出 7話
井戸掘りは体力を使う。当然一日では終わらない。暗くなると作業を止め、洞窟内で腹一杯ご飯を食べ、死んだように眠る。
朝、スマホにセットした目覚ましで起きると、大概その時間に父親が見えない壁の所に来てくれるので、隆太もそこに向かう。
その時に隆太は父親に井戸の進捗状況を語り、アドバイスを貰う。
父は一日の飲食物を携え、そして入用な物を持って来てくれる。それが今は日課となった。
母は。毎朝早く隆太の為に栄養バランスを考えた料理を作ってくれる。それを父が運んで来るのだ。
何時しかそんな両親に、隆太は心から感謝するようになっていた。
井戸掘りを始めてから5日目の朝。隆太が井戸に行って見ると、なんと井戸の底に水が溜まっていた。前日、掘った土が幾らか湿っぽくなっていたので、若しかしたらとは思っていた。
「やった! 苦節4日、遂にやり遂げたぞ! 自力で井戸を掘ったぞ!」
隆太は天に向かって、大声を張り上げた。
直ぐに父親に告げたいが、父は一日一回しかやって来ない。午後に来るとすれば春休みに入った弟・良太だ。
「良太! 俺、遂に井戸を掘り当てたぞ」
顔を合わせた途端に、隆太は叫んだ。
「水が出たのか?」
「そうだ。井戸の底に水が溜まり始めたんだよ」
「水をチョッと汲み出したら、また溜まるまで時間が掛かるんじゃ無いの?」
「うん。その心配があったから、水が膝上になるまで更に掘り下げてみた」
「で?」
「バケツで何杯か汲み上げたが、水は減らなかった。少なくとも、日常使う分ぐらいは溜まってくれるみたいだ」
「そうか。兄ちゃん、遣ったね」
良太も一緒に喜ぶ。
「帰ったら早速父さんに知らせるよ。父さんも喜ぶだろうな」
達成感に浸る隆太。満面に笑みを浮かべ誇らしげな表情をする。
「父さんも、井戸堀の具合をかなり気にしているんだけど・・・」
良太は、まるで隠し事があるかのような含みのある言い方をした。
「父さんに何か都合の悪いことでも起きたのか?」
「実は俺、父さんと母さんが話しているのを聞いちゃったんだ」
良太の話に隆太は耳を傾ける。
ある晩、良太は台所で両輪が話しているのを耳にする。
「井戸堀が上手く行けば良いけどな。勿論生活用水が確保出来れば、これから生きて行くのに大いに助かる。でも成功して欲しいと思うのはそれだけじゃ無い」
「そうね。私たちが何時まで水を運び続けられるか分からないものね」
母が父の言葉に反応する。
「実は隆太に一人で生きて行く自信を持って欲しかった。井戸掘りが成功すれば隆太も自信が持てる筈。何しろ誰の助けも借りずに掘っているんだからな。水が出れば、これから一人で生きて行くに大きな精神的な支えにも成る。だから、何としても成功して欲しいと願ってるんだ」
「そうね。あの子はこれから一人で生きて行かなければならないだもの。しっかりして生き伸びて欲しい」
「もし、水が出て井戸として機能するようだったら、VU塩ビ管の内径が70cmぐらいの物があるらしいので、それを井戸に差し込めば十分な補強になる。今は竹で壁を支えているらしいが、竹は何れ腐るからな」
「そうね。それに手押しポンプを取り付ければ水汲みが楽になるね」
両親の、井戸掘り中の隆太への期待はかなり大きい。
「未だ未だ金が掛かるな」
父は笑いながら言う。
「良いじゃ無いの。結婚式とか家を建てるとか、そんな費用を前倒しで使っていると思えば」
「そうだな。俺たちは隆太に出来るだけの事をして上げなくちゃ」
良太はそんな夫婦の会話を隆太に語った。
隆太はかなりのショックを受けた。何故なら、両親の会話は隆太が二度と両親や家族の元に戻れないという宣告に等しい内容だったからだ。
微かな希望を与えてくれた父の言葉は、あれは何だったのだろう。あの言葉は単に隆太を激励しただけだったのか?
