パチンコ係の同僚リル

 結論から言うと、ゲームセンターは大盛況だ。

 やはり多様な筐体があることが話題を呼び、遠方からの客も増えている。

 何より、深夜帯も稼働していることにかなりの需要があるようで、終電を逃したリーマンが駅近のここにブラックホールのように吸い寄せられている。

 なんせ、一般者利用可能の仮眠室とかあるんだもん。そりゃ、カプセルホテルとかいくよか全然良いだろう。


 ちなみにうちはかなりの親切設定で、クレーンのアームは強いし、アーケードやパチンコは一種類に二台以上は完備しており、昔の筐体も普通に動く。

 何よりメダルが百円で三十枚と、かなり破格である。普通に俺も遊びたいと思ってしまう。



 あともう一つ、店の内装がどこか秘密基地のようで男心を擽られる。さらに、店員は全員フードを目深に被っていることからも、物珍しさに拍車をかけている。まぁ、これは同僚の色々を隠すためなのだが。


 一階がクレーンとアーケード。二階がメダルとパチンコになっており、俺は基本的に二階のカウンターでリルさんと一緒にいる。

 


「……………………」

「……………………」


 この人、何考えてるのか本当に分からないんです……………!ずっと、ヌボーっとした顔で虚空を見詰めているのだ。

 しかし、仕事は出来る。対応も無言だが的確だし、ポンチョ越しにも身体のラインが分かるせいか、パチ打ちのオッサン達からかなり人気である。

 しかも、メダルで分からないところはリルさんが代わりに対応してくれたりと、大助かりだ。

 だからこそ、仲良くなりたい。それに、業務中ずっと無言は流石にきつい。主に精神的に、ずっと筐体の音しか聞いてないせいか、会話に飢えている。


「リルさん。」

「ん?」

「リルさんって、何か好きなこととかありますか?」

「ん……………仕事?」

「そうなんですね。やりがいがあるからとかですか?」

「ん……………それしかやることないから。」

「…………………」

「…………………」

 

 続かねぇ!


「そういえば。」

「え?」

「家、大丈夫?」

「あ、はい。ミーちゃんさんが給料先払いしてくれたので、そこそこ安定してます。これから働いて返さないと。」

「そう、良かった。」

「心配してくれてたんですか?」

「ん、そこそこ。」

「ありがとうございます。」


 珍しく話しかけてきたと思ったら、こんな風に気遣ってくれるとは。やっぱりもっと仲良くなりたいな。



「あ。」

「?」

「そうだ………………」

 

 独り言のようにリルさんが呟くと俺の後ろに立った。

「リルさん?」

「……………………………………」

 何をしてるんだ?


 今日の業務中、リルさんはずっと俺の後ろにいた。




次の日も









次の日も











次の日も












 リルさんは俺の後ろにピタリとくっついていた。


「あの。」

「おや?空美くんかい?入ってーどったのー?」

 ミーちゃんさんの個室にノックをして失礼する。

「実はリルさんが…………………」

 俺は身体をずらし、未だに後ろに張り付いているリルさんを見せた。

 二階のカウンターはナーコさんに任せた。

 ナーコさんは、今の現状をみてにやにやと笑っていた。


「ありゃ!?」

 ミーちゃんさんは驚いたように叫ぶと、次の瞬間。

「アッハッハッハッハッ!」

 腹を抱えて笑いだした。

「え?」





「ハァーおかしい。空美くん、リルちゃんの目尻、ちょっと下がってない?」

「え?」

 俺はそう言われてリルさんの目元を見た。

 ………………確かに下がっているような?


「これがどうしたんですか?」

「ミャッハッハッ、それね、リルちゃんが発情してるってことよ。」

「んゑ!?」

「もちろん、君にね。」

「ゑゑ!?」

 は、ど、え!?

 少し自分の顔が赤くなっているのが嫌でも分かる。

「でも残念。」

 ミーちゃんさんはいつの間にかリルさんの後ろにいくとヒョイと持ち上げて背中におぶった。

「リルちゃん達エルフはね、意中の相手に魔力を飛ばして相手の魔力と結合すると新たな命を授かるんだよ。だから君たちみたいにズコバコしないから期待しないでね。」

 ミーちゃんさんが説明している間も、リルさんの目尻は多分下がっている。

「はえ!!別にそんなつもりじゃ!」

 見透かされてた!?くそ、恥ずッ!

「リルちゃーん、空美くんはエルフじゃないから魔力を飛ばしても意味ないよー。それに、空美くんの匂い大丈夫って言ったじゃーん。」

「……………ん、ごめん。でも、奥底に仄かにした。」

「ほっかー。じゃあ仕方ないねー。」

「あの、リルさんが言う匂いって?」

「え?聞いちゃう?聞いちゃう??」

「え?」

「やめといた方が良いと思うなー。」

「………じゃあ、やめとくっす。」

「うん、良い判断だー。戻って良いよ、リルは私が看とくから。」













「それで、リル?ホントはどうなの?」

「………なんの話。」

「リルが発情するのってクズ男じゃーん?空見くんはそう見えないけど。」

「んーん、空見くん奥底に匂いはした。でも今回はそれじゃない。」

「じゃあなんで?」

「…………寂しそうだっから。」

「?」

「子どもがいれば、寂しくないかなって。」

「あはは、思うのは良いけど、人間ってエルフと違って子どもにかなりのお金がかかるんだよー。だから、空見くんこれ以上養う人が増えたら倒れちゃうって。」

「っ!………盲点。ここが森じゃないのを忘れてた。」














 その後、リルさんが俺の後ろをついてくることは減った。そう、減ったなのだ。

 別に嫌ではない、殆ど実害ないし。

 ただ、ミーちゃんさんの意味深な言葉と、業務中に呼ばれたらリルさんもついてくることはだけは、俺の悩みの種となった。

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ちょっと可笑しいゲームセンター 麝香連理 @49894989

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