第5話
「ひっ・・・、ひっく、」
そこにはぬいぐるみを手に、膝を抱え泣き続ける少女。
顔が見えず歳を予想するのは難しいが背丈を見る限りは小学校に入るか入らないかの年齢だろう。
「お主、生きておるのか」
こちらに気付かず泣き続ける相手に向かって声をかける。
肩が跳ねたかと思えば恐る恐る顔を上げ、ぬいぐるみを掴む腕に力を入れる少女。
「あ、あなたはっ、神様ですか・・・?」
泣かれては困るなと思いながら刃を向けていた僕にこの子はその大きな瞳を揺らしながら口にした。
その言葉に瑠璃は驚く。
血だらけの刃を向け、心配する素振りも見せないそんな相手に神様?
「っふ、なんじゃ新手の勧誘かなにかか?最近の連中はこんな幼子も利用するのか?」
「ごめんなさいっ!助けてって神様に祈ってたからてっきり・・・」
「よいよい、理由はどうあれ貴様は僕を見て神と言った!見る目のあるお主を気に入ったぞ!」
よく見れば胡桃色の柔らかそうな髪を二つに結んだ少女の顔は整っている。
将来は今以上に整った容姿になるのは確実だろう。実に愛らしい。
「お主、名前は?」
「星宮 ひなた(ほしみや ひなた)、です」
「僕は篠月 瑠璃という。僕に相応しい名だろう?覚えておくといい。お主一緒に来るか?」
「い、いいんですか・・・?」
ひなたと名乗った少女は心配そうにこちらを見上げる。
「うむ!実に気分がいいからな!」
現在安全を確保できた場所には室内プールもありシャワーも浴びれる。バックヤードには従業員の休憩スペースがありソファに電子レンジ、小さいながら冷蔵庫もある。
生活水準は潤っている方だ。
気分がいいというだけで連れて行こうなんて無責任に思われるだろうが現状よりは辛い思いはさせずに済むだろう。
「でも、」
「なんじゃ素直に頷けない理由でもあるのか?」
やはり出会ったばかりの人物を信用するのは難しいだろうか?
腰を下ろし視線を合わせるように話かける。
「おとーさんが、帰ってこないんです・・・。怖い人たちに襲われて、それでここで待ってろって言ってたから待たないと・・・」
父親・・・、なるほどこの階の感染者が少ないのはこの親子が理由か。
父親の特徴を聞くもこれまでに出会った感染者にそれらしい人物はいなかった。
ならばまだ生きてる可能性はゼロではない。
リスクはあるものの男性が仲間に加わればできることは増えるというもの。
「僕が探してこよう。お主はここで鍵を掛けて待っておれ」
不純な動機もあるのは目を瞑っていただきたい。
水と食料を分けスタッフルームにて待つよう指示をする。
「あ、ありがとうございますっ!おとーさんをお願いしますっ」
あんな期待に満ちた顔をされれば応えたくなるというもの。
鍵が掛かったことを確認してから店を出た。
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