隆太は、希望の光を打ち消されたような気分に沈む。
「兄ちゃん。隆兄ちゃん。大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。父さんや母さんがそれ程までに俺のことを思ってくれていたなんて、感激しちゃって」
「その顔は違うでしょ。兄ちゃんは二度と俺たちの所に戻って来られないと知ってショックなんでしょ?」
「分かってるなら、余計な事を言うな」
「ゴメン。俺、この話を言おうかどうか迷った。でも、現実はどうにもならないみたいなんだ。兄ちゃんが自分の力で井戸を掘り当てたのなら、一人で生きて行く覚悟も出来るんじゃ無いかと思って」
「それとこれとは違う。井戸掘りの成功が俺を慰めてはくれない」
「父さんや母さんが一番心配しているのは、兄ちゃんが自棄(やけ)になって自殺するんじゃ無いかと」
「馬鹿野郎! 死んで溜まるか。未だな・・・」
「そうだよ。何時か父さんが話していた。洞窟内に骨が落ちて居ないのが一筋の希望だって。少なくとも野垂れ死にした人が居ないのは、洞窟から離れて何処かで生き抜いた証拠になり得るって。兄ちゃんも洞窟から出て、新たな人生を送れるかも知れないよ」
良太は帰って行った。その姿を見送りながら、隆太は改めて良太との会話を思い起こす。
残酷な宣告とも言うべき内容。ただ、良太の最後の言葉は改めて隆太に希望を持たせた。
「落ち込んでいても何も解決しない。良太が行った様に。この洞窟に入り込んだ者達の遺骨などは無かった。つまり、山を下りれば何かしらが待っている可能性がある。それに掛けよう」
隆太は少し気分が楽になった。
隆太は見晴らしの良さそうな木に登る。木登りは小さい頃から得意だ。
辺りを見回すと山間の谷らしき景色が目に入る。
「よし。あの方向に道を切り開き造ろう」
隆太の為すべき事が決まる。
衝撃的な出会い
隆太は目覚めた後、井戸に行く。手押しポンプから流れ出る水は外気温より遙かに温かい。
彼はたっぷりな水で顔を洗う。清々しい。
「井戸掘りはしんどかったけど正解だったな」
思わず独り言が漏れる。
父親が遣って来た。
「隆太、井戸水をペットボトルに入れて来い。ここで待ってるから」
「どうするの?」
「保健所で飲料水に適しているか調べて貰う」
飲料に使えるようになれば、最高の結果だ。
隆太は朝食を済ますと早速山下りの道造りに入る。荒れ放題の山を開墾していくのは結構大変。だが、何時しか家族のも元へ、友達の中に、戻る事を夢見て一心不乱に取り掛かる。
時折高い木に登って方角の修正をする。
3日ほど進んだ時、隆太は木の上から雑木も竹も生えてない土地を見つける。ススキの様な雑草が一面に生えている。
「どうしてあの一面だけ?」
隆太は早速行って見ることにした。
ススキの様な雑草が一面に生えていて、土が見えない。枯れてはいるが消えて無くなってはいない。
木々の森と雑草との分かれ目は意外とハッキリしていた。
「若しかしたら、この辺りは土砂崩れがあって、その土砂が流れ着いた場所なのか?」
確たる自信は無い。が、隆太にはそんな気がするのである。
「結局一人で暮らさなければならなくなったら、この土地を開墾して畑にしようか」
隆太は農家の跡継ぎ。農業関係のことは多少知ってる。
雑草の茂った荒れ地に沿って隆太は下って行く。やがて再び森に突き当たる。
方向を定め、彼はまた道を切り開いて進む。
すると、ハッキリしたものでは無いが、人の気配を何となく感じる。地面を覆っていた雑木や笹などが段々少なくなって来たのだ。
「もう少し下れば、人里に辿り着くかも知れない」
隆太はそんな予感を感じ、気持が明るくなる。
とは言え、既に夕方に近い。山間の日没は早い。取り敢えずその日は一旦帰ることにした。
翌朝、父親に昨日の出来事を話す。
「以外と早く里に辿り着くかも知れんな。村の人の中には見知らぬ者に強い警戒心を抱く人もいる。一応警戒はしとけよ」
父親の助言を受けながら、隆太は直ぐにまた昨日の地点へと向かった。
だんだん道造りが楽になる。
「山の持ち主がこの辺まで手入れしてるのかな? 山菜採りに来てるかもな。だとすると、村に近づいているのか?」
その内に、明らかに人が整備した様な、踏み固まった様な「道」と言える物
が見えて来た。
その道なりに下って行くと、遠くに子供達の声が聞こえた。
「やった! 人に会える」
これ程人恋しさを痛感したことは無い。例え子供の声でも、とても愛おしく聞こえる。
隆太は声のする方に進んでいく。すると小さなお社の屋根が見えて来た。更に近づくと、数人の子供達が前を歩く子供を木の枝で叩いている。
「此処から出て行け!」
「疫病神。二度とおら達の所に来るな!」
子供は残酷でもある。口々に罵り、今にも倒れそうな子を後ろから叩いている。
「こらー!」
隆太は怒鳴りながらいじめっ子達を追い払う。子供達は一斉に逃げ去った。
虐められていた子供は倒れ、起き上がらない。隆太は駆けよりその子の様子を見る。
ボロボロになった「どてら」を身に纏い、僅かに体を震わせる。
泣いていた。声にも成らない声で。
隆太は状況が飲み込めない。が、何とかしなくてはと思う。
「父ちゃん母ちゃんは?」
子は僅かに頭を横に振った。
「家は何処だ?」
同じく力なく横に振る。
「浮浪児なのか? あーあ。こんなに痩せちゃって。飯食ってないんだろ」
隆太はリュックから握り飯やおかずを取り出した。
子供の体を抱き起こすと、ステンレスボトルの蓋に温かいお湯を注ぎ。国に運んだ。子は少しづつ飲み込む。
「握り飯食べられるか?」
子は何も応えない。薄汚れた頬には、半開きの瞼からは涙の流れた後がある。
「可哀相に」
隆太は握り飯を一粒二粒と箸で掴み、子の口へとは運ぶ。噛む力も残っていないのか子供はむせびながらもそれを飲み込む。
隆太は子供を抱き上げ、木に持たれさせた。
「何手軽い子なんだろう」
そう感じると同時に、
「この子を守って上げたい。死なせたくない」
そんな気持が隆太の心に湧いて来る。
子供の体を見ると、手足はしもやけとあかぎれで血が滲み出ている。隆太には手持ちの薬は無い。
「帰る家がないのなら、俺んとこに来るか? 傷の手当てをして遣るから」
子は瞼を上げ、頷いた。
隆太は子供をおんぶして、山道を洞窟へと向かう。子の余りの軽さは隆太に疲れを感じない。
「恐らく、食い物なんて殆ど食べてないんだろうな。両親が居ないんじゃそうなるよな」
陽が落ちる頃。隆太は子供を洞窟へと連れ帰った。
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