第14話 探索者パーティー
第三層の薄暗い通路で、俺は三人の探索者を相手に短槍を構えていた。
「なんだ、やる気か? そっちがその気なら、容赦はしねぇぞ」
リーダー格の背の高い男が、片手に持った伸縮式の武器を構え、冷たい目で俺を射抜く。
(ヤバい。これは完全にケンカを売った状況だ)
俺はただ、「不法侵入者には屈しない」というホームレス時代の矜持で反射的に武器を向けただけだ。
しかし、相手はプロ。
その後の会話で俺は致命的なルール違反を犯していたことに気づかされた。
「おっさん、あんた、探索者じゃないだろう」
「ああ、ただのホームレスだ」
俺の答えにリーダーは鼻で笑った。
「じゃあ知らないか。探索者界隈ではな、相手に武器を向けるということは決闘を意味するんだぞ」
決闘……。
俺の背中に冷や汗がドッと噴き出した。
探索者パーティと決闘? 自殺行為だ。
俺の心の中は猛烈な後悔と恐怖でいっぱいになった。
ここは、素直に非を認めるしかない。
「あの……その、決闘の件なんだが」
俺は短槍の先端を少し下げ、引き攣った笑みを浮かべた。
「いまさらだが、撤回できるか?」
リーダーは、その場でフッと笑った。
隣にいた小柄な女探索者も、声を上げてクスクスと笑い始めた。
「ハッ! なんだそりゃ。探索者に決闘を申し込んですぐに撤回か」
リーダーはそう言って、構えていた武器をゆっくりと下げた。
「今回は、あんたがルールを知らなかったみたいだしな、見逃してやる。だがな、他の探索者には通用しないからな。命を落とすぞ」
なんとか戦闘を避けられたことに、俺はホッと胸を撫で下ろした。命拾いした。
「助かった。ありがとう」
「礼はいい。それより、あんた何しにこんな深くまで来たんだ? F級ダンジョンとはいえ、第三層は素人が来るところじゃないぞ」
俺は探索者パーティの三人を岩壁に座らせ、泉の水筒を差し出しながら、尋ねた。
「あんたらこそ、こんな奥まで何しに来たんだ? ギルドの依頼か?」
リーダーは水を受け取ると、警戒心を解きながら話し始めた。
「ああ、そうだ。俺たちはギルドの正規探索者だ」
彼らは自分たちの所属や、探索者界隈のルールについて説明してくれた。
「俺たちが所属しているのは、Cランクパーティだ。ちなみに、俺がCランク。こいつら二人はDランクだな」
「Cランク? Dランク?」
「ああ。探索者にはランクがある。下からF級(初心者)、E、D、C、B、Aときて、最上位がS級だ」
リーダーは説明を続ける。
「このダンジョンは一応F級だが、最深部の第三層までくるとD級のモンスターも出る。俺たちくらいの実力がないと、まともに調査もできないってわけだ」
なるほど。コウジも「探索者のライセンス」を持っていると言っていたな。
「ギルドの依頼内容は深層階の調査だ。最近、このF級ダンジョンにしては異常な亜種のモンスターが目撃されたという報告があってな」
そこで、女探索者がリーダーの腕を掴んだ。
「リーダー、内部情報です。これ以上は……」
「そうだな。このおっさんは配信者だしな。余計な情報は漏らせねぇ」
「大丈夫だ、配信者って言っても、ただのホームレスだから」
「ところで、おっさん。あんたの持っているその短槍はどこで手に入れた?」
リーダーは俺の短槍を見た。
「初期装備だがホームレスが買える代物じゃない」
「ああ、これか。俺を配信してる若者の一人で、コウジ君って子にもらったんだ」
その瞬間、探索者三人の顔色が一斉に変わった。驚愕し目を見開いている。
「コウジだと? まさか、そのコウジって、久遠コウジか!?」
リーダーが、血相を変えて俺に詰め寄った。
「さぁ、苗字は知らないな。ただのコウジ君だ」
「じゃあ、顔は?」
「茶髪の整った顔した、口数の少ないイケメンだよ」
小柄な女探索者が、興奮した声を上げた。
「間違いありません! このおっさんの配信にちらっと映ってたの、やっぱり久遠コウジですよ!」
リーダーが、信じられないものを見る目で俺を見た。
「あのな、おっさん。久遠コウジってのは、とんでもないエリートだぞ」
リーダーは、息を整えながら、久遠コウジの経歴について詳細に語り始めた。
「久遠コウジはな、探索者になってわずか一年でBランクまで駆け上がった、史上最速のルーキーだ。彼の戦闘技術は群を抜いている。だが、それ以上に有名なのが、彼の兄貴だ」
「兄貴?」
「ああ。久遠コウジの兄貴は、ギルドの中でもたった数人しかいないS級探索者の一人。『鬼神の大剣』久遠イッキだ。彼は、日本でも数本の指に入る最強の探索者だ」
「鬼神の大剣」の弟。最速のBランク。俺の一緒にキングラットを食っている、あの口数の少ないコウジが?
俺はコウジの正体に、改めて呆然とした。
「そんな凄い人が、なんでホームレスの俺の護衛なんか……」
「俺たちが知るか。だが、久遠コウジがバックについてるなら安心だな」
彼らは調査を終え、地上に戻る途中だという。
「おっさん。この第三層にいる強力なモンスターは、さっき俺たちが倒したから、しばらくは安全だろうが気をつけて行けよ」
「ああ、ありがとう」
探索者パーティの三人は、俺に挨拶をして、第二層への通路を登っていった。
(まさかコウジ君が、そんなすごい人だったとはなぁ。確かにあの戦闘力はタダ者じゃなかったからな)
俺は改めて短槍を握りしめ、第三層へと足を進める。
恐怖はない。S級探索者の弟の短槍を持っているという事実に妙な安心感が湧いていた。
通路をさらに数十メートルほど進むと開けた空間に出た。
そこには、身の丈四メートルはあろうかという巨大なモンスターの骸が横たわっていた。
その姿は、全身が硬い鱗に覆われた、巨大なトカゲのようだ。
間違いなく先ほどの探索者パーティが討伐したのだろう。その圧倒的なスケールに、俺は息を呑んだ。
俺は、その巨大なモンスターの骸を、食い入るように眺めた。
(背中側の鱗が硬い。だが内側には切り込みやすい箇所がある)
俺の目は巨大なモンスターの死骸を、素材の山として認識していた。
俺のクリエイター魂が、またしても火を噴いた。
「この素材があれば……俺の居城の壁材が作れるじゃないか!」
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