第7話

命を絶ったはずのその体は呻きながら立ち上がる。

こちらを向いた死体。その腕にはくっきりと噛み跡がありまるでこれが答えだと示しているようだ。

感染し自分の娘を襲わぬようこんな所で最後を迎えることを決めたのか。

できた親だったのだろう。礼儀正しいあの子を見れば分かる。

「すぐに楽にしてやる」



こちらに伸びた腕をしゃがむことにより避け、足元を蹴り上げる。

バランスを崩し後ろに倒れたため瞬時に胸元を踏みつけ身動きをとれない状態にする。

「安らかに眠れ」

一瞬の迷いが自分の命を危険な目に合わせる。

迷いなく、確実に、その頭を潰した。



頬についた返り血を拭い辺りを見渡す。

自殺を図った場所の近くにはご丁寧に身分証明書と「娘をお願いします」と書かれたメモが置かれていた。

証明書には星宮 修一と書いてありひなたに聞いた父の名前と一致する。

あの子にはどう伝えるのが正解だろうか。

あんなに歳が離れた幼子と接した記憶のない僕には感染者退治よりも難しい問題だ。



すっかり暗くなったフロアを戻りひなたを待たせていたスタッフルームのドアをノックする。

「ひなた、瑠璃じゃ。今戻った」

少しの間を置いて扉は恐る恐る開かれた。

「おかえりなさい・・・」

「ああ、ただいま。いい子に待っていたようじゃの関心関心」

「はいっ、あの、おとーさんは・・・?」

「修一さんは忙しいようでな。この天才美少女である僕にひなたを少しの間任せたいそうじゃ」

首を傾げる少女に先程のメモを渡す。



こんなので騙されてくれるのか・・・。

子供は変なところで冴えているとも聞く。

どう言い訳をしようかと悩んでいれば小さな手でメモを握りしめひなたは深く頷いた。

「お世話になりますっ」

「・・・ああ」

片手で簡単に包み込めてしまうその手を引きながら居住地にしている上の階へと向かう。



「ほれ」

「は、はい!」

最後のバリケードを超え、下りるのに苦戦していたひなたの方へ腕を伸ばし小さな体を受け止める。

6歳だと言っていたがこうも軽いものなのか?食べれる時に栄養のあるものを与えねば。

それに、

「我々はもう他人じゃなくなった。敬語じゃなくともよいぞ」

「でも年上には敬語をって・・・」

「うーむ、ならばこうじゃ。僕とひなたは今から友達じゃ。友達なら敬語じゃなくてもよかろう?」

「・・・友達。わか、り────わかった!」



ため口はまだ違和感があるようだが、初めて見た笑顔にこっちまで嬉しくなってしまう。

己の母性を刺激されついその頭を撫でてしまうというもの。


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