人生をやり直せるお店
黒兎 ネコマタ
お客様
人間、誰しも人生をやり直したいと思う瞬間があるだろう。
例えば、大好きなあの子に振られた時。会社で大きなプロジェクトでミスしてしまった時。もしかしたら、一生病院生活になるほどの重症を負った時かもしれない──
ここはそんな「人生をやり直したい」という願いを叶える場所。どの時代のどんな場所だろうと、人生に絶望し強く強くその願いを抱いた者の前に現れる場所──
今日も今日とて、お客様がこの場所に足を運ぶ。
「騙されたんだッ!! あの詐欺師のせいで俺の人生は──ッ!」
目の前に座る二十代前半と思われる男性は、唾を飛ばしながら机をドンッと叩いた。
話を聞く限り、この男性は誰かに騙され財産、社会的地位、家族などなどの何もかもを失ったらしい。
この人の言うところの詐欺師の顔でも思い出したのか、どんどん口調が悪くなる男性に対して私は一枚の紙を差し出した。
男性は我に返ったのか、すみませんと短く謝った後、紙に目を通した。
ここに書かれているのは、人生をやり直すときの注意点と金額だ。要点だけをピックアップすると次の二点に絞られる。
一,人生をやり直すことはできるが、記憶は失われる
一,やり直したい瞬間が昔であればあるほど、金額は上がっていく
私は男性が全て読み終わったのを見計らって、声をかけた。
「お客様は、どの瞬間からやり直したいですか?」
「この金で、できるだけ最初から……」
男性が出したのは、少し高めの腕時計が買える程度のお金だった。きっと彼にとって出せる全財産なのだろう。
大抵のお客様がそうだ。どうせやり直すのだから、と全財産を使う。
「これだけあれば、お好きな瞬間やり直せますよ。そうですね、生まれた瞬間からでも大丈夫です」
「っ! ぜひ! ぜひそれで頼むッ!!」
男性は目に光を宿し私の手を取った。私は軽く微笑むと、そっと男性の顔の前に指パッチンの構えを取った。
「では、いきますね。今度こそ良い人生を送れることを願っています」
パチンッと指を鳴らした瞬間、男性は消えた。彼は人生をやり直したのだ。きっと、今頃産声をあげていることだろう──
それにしても、人間はやはり愚かだなぁ。
記憶をなくして人生をやり直したら、どうなるかわからないのだろうか?
ふふっ、ふふふっ。あの男性と話したのは、さっきので何回目だっただろう。何度も何度も何度も、さっきの光景を見てきた。
私は人間たちにいつか問いたい。
あなたの人生、実は何十回目だったりして?
人生をやり直せるお店 黒兎 ネコマタ @123581321346599
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