いつか星の海で

ユウグレムシ

 心と心が通じ合うなんてのは、幻想だ。社会人をやっていれば、結婚は仕方なくするもので、男はみんな敵だってことが、イヤでも身にしみる。けれど人生には、どうしても惚れっぽくなる時期があるのも確かだ。それを“青春”と呼ぶのだが、私の場合、周りの女の子達とは事情がちょっと違った。


 恋に落ちた経験がある人なら共感してくれるはずと思うが、どんなきっかけで誰に惚れるかは予想がつかない。私の初恋は、ぶっちゃけるとロボットアニメだった。女児向けアニメの次の時間帯の番組だったから、孵化したばかりのひよこが初めて見た相手を親だと思い込む“刷り込み現象”みたいに、多感な年頃にたまたま観て惚れただけかもしれない。番組が始まると冷や汗を噴き出し、顔じゅう真っ赤になって、胸が苦しくなり、まともにテレビ画面を観るどころじゃなかった。


 地球を狙う無法者の巨大ロボット軍団を取り締まるために、宇宙警察がやってくる。だが宇宙警察も巨大ロボットの姿のままでは目立ってしまうので、主人公の家のガレージで自家用車に擬態する。主人公のショウタくんは宇宙警察と友達になり、通信機をもらって隊員に任命される。こうして、少年隊員ショウタくんが無法者のロボットを見つけ通信機で宇宙警察を召喚すると巨大ロボットバトルが始まり悪者が懲らしめられる、というストーリー展開が毎週繰り返される。


 まずロボットがイケメンだった。次々登場する新キャラが、重い過去や濃い性格をひっさげて、ひとクセもふたクセもあるイケロボ揃いだった。最初はキャラクターにやられたのだが、宇宙警察のロボット達が地球を守るため戦う姿を観ているうちに、物語のほうにもどんどんのめり込んでいった。

 無法者のロボットどもが手ごわい奴らで、宇宙警察は毎回苦戦を強いられる。どうせ正義が勝つのにストーリーの引っ張り方が上手くて、推しロボが負けそうになれば私は本気で心配したし、傷だらけになってもショウタくんをかばう推しロボの姿にはテレビ画面越しに嫉妬した。あの逞しい腕や広い胸板でかばってほしい!!でも推しロボにとって一番大切な親友は主人公ショウタくんであって、仮に私が番組の中へ入って行けたとしても、“守るべき地球人”ていどのモブとしか認識してもらえなかったろう。


 そもそもアニメキャラに惚れた時点で失恋コース確定だが、番組終了後も恋心はつのり、下手くそな自作絵をラミネート加工して持ち歩くぐらいには引きずった。デパートのおもちゃ売り場では、女児向けよりも男児向けのコーナーが気になって、お母さんには打ち明けられずに切ない気持ちを噛み締めたものだ。

 当時、クラスメートの男子がエロ猿ばかりのアホにしか見えなかったのも、私の片想いを重症にした。クラスメートにあんなイケロボはいない。推しロボは優しい。ごっつい武器をいくつも持ちながら暴力を好まず、正義と平和を愛し、無力な私を守ってくれる。


 現実はクソだ。男はみんな敵だ。社会人は敵だらけの孤独に耐えて生きなきゃならない。思いどおりの恋愛なんてできっこない。


 最終回。地球からの去り際に「また会おう、いつか星の海で!」と推しロボは言った。

 ……待ってんだけどなぁ。

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