荒タオルの大冒険
荒井たる
第1話
カイは、重いまぶたを開けた。
気づけば彼は、石造りの天井と木の梁が組み合わさった見知らぬ部屋の中に横たわっていた。ベッドは粗末だが清潔で、窓の外からは鳥のさえずりと人々の話し声が聞こえる。
「……ここは?」
頭の奥に霞のような靄がかかっている。自分がなぜここにいるのか、思い出せない。だが、胸の奥には一つだけ確かな感覚が残っていた。――戦う力を持っている、ということ。
ドアが軋む音と共に、村娘らしい少女が入ってきた。栗色の髪を二つ結びにした、快活そうな瞳の持ち主だ。
「よかった! 気がついたんだね。あなた、森の外れで倒れていたのよ。魔物にやられたのかと思ったけど、怪我は軽いみたい」
「……助けてくれたのか?」
「うん。私はリナ。この村の治療師見習いなの。ここは《アルデン村》っていって、王都からは遠いけど、わりと穏やかな場所よ」
彼女の言葉を聞いていると、外から鐘の音が鳴り響いた。続いて慌ただしい叫び声。
「大変だ! 東の門が破られた! ゴブリンの群れだ!」
リナの顔が青ざめる。
「まさか……村に直接襲ってくるなんて……」
カイの胸の奥が熱くなった。理由はわからない。けれど、このまま見過ごしてはいけない気がした。
「武器はあるか?」
「えっ?」
「戦える。……いや、戦わなくちゃいけないんだ」
カイはベッドから飛び起きる。身体は不思議なほど軽く、手足の動きも迷いがなかった。リナは戸棚から古びた剣を取り出し、彼に渡す。
「これ……お父さんの形見。使って」
「借りる」
剣を握った瞬間、彼の中に熱い力があふれ出した。鋼の感触、重さ、そして刃が放つ気配――どれも懐かしい。そうだ、やはり自分は「戦士」なのだ。
――戦闘開始
村の広場へ駆けつけると、すでに数体のゴブリンが木製の柵を乗り越え、住民を追い回していた。粗末な棍棒を振りかざし、黄色い牙をむき出して笑う。
「グギャァアッ!」
恐怖で後ずさる農民の前に、カイは飛び込んだ。
「下がれ!」
剣を横に払う。鮮やかな弧を描いた刃が、ゴブリンの棍棒を弾き飛ばす。そのまま踏み込み、胸を一閃。緑色の血が飛び散り、ゴブリンが倒れ伏した。
残りのゴブリンたちが一斉に彼を睨みつける。
その瞬間、頭の中に不思議な光が浮かんだ。
――スキル解放:〈ブレイブスラッシュ〉
カイの体が自然に動く。剣を大きく振り下ろすと、青白い光の刃が走り、二体のゴブリンをまとめて斬り裂いた。
村人たちがどよめく。リナが駆け寄ってきて、震える声で叫んだ。
「すごい……あなた、一体何者なの?」
カイは息を整えながら、空を見上げた。
雲の切れ間から、遠く王都のある方向へと光が差していた。
「……まだ、思い出せない。でも――俺は戦わなきゃいけない。ここから始めるんだ」
こうしてカイは、アルデン村を守ることで、自らの「冒険の始まり」を掴むこととなる。
その旅路は、仲間との出会いと、数多の試練に満ちていた。
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