第3話
夜風が木々の枝を揺らし、月明かりが道を淡く照らしていた。焚き火の火がぱちぱちと音を立て、カイと新たな仲間――小柄な少女リナ――はそのそばで肩を寄せ合っていた。
旅を始めてまだ数時間。互いのことを多くは知らない。だが、リナの目には不思議な光が宿っていた。強がりでもなく、恐怖でもなく、何かを“決意”した者の目だった。
「ねえ、カイ。あの赤い星、見える?」
リナが焚き火越しに指さす。
空を見上げたカイは、星座の間に一つ、異様に赤く輝く光を見つけた。
「星……じゃないな。あんな低い位置にあるはずがない。」
「うん。私もそう思った。あれ、ずっと私たちを追ってるの。」
カイは思わず腰の剣に手を伸ばした。森の奥から、風とは違う気配が漂っている。生き物の息づかい。けれど、あまりに静かだ。
その“静寂”こそが不気味だった。
リナは膝を抱え、ぽつりと呟く。
「……あれを見た人は、三日以内に姿を消すって、村で言われてたの。」
カイはリナを見つめた。彼女の表情には恐怖と、どこか諦めのような影が浮かんでいる。
「そんな言い伝え、気にすることない。俺たちは生き延びる。」
そう言って笑おうとしたが、その声は震えていた。
次の瞬間、森の奥から低いうなり声が響いた。
焚き火の炎が一瞬ゆらぎ、まるで風が吸い込まれたように消えた。闇が一気に二人を包み込む。
「走れ!」
カイはリナの腕を掴み、闇の中を駆け出した。
背後で、地面を引きずるような音と、木々が裂ける音が響く。振り返れば、赤い光が二つ、確かにこちらを追っていた。
それは目だった。
人のものでも、獣のものでもない、底なしの闇を宿した“何か”の目。
カイは必死に走りながらも、胸の奥で奇妙な既視感を覚えていた。
――この気配、どこかで感じたことがある。
夢の中で見た、黒い塔。崩れ落ちる大地。
そしてあの声。
『選ばれし者よ、災厄を導け。』
息を切らしながら、カイはリナを抱き寄せ、叫ぶように言った。
「絶対に離れるな!」
森を抜けた瞬間、赤い光がふっと消えた。
代わりに、夜明け前の薄明が空を染めていた。
静寂が戻った道の上で、二人はしばらく言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
やがてリナが、震える声で問う。
「……あれ、いったい何だったの?」
カイは空を見上げた。まだ遠く、赤い星がかすかに瞬いている。
「わからない。でも――あれは、俺たちの行く先を知っている。」
その言葉は、夜明けの冷たい風に溶けて消えた。
そして、彼らの運命を決定づける“災厄の旅”が、静かに始まったのだった。
荒タオルの大冒険 荒井たる @aratrou
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