第6話  二つの災難



 応接室に入ると、そこには再び居座るカリオスの姿があった。彼の表情には気まずさが見え隠れしているが、何かを訴えたい気持ちがその態度に滲んでいた。


ラヴェンナは冷静な微笑みを浮かべながらも、その瞳には明らかな拒絶が宿っていた。


「カリオス様、本日はどういったご用件でしょうか? 以前、二度と来訪されないようお願いしたはずですが……。」


その言葉に、カリオスは少しだけ顔を歪めたが、すぐに取り繕った表情で言葉を返した。

「いや、最近の噂を聞いて心配になってな。君が無理やりアレックス伯爵との婚約話を進められているんじゃないかと思って……。」


その発言に、ラヴェンナは内心深くため息をつき、呆れ返る気持ちを抑えるのに苦労した。

(またその話ですの? 彼がどこまで私の人生に干渉するつもりなのか、全く理解できませんわ。)


しかし、彼女は外見上の冷静さを崩さずに答えた。

「カリオス様、ご心配はありがたいのですが、私のことはすでにお忘れいただけるようお願いしたはずです。お忘れになったのですか?」


カリオスは言葉に詰まり、一瞬だけ視線を泳がせた。


「いや、僕はただ、君が幸せかどうかが気になって……。」


その言葉を聞いたラヴェンナは、冷ややかな微笑を浮かべながらきっぱりと言い放った。

「カリオス様、私の人生に関わる必要はもうございませんわ。そして次回からは、門前払いですわ。」


その一言には、完璧な礼儀の裏に強烈な拒絶の意志が込められていた。カリオスの顔には明らかな動揺が走り、彼は言葉を失ったようだった。



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予想外の来訪者


その時、扉の外から執事の声が聞こえた。

「お嬢様、アレックス伯爵がお越しになりました。」


ラヴェンナは内心驚きと疲労を同時に感じた。

(このタイミングでアレックス伯爵が来るなんて……これは何かの試練ですの?)


間もなく、アレックス伯爵が堂々とした足取りで応接室に入ってきた。彼の存在感が部屋全体を圧倒し、カリオスは不満げな表情を浮かべた。


「ラヴェンナ様、突然の訪問をお許しください。」


アレックスが礼儀正しく頭を下げるのを見て、ラヴェンナは冷静に返答した。

「いえ、問題ございませんわ。お越しいただきありがとうございます。」


しかし、その場にカリオスがいることに気づいた瞬間、アレックスの表情が険しくなった。


「これは……カリオス侯爵の次男殿。一体ここで何をしているのですか?」


カリオスはやや気まずそうにしながらも、すぐに平静を装った。

「ただ、旧婚約者として彼女の幸せを確認しに来ただけだ。」


アレックスはその言葉に不快感を隠さず、冷静に問い返した。

「旧婚約者が、現婚約者候補の家庭に介入するのは不適切ではありませんか?」


「不適切かどうかは関係ない。僕は彼女を心配しているだけだ。」


二人の間に火花が散るような緊張感が漂う中、ラヴェンナは頭を抱えたくなる衝動を抑えながら、毅然とした声で二人を制した。


「お二人とも、ここは私の屋敷です。争いの場ではありませんわ。」


しかし、彼女の言葉を聞いても二人はその場で口論を続けた。


「君こそ、彼女と終わった関係なのだから引き下がるべきではないか?」

「守ると言うなら、彼女がそれを望んでいるか確認すべきだろう!」


二人の声が次第に大きくなり、応接室の空気が張り詰めていく。その状況を見て、ラヴェンナは心の中で叫んだ。


(生理的無理タイプ1と2の争いなんて、誰も望んでいませんわ!)



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嵐の後


執事の機転により、ようやく二人を別々に退室させることができた。ラヴェンナは深いため息をつき、椅子に深く座り込んだ。


(これ以上、こんなことを繰り返すわけにはいきませんわね。)


彼女は再び訪れるであろう混乱を回避するために、次の手を考える必要があると感じていた。


「本当に、次回からは門前払いにしますわ。これ以上の無駄な騒動は御免ですもの。」


彼女の瞳には決意が宿り、表情には毅然とした強さが浮かんでいた。



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