第3話 犯人
あれから何回か麻生の家にお邪魔する日々が続いていた。幸治さんは少し心配していたが。私は麻生の独特な雰囲気と性格、絵に虜になっていた。恋愛感情を抱いているわけでなないが、話していると落ち着く。最初よりも印象はだいぶ良くなっていた。
麻生と出会って一週間が経ち、今晩も家にお邪魔しようかと考えながら朝ご飯を作る。朝は質素な食事が多いが今日は少し余裕があるためちょっと豪華だ。二人分の食事をトレーにのせ、二人がいる寝室の前へ持って行く。
「お食事お持ちしました。」
そう言うと中からいつものように幸治さんの声が聞こえた。
「はい。いつもありがとうございます。あ、お料理そこに置いておいてもらって構いませんのでポストの中身を持ってきてくださいますか。」
「はい。」
食事を扉の前に置き、ポストのある玄関へと向かった。ドアの隣にあるポストを開けパンパンに詰まった郵便物を取り出した。週に一回しか取りに行かないためいつも郵便物がたくさん溜まっている。中身は新聞がほとんどだった。
「わっ!」
バラバラに郵便物が詰められているため手に持っていた郵便物が崩れ落ちてしまった。手に持っているものを一旦床に置き落ちた分を拾う。落ちた郵便物の中には、多分この中で一番古いであろう新聞があった。でかでかと書かれた”連続少女失踪事件”の見出し。下の方には今までの被害者全員の写真が載せられていた。中には幸治さんの娘の恵梨香さんもいた。だが恵梨香以外にもいくつか見覚えのある被害者の女の人の写真があった。どこか出会ったような気がするが名前に見覚えはない。必死にでかかっている記憶を思い出そうとする。こういうのは思い出さないと気持ちが悪い。
ぼんやりとその女の人の斜め下をむいた様子が思い出される。私はこの人とどこで会ったのだろう。この時私は、、、、私は、、、、
『元々付き合っていた女性なのです。』
思い出した。麻生に見せてもらった。あの絵、恵梨香の絵と一緒に見たななめ下を向いた髪の短い女性の絵とよく似ている。だから何だという話だが、連続少女失踪事件の被害者となっているのは全員で十二人。そのうち二人の絵が麻生の家にあった。二人なんて合計の一割にも満たないが、こんな偶然あるだろうか。このような想像は私の悪い癖だ。でも一割にも満たなくても二人という人数は人間で考えると多い方だ。交際していた女性が二人とも失踪したと知ったら麻生にとっては恐ろしいことだろう。
もしかして麻生がこの事件の犯人なんじゃないか____?
根拠もないのにそんな想像が頭の中に浮かぶ。この想像は私の悪い癖だ。今日麻生の家に行ったら絵を見せてもらったときに他の被害者の絵がないか確認しようと思い、私は連続少女誘拐事件が載せられた新聞をこっそり懐に忍ばせた。そしてその他の郵便物を二人がいる寝室へと運んでいった。
今日の仕事も終わり空が暗くなってきた午後八時。麻生の家にお邪魔する時刻にもなって来た。今朝の新聞の被害者写真部分のみを切り取り懐に小さく折って忍ばせた。別に疑っているわけじゃない。麻生とその被害者との関係性を調べるだけだ。そう心の中で言い訳をしながら、玄関へ行って靴を履く。引き戸を開けると月の光がじんわりと地面を照らしていた。街灯も乏しく人気の少ない道を早歩きで抜け、麻生の家をと向かっていく。数分歩いたところで麻生の家へとたどり着いた。階段を登り麻生の部屋の戸を叩いた。
麻生の部屋の中に入り、奥の一番大きな部屋に入ると、もう既に二人分の湯呑が置かれていた。
「貴女が今日も来ると思って用意していました。どうぞ飲んでください。」
「ありがとうございます。」
そう行って私は用意された湯呑に口をつけた。暫く雑談をしたあと、今日麻生の家に来た目的を思い出した。
「麻生さん。絵、見せてもらえますか?」
私がそう言うと麻生は大きく目を見開いて私の手を掴んだ。
「それは、、、、、本当ですか!?」
「え、、あ、はい」
そんなにおかしなことを言っただろうか。
「貴女から言ってくださるなんて、、、光栄です。それでは思う存分見てもらって構いません!!」
本当に絵に関しては情熱がある男だ。別に麻生の絵が好きでみたい訳じゃないため少し罪悪感がある。そう考えている間にも麻生は押し入れを開け、次から次へとキャンバスを出してきた。人物画もあるが風景画、抽象画など様々なジャンルの絵があった。
「女の人が描かれている絵がみたいです。」
そう言うと麻生はキャンバスの中から女性が描かれた絵を取り出し私に差し出した。女性が描かれている絵だけでも数は多く、残りの被害者は十人だから、かなりの時間が必要だろう。黙々と被害者かどうかを選別していく。
「すごい早さで見ますね。何か探しているのですか?」
「えぇ、、まあ。」
悟られては行けないとそのように誤魔化した。更に見ていっても見当たらず諦めかけていたその時。長い黒髪に凛とした瞳。第五か六番目の被害者、、、
「麻生さん、この絵の女性すごくきれいな女性ですね。誰かモデルが居るんですか?」
「ああそれか。それは知り合いの京子という女性だ。」
”京子”、、、、、、!!
名前が一致しているということは同一人物と考えてもいいだろう。胸騒ぎが止まらない。頭の中が全て繋がったような、快感と恐怖が鈴江を襲った。だが決めつけるのはまだ早い。そう心のなかで思っていた。
しかし、その後も探していくと第十番目の被害者、第三か四番目の被害者など、被害者の女性に似ている絵がどんどん見つかっていった。流石に名前を聞くのは悟られてしまうため聞けなかったが、こんなに見つかってしまってはもう言い訳はできないだろう。
連続少女誘拐事件の犯人は麻生だ___。
そう心の中で一つの答えが導き出された。明日、麻生を問い詰める。そう、強い意志を心の中に残し、麻生の家を後にした。麻生はいつもと同じように私を見送ったため、私が勘付いていることはバレてはいないだろう。
明日、麻生を問い詰めるのは少し、いやものすごく怖い。犯人だという証拠もよく考えればないのに。でも私は犯人は麻生だと疑わなかった。
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