歌う影

@akaimachi

歌う影

鳥たちの歌声が聴こえた。


「たち」と複数で表したのは、その音があまりにも賑やかな流れだったからだ。

きっと公園の大きな木に、数百羽のムクドリかスズメが集まっているのだろう。その大合唱の光景を想像し、少しだけ心が軽くなるのを感じていた。

その音の所在に向けて目を移すと、私は驚いた。

そこにいたのは、たった一人だったからだ。

公園のベンチに座り、彼は、いや、彼女は、性別こそ判然としないが、銀色のフルートを構えていた。その体は、楽器が生み出す音の群れに寄り添うように、静かに、しかし力強く揺れていた。

奏でられている音は、まさに鳥たちの合唱そのものだった。

高音はひばりのように空へ舞い上がり、中音域は森の奥で囁く鳩のよう。一本のフルートから発せられているというのに、そこには複数の管楽器がいるような音の層があり、まるで多声の鳥の群れが楽しげに追いかけっこをしているようだった。

それは技巧的な演奏というより、生命の躍動だった。

彼の指先がキーを打つたび、銀色の管体から、世界が失いかけていた**「賑やかさ」と「歓喜」**が溢れ出した。周りの人々は、その光景に気づいていないか、気づいてもただのBGMとして通り過ぎていく。だが、私にはわかった。この一人の奏者が、孤独なベンチで、世界で一番豊かなオーケストラを指揮しているのだと。

そのたくましさに、私の頬は自然と緩んだ。

それは、音の正体が「鳥たち」ではなく「フルート」だったことへの驚きではない。たった一人の人間が、その技術と情熱をもって、生の喜びを、かくも豊かで壮大な「歌」として表現していることへの、純粋な賛嘆の微笑みだった。

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